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布袋寅泰 GUITARHYTHMという人生

ライフワークとなったGUITARHYTHMとは? 新作がGUITARHYTHMである意味とは?

毎週連載

第2回

19/5/27(月)

─── シリーズ6作目となる『GUITARHYTHM Ⅵ』(2019年5月29日発売)は、布袋寅泰の“今”が見事に表現されたアルバムでした。BOØWYの仲間(松井常松、高橋まこと)やCornelius、MAN WITH A MISSION、そして海外勢のゲストたち……曲のタイトルやクレジットを見るだけでも胸がざわめきます。まさに“最新のHOTEIが最高のHOTEI”という方程式を証明する1枚となりました。

布袋 GUITARHYTHM作品をアップデートするって、実は自分にとってもプレッシャーなんです。“GUITARHYTHMはこうでなければいけない”とか、 “ところでGUITARHYTHMって一体なんだろう?”とか自問自答を繰り返す。“GUITAR+RHYTHM=GUITARHYTHM”というふたつの言葉をつなげて作った造語とはいえ、そこには“イズム=主義”もあって。言ってしまえば“布袋イズム”なんだよね。ジョージ・ルーカスにとってのスター・ウォーズシリーズのように、自分自身の歴史とともに歩んできた作品だから、いろいろ悩み考えながら作りましたよ。

─── 31年前、GUITARHYTHMのコンセプトを発表されたときの気持ちを覚えていますか。

布袋 そもそもGUITARHYTHMは、BOØWY解散後初のソロアルバムだったんだよね。僕はもともと洋楽志向だったし、いつかは海外を視野に入れて活動してみたいという気持ちがあった。BOØWYも音楽的にはそういう色が濃いバンドだったけど、メガヒット以降は邦楽の王道として語られるようになった。解散と言う区切りで、もう一度自分が影響を受けてきた洋楽や実験的なサウンドをポリシーとして堂々と表明したいなと思って形にしたのが『GUITARHYTHM』だったんです。

─── 時系列でいうと、GUITARHYTHMは日本のロックシーンをメインストリームに加速させることになった2大プロジェクト、1988年4月に解散したBOØWYと1989年4月にデビューしたCOMPLEXでの活動の間という、ミッシングリンクを埋める存在でした。

布袋 BOØWYは4人で作り上げたバンドサウンドでありながらも、僕がプロデューサーとしてサウンドフォルムを作ったので、それをなぞってはいけない。BOØWYとは真逆のアプローチを試みてみようと、ギター、ドラム、ベース、ボーカルっていうロックの最小編成から自由になって、コンピュータとギターのみのミニマルな編成でスタートしたのがGUITARHYTHM。当時書いたコンセプトシートは、今見ても鮮やかなテキストだよね。

─── 刺激的ですよね。GUITARHYTHMはBOØWYの成功、肩書から自由にしてくれた存在だったのですね。

布袋 そうかもしれない。当時は英語詞ということもあって、日本語ではない自由もありました。メッセージよりサウンドをメインにアプローチできたという。でも、誤解を恐れずにいうと、かなりいい加減というか大胆に作った作品だったんですよ。というのは、あのころのコンピュータは決して便利なものではなくて。まだ楽器を同期することすら難しい時代だったし、データを作ってセーブするにもフロッピーディスクの容量は全然足りなくてね。レコーディングはほとんど一発録りみたいなものだったよ。今のようにデータをエディットしてコピペするなんてこともできないし。ドラムマシーンにビートを打ち込んで、それに合わせてギターも同時に録る!みたいな。まるで、BOØWYの1stアルバム『MORAL』に近い感覚だったね。

─── 1982年3月21日にリリースした『MORAL』はまさに一発録りで作られたアルバムですね。ゆえに、ともに初期衝動にあふれたサウンドで。

布袋 『GUITARHYTHM』はコンピュータと向き合って作った初期衝動かもね。ご存じのように、僕は乾いていて疾走感のあるソリッドなビートが好きだし、今もサンプリングしたギターよりもサンプルっぽく弾ける自信があるくらい。そんなの自慢にはならないか?(苦笑)。コンピュータのリズムと僕っていうのは、まさにベストマッチだったと思うね。BOØWY時代のリズム隊にもとにかくシンプルかつタイトにやってもらっていたから、その上で僕がギターは自由にカラフルに表現する隙間があったよね。『GUITARHYTHM』でも打ち込みのビートにズレがなかったから、自分のスタイルの焦点がバッチリ合ったっていうか。文字通り「ギターとリズム」というコンセプト通りのサウンドに仕上がりました。

─── 2009年2月18日にリリースした『GUITARHYTHM V』から10年、『GUITARHYTHM』から31年。なぜ今このタイミングで『GUITARHYTHM Ⅵ』の構想へたどり着いたのでしょうか。

