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SUPER BEAVER、最低な2020年の中で届けた“最高の瞬間” ライブハウスでの再会誓った横アリ生配信ワンマン

リアルサウンド

20/12/15(火) 19:00

 12月9日、SUPER BEAVERが無観客ライブ『SUPER BEAVER 15th Anniversary 都会のラクダSP〜全席空席、生配信渾身〜 @横浜アリーナ』を開催した。本来であれば15周年を記念するワンマンツアー『続・都会のラクダ TOUR 2020~ラクダの前進、イッポーニーホー~』のファイナルが行われるはずだったその日、その場所。そのツアーのチケットの払い戻しを希望しなかった――つまり誰よりもツアーの開催を願っていた人に向けて届けられた前日の配信『SUPER BEAVER 15th Anniversary 都会のラクダSP~特大のラクダ 、イッポーニーホーサンポー~』に続いて、YouTubeで無料配信という形で行われたこのライブをレポートする。

 真っ暗な横浜アリーナの中心に作られた円形のステージ。渋谷龍太(Vo)が手を打ち鳴らすと、オレンジの光がお互いに向かい合うように立った4人の姿を浮かび上がらせる。そして静かに歌が始まる。目をつむってギターを鳴らす柳沢亮太(Gt)、1音1音を確かめるようにベースを弾く上杉研太(Ba)、そして優しくスネアを叩く藤原“32才”広明(Dr)。丁寧に奏でられ始めたのは「ひとりで生きていたならば」だ。そう、丁寧。この日のSUPER BEAVERのパフォーマンスを一言で言い表すならば、その言葉がもっとも似合うだろう。

 ライブバンドを身上とする彼らにとって、観客がいないという「異常」な状況のなかでライブを行うというのは、とても難しくて悔しいことだったはずだ。7月に配信した『SUPER BEAVER 15th Anniversary 都会のラクダSP ~LIVE document~』では配信ライブ自体をその前後のドキュメンタリーも含めたひとつの「作品」として届けることでその状況に対してひとつの「答え」を提示するものとなったが、それとはまた違った形で、この日のライブもまた、向き合うべき「あなた」が目の前にいないという状態に対して真っ向から向き合いながら音楽を届けるべくもがく4人のドキュメントそのものだった。

 2曲目「突破口」、一気にギアを上げたアンサンブルに乗せて〈今をやめない やめない やめない〉と4人の声が重なる。カメラを指差しながらそこにある見えない壁をぶっ壊すように熱い歌を届ける渋谷は、曲が終わると「元気?」とオーディエンス(とメンバー)に語りかけた。しかしその流れで「本当のこと言いますと、無料っつうのはどうなんだろうと思ってるんですよ」と正直な気持ちをぶちまけるのが彼らしい。

 「自分たちはお金を取ってしかるべき活動をしていると思っている。そういうスタンスでいつもあなたたちの前に立たせてもらっています。そうじゃないと失礼だって思うんだよね。でも今年はいろんなことがありました。いやなことのほうが多かったかもしれない。だったら年末の最後にいいことがあってもいいんじゃないかなと思ってこういうふうに踏み切りました」なぜこのような形でライブをやるのか、なぜ無料なのか。「広げたいのは認知より間口です。ほしいのはお金ではなくあなたの時間です」。活動のひとつひとつにしっかり意味を見出しながら15年走ってきた彼ららしく、ここでも明快に自分たちのスタンスを言語化する、これこそSUPER BEAVERだ。

 「これが俺たちの戦い方」という言葉とともに攻撃的なサウンドがぶちかまされた「正攻法」に続いて、「何があるかわからないから、一瞬で終わるから、少しも目を離さないようにお願いします」と渋谷が叫んで「閃光」へ――無観客だからこその過剰ともいえるライティング、メンバーにぐいぐいと寄る手持ちカメラにクレーン、そしてアリーナの空間を飛び回るドローンカメラ。こうしたシチュエーションだからこその演出の真ん中で、バンドはひたすら密度の高い演奏を繰り広げる。柳沢が顔をくしゃくしゃにしながらコーラスし、上杉がカメラをにらみつけながらoiコールを上げる。

