海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
ザック・スナイダー
連載
第56回
── 今回はザック・スナイダーです。Netflixでは『アーミー・オブ・ザ・デッド』、Amazon Primeなどでは『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』が配信中。後者はワーナーから6月25日に4K ULTRA HD&ブルーレイが発売されます。
渡辺 『アーミー・オブ・ザ・デッド』はザックのオリジナル脚本、『…スナイダーカット』の方は、2017年に公開された『ジャスティス・リーグ』の、彼が作りたかったバージョンです。『アベンジャーズ』などのジョス・ウェドンによる公開版の『ジャスティス・リーグ』が気に入らないファンたちが署名運動をして、今回のザック版が世に出たという経緯のようですね。
── どういうところが違うんですか?
渡辺 まるっきり違います。まるで違う映画。そもそも4時間2分もあって、7つくらいのパートに分かれている。ヒーローひとりひとりのビハインドが丁寧に描かれていて、彼らがどういう想いでジャスティス・リーグに入ったのか、その経緯がよく分かります。4時間と長いですが、パートごとに楽しむこともできるので、長さは感じないんじゃないでしょうか。私は一気に観ちゃいましたけど(笑)。
ウェドン版に出てないキャラクターがたくさん登場していて、こういうシーンも撮っていたのかと驚きますよ。いにしえの大アクションもあり、そういうシーンはさすがザックな演出です。やっぱり彼のアクションには華があると思いました。
『ジャスティス・リーグ』の監督降板理由の表向きは、ザックの娘さんが自死してしまい、その悲劇から立ち直れないので、となっていますが、実際は撮影中にスタジオと衝突したからだとも言われています。そういう苦労の後、ファンによって自分のバージョンを世に出せたのはとても嬉しいだろうと思います。
── 『アーミー・オブ・ザ・デッド』の方はゾンビものですよね?
渡辺 そうです。ザックの長編デビュー作もゾンビものの『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04)なので、もしかしたら本人的には初心に帰る、というつもりもあったのかもしれません。
今回は彼のオリジナル脚本なので、好きな要素を詰め込んでいる感じだし、ゾンビを進化させたいという強い想いが伝わってきます。なにせタイトルが“アーミー”なので、知性のあるゾンビも登場しますからね。
── ザック・スナイダーにはどの作品でインタビューしたんですか?
渡辺 最初は『ドーン・オブ・ザ・デッド』です。当時は彼の名前も知りませんでしたし、ゾンビ映画や(ジョージ・A・)ロメロへの愛も普通くらい。なのでさほど期待してなかったんですが、とても面白かったのでびっくりしました。
この映画、ロメロの『ゾンビ』(78)のリメイクなんですが、そのオリジナルより好きでしたね。というのも私、あのゾンビのゾロゾロノロノロ歩きがいつも気になっていたんですが、ザックのゾンビは走ったりバク転したりと、アクションキャラクターになっていた。ちゃんと“進化”していたんです。
ゾンビの動きに関してはこう言っていました。「ジョージ(・A・ロメロ)作品のゾンビはもっと象徴的なものだよね? でも、オレのゾンビは本能的に動くヤツラで、素早くって集中力もある。オレは本能的な体験の方が好きだから。早く動かしたおかげで緊張感もリアリティも生まれたと思っている」
このザック・ゾンビの登場からゾンビたちの動きが早くなり、アクション映画でも活躍するようになったと思っています。ホラー&アクションの人気キャラクターになったわけです。
それに、ロメロのゾンビ映画の中では『ゾンビ』が一番好きだと言っていました。理由は「タイトルの響きが美しいから」だそうです。だからリメイクもまるっきり同じタイトルにしたそうですよ。
── なるほど。
渡辺 『ドーン・オブ・ザ・デッド』には、ロメロ作品をはじめいろんなホラー映画でスペシャルメイクを担当していたトム・サヴィーニがカメオ出演しているんですが、このインタビューをしているとき彼が来てザックと親しそうに挨拶していましたね。サヴィーニに会えるチャンスなんてまずないから、サインもらえばよかったって、あとで思っちゃいました(笑)。
── ザックはゾンビのどういうところが好きなんですか?
渡辺 「とにかくクール!」だそうです。あ、ザックって、すっごく声が大きいんですよ。初めて会ったときもそのデカさに驚きました。監督に向いているなーって。
で、話を元に戻すと、結果、ゾンビ映画でデビュー作したザックですが、その前にはいろんなオファーをもらったみたいです。その中からゾンビを選んだひとつの理由が「クール」だから。そして、もうひとつが「ゾンビ映画についてはスタジオが理解できないから」。彼の言葉で言うと「スタジオは、自分たちが理解できる映画だと、いろいろ手伝おうとするんだけど、ゾンビ映画のことはよく分からないので、“そうか、じゃあそれでいいよ”になる」って。
そして、こうも言っていました。「オレはスタジオ映画をあまり作りたくなかった。もっとカルトっぽいのを作りたかったんだ。だから『ドーン・オブ・ザ・デッド』に関しては、スタジオ版のカルト映画って感じで作ったんだよ」。
── でも、その後メジャー映画ばかりになってますよね?
