川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』
『ジャイアンツ』にでてきたジュークボックスの話から…ジャン・ギャバンの『現金に手を出すな』、最後は『かくも長き不在』につながりました。
隔週連載
第43回
20/2/4(火)
ジョージ・スティーブンス監督の『ジャイアンツ』(1956年)には、コカ・コーラと並んで当時の小学生には、いや、多くの日本人にも、物珍しいモノが出てきた。あとでそれと分かるジューク・ボックス。
テキサスの大牧場主ロック・ハドソンと、その妻でリベラルな女性、エリザベス・テーラーとの1920年代から50年代にわたる夫婦の、そして家族の長大な物語。
1950年代。夫婦も年老いてきている。息子(デニス・ホッパー)は、思いがけずメキシコ人の女性と結婚した。まだ人種差別の強い時代。父親のロック・ハドソンもメキシコ人の女性が産んだ孫になかなか自然に接することが出来ない。
ある時、一家で外出する。テキサスの街道沿いのカフェに入る。白人の主人は人種差別主義者で、メキシコ人の女性が店に入って来たことにあからさまに嫌な顔をする。
それに腹を立てたロック・ハドソンがこの主人と喧嘩をする。壮絶な殴り合いになる。結局、ロック・ハドソンは年齢のせいもあって殴り倒されてしまう。あとで、妻のエリザベス・テーラーが「あなた、素敵だったわよ」というのが感動的。喧嘩には負けたが、メキシコ人の嫁を守ろうと戦った夫を称えている。
この殴り合いのシーンにジュークボックスが登場する。カフェにジュークボックスがあり、それが殴られ倒れ込んだ相手がぶつかったために、突然、鳴り出す。
テキサスを舞台にした映画らしく、曲は『テキサスの黄色い薔薇』。いまとなっては、その機械はジュークボックスと分かるが、『ジャイアンツ』が日本公開された1956年当時、小学生には、コカ・コーラと同じようにそれが何かは分からなかった。
だからこそ、のちに1964年の東京オリンピックの頃から、日本でもジュークボックスが普及してゆくなかで、『ジャイアンツ』のあの『テキサスの黄色い薔薇』をかなでた機械は、ジュークボックスだったのかと、ようやく納得したものだった。
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