Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

ぴあ

いま、最高の一本に出会える

木村拓哉が高倉健の仲間入り? 『グランメゾン東京』は今のキムタクでないと成立しない物語

リアルサウンド

19/10/27(日) 6:00

 日曜劇場(TBS系夜9時放送)の最新作『グランメゾン東京』がはじまった。本作は、型破りのシェフ・尾花夏樹(木村拓哉)が女性シェフの早見倫子(鈴木京香)と共に三ツ星レストランを目指す物語だ。

 主人公の尾花を演じるのはキムタクこと木村拓哉。いまや日本最後の国民的スターと言っても過言ではない木村の出演作は毎回大きく注目されるのだが、第一話を見た印象でいうと、物語が木村の存在感に甘えず、彼をドラマの1パーツとして遠慮なく描いていることに好感を持った。

【写真】『グランメゾン東京』木村拓哉登場シーン

 つまり、独立したテレビドラマとして、演出と脚本がしっかりしている。中でも『アンナチュラル』(TBS系)等を手掛けた塚原あゆ子の演出が素晴らしく、尾花を取り巻く人々を丁寧に描きながら、調理する場面や料理を、とてもフェティッシュな映像で魅せていた。つまり料理もキムタクもドラマのパーツとして対等な存在として描いているのだ。

 木村に限らず、スター俳優が出演するドラマや映画は、悪い意味での接待感が出てしまい、その俳優の見せ場ばかりをつなぎ合わせた名場面集みたいなものになってしまう。その結果、物語の踏み込みは浅くなり、演出とのバランスが崩れてしまうことが多い。

 『HERO』(フジテレビ系)以降「何をやってもキムタク」と揶揄されることが増えたのは、そのあたりのバランスが悪いものが多かったためだが、近年のキムタク主演映画やドラマは(物語と演出の)バランスが改善されつつあり、キムタクの万能感を下げて、ダメな部分も描くようになってきている。

 これは木村を取り巻く状況が2016年のSMAP解散以降大きく変化しており、その変化を作品の中にフィードバックしているからだろう。

 特に映画はその傾向が強い。死ねない身体でボロボロになりながら戦う剣士・万次を演じた『無限の住人』、自身の正義を貫こうとして一線を超えてしまう検事を演じた『検察側の罪人』。グランドホテルで潜入操作をおこなうために、ホテルマンに扮してお客様のクレーム対応にあたる刑事を演じた『マスカレード・ホテル』の三作は、今のキムタクでないと成立しない物語となっていた。

 それはこの『グランメゾン東京』においても同様である。パリで二つ星レストランを経営していた尾花は、日仏首脳会談の昼食会で料理を提供した際に、フランスの首脳が料理に使用されたナッツでアレルギーショックを起こして倒れてしまい、管理責任を問われた尾花は、その場でフランスの官僚を殴ってしまい、その場で逮捕。店は解散し仲間はバラバラとなる。

 それから三年間、尾花は「日本人シェフの恥」と言われ、落ちぶれた日々を過ごしていたが、女性シェフの早見と出会い、東京で三ツ星レストランを作ろうと再起を図る。そして、ギャルソンの京野陸太郎(沢村一樹)たちかつての仲間に「いっしょに店をやらないか」と声をかけるのだが、京野たちは尾花を恨んでいて、話を聞こうとしない。

 まるでSMAP解散の際に、裏切り者扱いされたキムタクの状況をなぞっているかのようである。特に今回はシェフ役という『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)でBISTRO SMAPを楽しんでいた人にとっては馴染みのある職業であるため、SMAP解散以降の木村の近況と重ねて観てしまうのだ。

 実は尾花が官僚を殴った背景には理由がある。官僚たちは、店員に移民が多いことからテロを疑い「従業員全員の就労ビザとパスポートを出せ」と言ってきたのだ。尾花はその差別的振る舞いに怒りを感じ殴ったのだ。気持ちは分かる。しかし、なぜ、他の人に話さないのだ? 彼の怒りが状況を悪化させたことは確かで、そこに美学を見出すのは時代錯誤だ。

 こういう役を高倉健が演じるのならわかるのだが、木村が演じているのを観ると、彼も時代遅れの古臭い男たちの仲間入りをしたのかと思ってしまう。だがそれは、決して悪いことではない。むしろやっと年相応のおじさんが演じられる俳優になったと言える。
 
 思えば、ここ数年のキムタクは明らかに老けようとしていた。しかしルックスが若々しいため、ビジュアルと役柄が齟齬を起こしており、中途半端な存在となっていた。本作の尾花も外見こそ若く見えるが、人生に対する疲れが表情に見え隠れする。

 何より、世間が彼をおじさんとして扱い、甘やかしていないのがいい。

 液体窒素調理で作った料理を「化学実験の残骸」(余談だが、このたとえは本作のパキパキした演出にこそピッタリだ)と言ってしまう職人気質の尾花は、料理の腕しか頼るものがない。仕事もなく、仲間もいない尾花は、カッコよかった若者の成れの果てであり、世間は彼に優しくはない。しかし、おじさんになったからこそ、できることもあるはずだ。

 早見から「人たらしなおじさんだよね」と言われ「分かってて来るなんて、馬鹿なおばさんだよね」と尾花が言い返すやりとりには、今までのキムタクドラマにはない可能性を感じる。老いたからこそできる戦いもあるのだ。

(成馬零一)

アプリで読む