渡辺 『ドーン・オブ・ザ・デッド』のインタビューのとき、すでにフランク・ミラーの『300』と、アラン・ムーアの『ウォッチメン』の話はしていました。「この2冊のグラフィックノベルを実写映画化したい。実際に動いているのは『300』の方だ」って。
── 『300<スリーハンドレッド>』(07)はかっこいい映画でしたよね。
渡辺 ザックの言葉で表現すると「すげえクールだろ?」になる。“クール”という言葉が好きみたいです(笑)。
『300』は、自らフランク・ミラーに実写化の許可をもらい実現にこぎつけたみたいです。動機は「フランクの画を動かしたい」から。いわば動く紙芝居的な作り方をしている。90%デジタル映画なんですが、ちゃんと手作り感、人肌感があって、その部分が大きな魅力になっていたと思いました。
このとき、「アニメと実写という分け方がなくなる、ボーダーレスの時代になったと思いませんか?」みたいなことを聞いたんですが、それに対しては懐疑的でしたね。
「それって、つまり、デジタルのおかげでってことだよね? まあ、オレたちもデジタルを使いまくっているんだけど、その使い方に対しては細心の注意を払っている。そうしないと画一化されたような画になっちゃう危険性があるし。
それに、使うオレらの方も“それはデジタルを使えば一発だよ”という風に考えるようになり、ちゃんと撮影したりする努力をしなくなる気もするんだ。それでいいのかって思わない?」
── 確かにそうですね。
渡辺 つまり、ザックは「デジタルもクリエーターの使い方次第」と言っているわけで、続けてこうも言っていました。
「新しいジェネレーションは、もしかしたら現場に行かずともクールなショットを作ることができるかもしれない。“撮る”んじゃなくて“作る”んだ。それってオレは、ちょっと危険な気がするよ」って。
── そういうのも“映画”になるんでしょうね?
渡辺 でしょうね。実際にスマホだけで撮ったような作品もありますから、全部コンピュータのモニタ上で作った映画が出てきても不思議じゃないのかもしれませんよね。
まあ、それはさておき。ザックとコミックの関係性なんですが、ザックはフランク・ミラーの大ファンであり、アラン・ムーアも大好きなようです。
「アートスクールに通っている頃、1986年くらいに、フランクの『バットマン:ダークナイト・リターンズ』を読んで、「よし! これは映画化できる」と思い、1988年前後にアラン・ムーアの『ウォッチメン』を読んで、「よし! これも映画化できる」と思った。実際はめちゃくちゃ大変だったけど」と笑っていましたね。そして「一度、『ウォッチメン』を読んでしまったら、もう『ファンタスティック・フォー』には戻れないんだよ」としみじみ言っていましたね。
そうか、だから『スーパーマン』も『マン・オブ・スティール』(13)になったんだと、妙に納得しましたが。
また、『ダークナイト・リターンズ』については「オレとフランクはいつも、この作品の映画化について話しているんだ。オレはフランクに「これは最高のグラフィックノベルなんだから、絶対に実写映画化するべきだ」って言っていた。で、そうなる前に、バットマンのコスチュームを使わせてもらったんだけどさ(笑)」。
ちなみにこれは『バットマンVSスーパーマン/ジャスティスの誕生』(16)のときです。
── ザックはどういう映画が好きなんですか?
渡辺 最初にハマったのは黒澤明の『蜘蛛巣城』(57)だったと言っていました。
「12歳の頃、母親にせがんで劇場に連れて行ってもらい、その美しさに身震いしたんだ。部屋にポスターを貼るぐらい大好きだった。あの映画で“血”が色になるんだと分かったよ、モノクロ映画だけど」って。
── 12歳というのは早いですよね。
渡辺 『七人の侍』(54)でも『用心棒』(61)でもなく『蜘蛛巣城』ですからね。ちなみに、最も何度も観直している映画はジョン・ブアマンのアーサー王伝説映画『エクスカリバー』(81)だそうです。ケン・ラッセルの『アルタード・ステーツ/未知への挑戦』(79)も大好きだそうなので、ちょっと面白いチョイスだと思いました。
やっぱりアートスクール出身だし、高校時代は「画家を目指してロンドンで勉強した」というくらいなので、ビジュアルのインパクトが強い作品が好みなのではないですかね。実際、『アーミー・オブ・ザ・デッド』も『…スナイダーカット』もビジュアルのインパクトが強烈ですから。
── 次回作は決まっているんですか?
渡辺 彼の次の作品はアイン・ランドの小説『水源』の映画化です。これは帝国ホテルの設計でも知られる建築家のフランク・ロイド・ライトをモデルにした小説で、自身の理想を求め、意志を曲げない建築家の生きざまを描いている。1949年にはゲーリー・クーパーが主演して『摩天楼』というタイトルで日本でも公開されています。この映画を観て建築家に憧れた人は多いようです。
詳細はまだ発表されていませんが、スタジオとの衝突などがあったザックなので、主人公に自分を投影する部分はあるんじゃないんでしょうか。彼にとっては初のリアルなドラマになるので、そういう意味でもとても楽しみです。
※次回は6/22(火)に掲載予定です。
文:渡辺麻紀
Photo:AFLO
『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』
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