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『マイ・ブロークン・マリコ』は2020年漫画界の最大の収穫か? 各媒体のランキングを振り返る

リアルサウンド

20/12/31(木) 10:00

 あらためて言うまでもないことかもしれないが、2020年の漫画界は『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)の一人勝ちだったと言っていいだろう(最終23巻の発売時において、単行本の累計発行部数は1億2000万部を突破した)。周知のように同作の社会現象的な大ヒットは、このところ明るい話題の乏しかった出版業界や映画業界に希望の光をもたらした。だが、もちろんそのほかにも話題作やヒット作は次々と生み出されているわけであり、本稿では(文字数に限りがあるのでかなり駆け足になるとは思うが)、そうした今年を代表する(『鬼滅』以外の)漫画作品をいくつか紹介したいと思う。

 まずは先ごろ、『このマンガがすごい! 2021』(宝島社)と、「このマンガを読め!」の特集が組まれた『フリースタイル 46』(フリースタイル)が発売されたので、そちらの話題から採り上げたい(注)。

注……前者は2019年10月1日〜2020年9月30日、後者は2019年11月1日〜2020年10月31日の間に、単行本が発売された作品を対象にしたランキングである。

 とはいえ、さすがにここでその結果をすべてコピペするのは気が引けるので、それぞれの1位を紹介するのみにとどめたい。

■『マイ・ブロークン・マリコ』、『かしこくて勇気ある子ども』、『薔薇はシュラバで生まれる』

 なお、『このマンガがすごい!』のランキングは、「オトコ編」と「オンナ編」に分かれているため、必然的に1位は2作ということになる。すでにネット・ニュースなどで流れているので、ご存じの方も多いとは思うが、「オトコ編」の1位は藤本タツキの『チェンソーマン』、「オンナ編」は、和山やまの『女の園の星』だ。いずれもいま、各書店のコミック売場で大きく展開されている“旬”の作品だといえるが、特に前者は、毎週、最新話が掲載された『週刊少年ジャンプ』が発売されるたびにSNSでトレンド入りするという、この雑誌不況と言われている時代に、なかなか痛快な読まれ方をしていた。

 「次」が読めないスピーディな展開と、少年漫画とは思えない過激な暴力表現が話題になった『チェンソーマン』だが、『週刊少年ジャンプ』2021年2号に掲載された、どこか希望と再生を感じさせる最終回とともに第1部完。第2部は『少年ジャンプ+』で連載予定、また、MAPPAによるアニメ化も発表されている。

 一方、『フリースタイル 46』の「このマンガを読め!」の1位は、近藤ようこの『高丘親王航海記』(原作・澁澤龍彥)だ。タイトルどおり、天竺を目指す高丘親王(平城帝の皇子)の旅を描いた冒険譚だが(原作は澁澤龍彥の絶筆でもある)、この、なんとも言えないすべてが「夢」のような物語を、『夢十夜』(夏目漱石)のコミカライズを手がけたこともある近藤が、美しいタッチで摩訶不思議な(幻想文学ならぬ)「幻想漫画」に仕上げている。同作については、以前、私も本サイトで採り上げたことがあるので、そちらの記事も併せてお読みいただけたら幸いである(「澁澤龍彥の名著『高丘親王航海記』はコミカライズでどう生まれ変わった? 漫画家・近藤ようこの手腕」)。

 なお、上に挙げた1位の作品を比較してみれば、2誌の選者たちの好みの違いがわかって興味深いが、もちろん、そのどちらのベスト20にもランクインしている作品もある。たとえば、平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』、山本美希『かしこくて勇気ある子ども』、笹生那実『薔薇はシュラバで生まれる』などだが、いずれもすばらしい作品(しかも全1巻)なので、機会があればぜひ読まれたい(「『薔薇はシュラバで生まれる』は少女漫画版『まんが道』かーー70年代少女漫画の内幕にあった輝き」)。

 特に、ウェブ媒体(『COMIC BRIDGE』)で連載され、口コミでその凄さが広まっていった平庫ワカの『マイ・ブロークン・マリコ』こそ、今年最大の“収穫”だったと個人的には思っている(同作は、10月に発表された『TV Bros.』の「ブロスコミックアワード2020」でも、大賞を受賞している)。

 親友(マリコ)の遺骨を抱えて海辺の町へ旅するひとりのOLの物語――新人ながら生と死のキアロスクーロ(明暗対比)を圧倒的な筆致で描き切った、平庫ワカの貴重な初インタビューは、こちら(『マイ・ブロークン・マリコ』で注目の漫画家・平庫ワカ、初インタビュー 「この作品を描いて本当に報われた」)から読むことができる。

 さて、おそらく2021年は、芥見下々の『呪術廻戦』の年になりそうな気がするが(各書店での単行本の品薄ぶりを見るに、すでにブレイクしていると言っていいだろう)、同作についてはまた別の機会に書かせてもらうとして、最後に、この12月に「第1集」が発売されたばかりの、強烈な作品を紹介したい。

 それは、魚豊の『チ。―地球の運動について―』である。

 物語の舞台は、異端思想が弾圧されていた15世紀のヨーロッパ。12歳で大学に合格した天才少年・ラファウは、養父の願いどおり「神学」を専攻したいと口では言いながら、心の底では「天文」への熱い想いを抑えられずにいた。と、そんなある日、彼はある怪しげな学者と出会い、この世界を動かしている「真実」を知る……。

 サブタイトルからもわかるように、本作は「地動説」についての物語だ。そして、自らの好奇心に正直であるために、あるいは信念を貫くために、命をかけた漢(おとこ)の物語だ。2020年12月下旬の現時点において、「このマンガがすごい!」、あるいは、「このマンガを読め!」という言葉は、この『チ。』のためにあるとしか思えない。必読。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。Twitter

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