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“17歳の夢”と“今”が響き合う、 念願の初野音ワンマン『吉澤嘉代子の日比谷野外音楽堂』

ぴあ

『吉澤嘉代子の日比谷野外音楽堂』2021年6月20日 写真:山川哲矢

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「私は、『誰か』になりきって歌う、っていうことが大好きだし、それが自分が楽しく生きるための術だ、って思ってきたんですけど。でも今日は、自分のまんま、みなさんの前に……私がすごく苦手な言葉、『ありのままの自分』で出て行きたいなと思って。怪我してもいいから出て行こうと思って、やってまいりました。本当に、今日は来てくださってありがとうございました」――6月20日、東京・日比谷野外大音楽堂で開催されたワンマンライブ『吉澤嘉代子の日比谷野外音楽堂』。念願の舞台から万感の想いを、噛み締めるように静かに、しかしまっすぐ語りかける吉澤嘉代子の言葉が、夜の野音を熱い拍手で包んでいった。

以前から本人も明かしている通り、17歳の頃にここ日比谷野音で観たサンボマスターのライブをきっかけに、自らアーティストとしての人生を歩み始めた吉澤嘉代子。自身初の日比谷野音ワンマンとなる今回のライブは同時に、吉澤が自分の「原点」の衝動と向き合う重要な一日でもあった。

吉澤嘉代子

当初、昨年5月に開催が予定されていたものの、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて中止を余儀なくされた「吉澤嘉代子の日比谷野外音楽堂」。そんな状況に屈することなく一年越しで晴れて開催に至った吉澤の情熱が、この日のアクトによりいっそう豊かな色彩感と躍動感を与えていたことは間違いない。

雨の予報を覆し、心地好い晴天の下でのライブが実現したこの日。舞台の中央には、花束と鳥籠をあしらった樹木のようなオブジェが設置され、数々の伝説的名演を生んできた日比谷野音にファンタジックな空気感を漂わせている。

そんな舞台へ、まずは吉澤がひとりで登場。アコースティックギターの弾き語りで「東京絶景」を歌い上げていく。《東京はうつくしい 泡沫のプラネタリウム/星なんて一つも見えないけれど 夢をみているのよ》……ファルセットを滑らかに織り込んだ吉澤の澄んだ歌声が、都心の空に伸びやかに広がっていった。

「ふわぁ〜……あれ? 嘉代子ちゃん?」。吉澤が「東京絶景」を歌い終えたところで、舞台下手側のオブジェから顔を出したのは、吉澤のライブではもはやお馴染みとなった愛犬・ウィンディ。「今日はね、この日比谷野外音楽堂で歌う、大切な一日なんだ!」と話しかける吉澤に、ウィンディ「僕も楽しみにしてたんだ。うわぁ、たくさんのお客さん! 嘉代子ちゃん、いよいよ夢が叶うね!」と続ける。

吉澤嘉代子(右)とウィンディ(左)

そんな会話の間に、ステージにはバンドマスターでもあるゴンドウトモヒコ(Horns・Sequence)を筆頭に、伊澤一葉(Key)、君島大空(G)、伊賀航(B)、伊藤大地(Dr)、武嶋聡(Sax・Flute・Clarinet)、高原久実(Violin)、加藤哉子(Cho)という名手揃いのラインナップがスタンバイ完了。「『吉澤嘉代子の日比谷野外音楽堂』、始まります!」という吉澤のコールから流れ込んだ「ユートピア」の快活なビート感が、野音の客席を高らかなクラップで満たしていく。

OLが宇宙戦士となる物語「月曜日戦争」、町娘が真夜中に怪盗に変身する「怪盗メタモルフォーゼ」……といった具合に、それこそ楽曲ごとに映画の脚本レベルに緻密に構築された設定と物語を、歌の登場人物を演じきるように歌い上げる吉澤の音楽世界。言うならば、そんなカラフルな世界観を描き上げる詞曲の筆致と、それをドラマティックに演じ抜くシンガーとしてポテンシャルにこそ、“吉澤嘉代子の音楽”の核心はある――とずっと思っていた。