 「我々SUPER BEAVERは今年で結成15周年です。15周年イヤーなんでおもしろいことをやりたいなと思ってアリーナツアーを組んでみましたが、9割9分9厘頓挫しました」と笑いながら渋谷が話し始める。「最低だったこの1年、そのなかでも最高の瞬間を作れたらいい」。「最低のなかの最高」。すごくいい表現というか、この観客のいない横浜アリーナでのライブを言い当てるのに、それ以上の言葉はないのではないかと思う。その渋谷の言葉を受けて柳沢は「楽しいことをどうやったら届けられるかをずっと考えて今日があります」、上杉は「こういう形で僕たちのことを知ってくれる人がひとりでもいるなら、すげえポジティブだと思う」、そして藤原は「こういうときこそ歌えるバンドでありたいなと思ってやってきた」とそれぞれの思いを口にした。まるで自分たちに言い聞かせるようなメンバーの言葉だ。

 眩しいギターのサウンドと力強く打ち鳴らされるドラム。画面越しのコール&レスポンスも繰り広げられた「予感」、そして「できれば一緒に歌いたかった」といって披露された彼らのライブにおける大定番曲「東京流星群」ではミラーボールに反射する光の粒がアリーナ中の天井に流星の群れを描き出す。ここにきてメンバーの表情もリラックスして見える。そして文字通りこの日のハイライトを刻んだ人生讃歌「ハイライト」。まばゆい光に包まれながら渋谷の歌と柳沢、上杉、藤原の「ラララ」の声が折り重なる。そしてこの日最後の曲「人として」へ。ライブの始まりと呼応するように静かな渋谷の歌声が横浜アリーナに反響する。〈信じ続けるしかないじゃないか 愛し続けるしかないじゃないか〉という切実な歌詞が今へのメッセージとなって広がっていき、そこにストリングス(演奏は美央ストリングス)が色をつけていく。ひとつひとつの音を噛みしめるように、思いの丈を注ぎ込むように、4人は最後まで音を鳴らし続けた。

 筆者はこのライブを、配信の画面ではなく現場で目撃する機会をいただいた。「いい景色とは言いがたい」。照明に照らされたがらんどうのアリーナを見回しながら渋谷はそう言っていたが、まさにそのとおりで、「よろしくお願いします!」というメンバーの声が響いた開演前から、「はい、終了です!」というスタッフの声が飛んだ終演時まで、彼らの思いのこもった演奏がエモーショナルであればあるほど、切なくてしょうがなかった。バンドとスタッフ以外誰もいない横浜アリーナの風景には、そこに設置された数多くのライトやLEDが放つ美しい光をもってしても埋められない寂しさと虚しさが漂っていた。

 「あなたがおうちでいくら歌っても、俺たちには届かない」。「予感」を歌う前に渋谷はそう正直に話していた。配信でも、画面ごしでも声は届く、思いは届く――そんなの嘘っぱちだ、と。「でも」。渋谷の言葉は「届かなかった時間が、何かしらの形で、新しい形で返ってくると信じてる」と続いた。そう、今ではなく未来で、この経験は違う喜びを生み出すだろう。その予感と期待が、このライブの原動力だった。最後のMCで渋谷は「『次はライブハウスで会いましょう』……と言いたい。だから言う。ライブハウスで会いましょう」と約束した。そして発表されたニューアルバム(2月3日発売)のタイトルは『アイラヴユー』。この2020年、彼らが何を思って音楽を続けてきたのか、この日のライブとそのアルバムタイトルが、すべてを物語っているように思えた。

■小川智宏
元『ROCKIN’ON JAPAN』副編集長。現在はキュレーションアプリ「antenna*」編集長を務めるかたわら、音楽ライターとして雑誌・webメディアなどで幅広く執筆。

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