布袋 2017年にリリースしたアルバム『Paradox』は心底、満足のいく仕上がりでした。重厚かつ軽快、ロンドンに移り住んでからの、テロをはじめとする世界の重苦しい雰囲気……社会的なアルバムというほどではないけど、“世界の今”をしっかりサウンドと言葉に反映できた、長年追い求めた理想に近いアルバムで、自分のキャリアでのベスト作品だと思っていて。それを超える次作は、かなりのプレッシャーがあって「さて、何を作るべきか?」と音に向き合うも、ひと筆目がなかなか出てこなかった。もがくような気持ちでスケッチを何曲か描いているときにスタッフから「2018年はGUITARHYTHM30年目です!」と聞いた。「そんなに経つのか!」と驚くと同時に、これは自分を更新するいいチャンスかもしれない、と思えたんです。


─── 2019年に、GUITARHYTHMの名前を冠した新作が聴けるとは思っていませんでした。サプライズな発表でしたね。

布袋 もともと僕は、後ろ向きな気持ちになるのが嫌いなタイプだからGUITARHYTHM自体あまりやりたくないんですよ(笑)。

─── あまのじゃくな布袋節が出ましたね(笑)。

布袋 いろんなこと考えちゃうんですよね。悪い癖で。GUITARHYTHMとは時代を移す鏡でありたいし、と同時にあえて時代とのズレみたいなものを表現したい。しかし「GUITARHYTHMを作るぞ!」と決めた瞬間、なんだかとっても自由になれた。シリーズ6作目となるこの『G VI』で描くべきテーマを探し、「あの日見た未来」というコンセプトが浮かんだとき、これはいけるぞ!という確信を持ちました。

─── ワクワク感が伝わってきますね。

布袋 制作には1年を費やしました。途中でヨーロッパ、そしてジャパンツアーを挟んだというのもあるけど、長い時間をかけてじっくり丁寧に作ったアルバムなので、『Paradox』を超えるものになったし、31年目のGUITARHYTHMのふさわしい、最高の布袋を更新できたと思います。

─── 完成してみて、どんな気分ですか。

布袋 正直、疲れたね(笑)。

─── 日々、進行を報告してくれるインスタグラムをチェックしていると、かなりギリギリまでレコーディングされていましたね?

https://www.instagram.com/hotei_official/?hl=ja

布袋 そうなんです。今回はMuseのプロデューサーのトマッソ・コリーヴァというイタリア人と初タッグを組んだり、デヴィッド・ボウイの盟友ピアニスト、マイク・ガーソンやSadeのキーボーディストとして知られるアンドリュー・ヘイル、ミックスエンジニアにはMuse やFoo Fightersを手がけたエイドリアン・ブッシュビー、U2やMassive Attackなどのサイモン・ゴーガリー、ベーシストのマーク・ニアリー。ドラマーのフランキー・トントーとスティーブ・バーニーら、才能あるクリエイターが参加してくれました。

─── 海外での生活が、制作スタイルにも溶け込んでそうですね。

布袋 向こう(イギリス)での作業は、日本のように時間軸がかっちりしてないから、なかなか思い通りに作業が進まないんですよ。来週の予定が再来週になり、再来週になったらホリデーが始まり1ヵ月連絡がとれないとか。時間以外にも考え方の違いなど様々なストレスがあります。東京の仕事は全てスケジュール通り進行する反面、どんどん次のステップに行き急いじゃうところもある。海外では作ったものを俯瞰的に向き合える余裕があるのも事実。その時間が『GUITARHYTHM Ⅵ』という作品のディテールにしっかり表れているという自信があります。聴けば聴くほど新しい発見がある。

当連載は毎週月曜更新。次回は6月3日アップ予定。『GUITARHYTHM Ⅵ』レコーディングのあれこれを直撃します。

プロフィール

布袋寅泰

伝説的ロックバンドBOØWYのギタリストとして活躍し、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビュー。プロデューサー、作詞・作曲家としても高く評価されており、クエンティン・タランティーノ監督の映画『KILL BILL』のテーマ曲となった「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」が世界的に大きな評価を受ける。2012年より拠点をイギリスへ。2014年にはThe Rolling Stonesと東京ドームで共演を果たし、 2015年10月にインターナショナルアルバム『Strangers』がUK、ヨーロッパでCDリリースされ、全世界へ向け配信リリースもされた。2017年4月にはユーロツアー、5月には初のアジアツアーを開催。6月9日から「HOTEI Live In Japan 2019~GUITARHYTHM Ⅵ TOUR~」で全国24ヵ所24公演を巡る。



取材・文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

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