しかし、この日のライブで何より際立っていたのは、そんな唯一無二のクリエイティビティを支える吉澤自身の衝動の抑え難い切実さであり、17歳当時の吉澤自身の胸の高鳴りすらも野音一面に共有可能なリアリティとともに立ち昇らせる“表現者・吉澤嘉代子”の芯の強さだった。

恋人をテーマにした「サービスエリア」の穏やかなトーンから一転、「愛するあまり亭主の首をカバンに隠して逃亡する女」を歌い上げる「地獄タクシー」のアグレッシブなビッグバンド感へ……とジェットコースターのように展開される楽曲世界が、高精細なアンサンブルとともに鳴り渡り、それによって吉澤の歌はますます輝きを増していく。

「自身の聖地である日比谷野音での初ワンマンを、全曲生演奏で行う」という吉澤の希望を、メンバーそれぞれ曲ごとに楽器を持ち替えながら、卓越したプレイで実現してみせたバンドメンバー陣。「日比谷の野外音楽堂前まで」(吉澤)、「かしこまりました。日比谷の……地獄前までですね!」(伊澤)という「地獄タクシー」前の寸劇に至るまで、プロフェッショナルな技量と渾身の遊び心が高次元で交錯していた。

吉澤嘉代子が野音の地で向き合う「歌を歌う意味」

ぶらんこ乗りの男女の日々を描いた小説の朗読の余韻を、その歌声を通して増幅してみせた「ぶらんこ乗り」。そこから《天使だった頃の記憶を失した人と/命懸けの恋をしよう》と堕天使への恋心を綴った「ルシファー」、若き日に戦地へ赴いた夫の帰りを待つ年老いた妻の《もし貴方に会えたのなら/今日の私もうつくしいと思うのでしょうか》という想いを描いた「刺繍」……と立て続けに披露した最新アルバム『赤星青星』の楽曲は、吉澤の音楽世界の進化を克明に伝えるものだった。

夕闇迫る中、ウッドベースとアコギ、フリューゲルホルンの響きとともにひときわ情感豊かに歌われた「残ってる」が、観る者の内なるセンチメントを狂おしくかき立てていった。

「はぁ……幸せだなあ」と感慨深げにつぶやく吉澤。「『いつか、あの場所で歌えるその日まで頑張りたい』と思っていたから、歌い続けることができています」と語る吉澤に、ウィンディが手紙にしたためたメッセージを読み上げる。

「あなたが初めて野音でライブを観た日、僕にだけこっそり教えてくれたよね。『いつか、あの舞台の向こう側に行くんだ』って。連れてきてくれて本当にありがとう」……惜しみない拍手の輪が、すっかり暗くなった野音に広がる。

終盤は「movie」から「泣き虫ジュゴン」「ストッキング」と初期の楽曲を重ね合わせて、“吉澤嘉代子の原風景”をオーディエンスの心にくっきりと刻み混んでいく。

そして、「今日、最後に歌おうとずっと思っていた歌を……」と最後に披露したのは、7組のアーティストとのコラボ曲を収録したミニアルバム『吉澤嘉代子とうつくしい人たち』(2016年)でサンボマスター・山口隆から提供された「ものがたりは今日はじまるの」。

《あなたの心の窓硝子に/わたしのすべてうつしてみたい/物語がはじまるの》……高校時代の吉澤に夢を与えた当人から贈られたフレーズを、ひとつひとつ大切に響かせる吉澤の麗しの歌声は、とりわけエモーショナルな色を帯びているように思えた。

一度舞台を降りた後、アンコールを求める手拍子に応えて再び姿を現した吉澤。「夢っていう言葉自体、最近はあんまり聞かなくなったなと思っていて。私も去年、野音が中止になった時もそうなんですけど――何か願うこととか叶えたいと思うことが『今までの生活にどうやって戻すか』みたいな、マイナスからフラットにどうやって戻すかって考えるような日々で」と夢の実現を巡る葛藤を語り、「リハーサルをしていくうちに……生まれた頃から大人になっていく過程を全部思い出してきて。主人公を持つ物語を曲に書いているようで、どの曲にもその時の年齢の自分自身が、どこかにやっぱり隠れているので。私は『自分が子供だった頃』みたいな子供にまで届くような歌を歌いたい、と思って歌ってきているんですけど。そういう最初の気持ちにも戻ったんですね」と明かす吉澤の言葉は、「17歳の自分の夢を叶えた」という無邪気な祝祭感ではなく、「歌を歌う意味」と向き合うアーティストの覚悟に裏打ちされたものだった。

「『ありのままの自分』で出て行きたい」という冒頭に記したMCに続けて、この日のライブが秋にBlu-ray作品としてリリースされることが発表されると、客席は晴れやかな拍手に包まれる。すると、「やりたいなと思ってることがあって……」と吉澤が舞台を降りて客席中央へ移動。

この日のために用意した緑色のギターを構えて、17歳の頃に書いたという楽曲「みどりの月」を弾き語りで歌い始める。音楽に目覚めた「17歳の自分」の想いを、念願の会場のステージと対峙させる形で、吉澤は自ら実像化してみせたのである。

高校時代に一緒に日比谷野音に行った親友に贈られた楽曲「雪」で、記念すべき一夜を締め括った吉澤。この日が誕生日だというウィンディを抱えて舞台を去る姿に向けて、拍手がいつまでも降り注いでいた。

各メンバーの「夢」を聞いたMCで、ゴンドウが「このメンバーで、武道館でやりたい」と語っていた言葉が、いつか現実になりますように――と願わずにいられないマジカルな眩しさが、この日の日比谷野音には確かに満ちあふれていた。

文 / 高橋智樹 写真 / 山川哲矢

-セットリスト-

01. 東京絶景
02. ユートピア
03. 月曜日戦争
04. 怪盗メタモルフォーゼ
05. 鬼
06. 恥ずかしい
07. 麻婆
08. えらばれし子供たちの密話
09. サービスエリア
10. 地獄タクシー
11. ぶらんこ乗り
12. ルシファー
13. 刺繍
14. 残ってる
15. movie
16. 泣き虫ジュゴン
17. ストッキング
18. ものがたりは今日はじまるの

En1. 未発表曲
En2. 雪

『吉澤嘉代子の日比谷野外音楽堂』セットリストのプレイリスト公開中
https://jvcmusic.lnk.to/yoshizawakayoko_hibiya

<リリース情報>
LIVE Blu-ray『吉澤嘉代子の日比谷野外音楽堂』

発売日:2021年秋頃
※詳細は追って発表となります

吉澤嘉代子 5thアルバム『赤星青星』

2021年3月17日(水) リリース

●初回限定盤(CD+DVD)5,500円(税抜)

吉澤嘉代子『赤星青星』初回限定盤ジャケット

【CD収録曲】
01. ルシファー
02. サービスエリア
03. グミ
04. ニュー香港
05. 鬼
06. ゼリーの恋人
07. リダイヤル
08. 流星
09. リボン
10. 刺繍

【DVD収録内容】
<ミュージックビデオ>
・刺繍
<スタジオライヴ>
・サービスエリア
・曇天
・残ってる
・アボカド
・刺繍
<密着ドキュメント>

●通常盤(CD only)3,000円(税抜)

吉澤嘉代子『赤星青星』通常盤ジャケット

【CD収録曲】
初回限定盤と同内容

吉澤嘉代子「刺繍」MV

吉澤嘉代子「鬼」MV

吉澤嘉代子「サービスエリア」MV

吉澤嘉代子『赤星青星』全曲ティザー

吉澤嘉代子『赤星青星』スタジオライヴ トレーラー

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