『グリード ファストファッション帝国の真実』を手がけたマイケル・ウィンターボトム監督 (C)2019 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION
続きを読む『ウェルカム・トゥ・サラエボ』『イン・ディス・ワールド』などを手がけた英国人監督マイケル・ウィンターボトムの新作『グリード ファストファッション帝国の真実』が18日(金)から公開になる。本作の主人公は、ファストファッションのブランド経営で莫大な富を手に入れた男。強欲(グリード)な男の姿とエンターテイメント性あふれる物語を通して、ウィンターボトム監督は現在の社会の姿や格差の問題、富の集中、世代間に格差が継承される問題を描き出していく。
本作は、監督が友人のジャーナリストからフィリップ・グリーンの話を聞いたことから生まれた。グリーンは数々のファッションブランドを経営するアルカディア・グループのオーナーだった(グループは昨年11月に経営破綻した)。
「グリーンは自分が同意しなかったり、気に入らない記事を見つけると、真夜中であっても記者に電話をかけて、叫び、しつこく説教するような人らしい。それに従業員に対して虐待的な態度をとる人物でもある。でも、友人から彼の話を聞いているうちに、部下やアシスタントがたくさんいるであろうグリーンが自分で、直に記者に電話するところや、あれだけの富を手にしていても、97セントと98セントの差に執拗にこだわる部分に興味を持ったんだ。
あれだけの会社を持っていて、大きな存在感があるはずなのに、1セントの損も許さない姿勢を隠さない。彼が一体、何に突き動かされているのかが、よく見える想いがした。そこで“彼のような人物を主人公にすれば、ファストファッションの世界をエンタメ的に描くことができるのでは?”と思うようになったんだ」
映画の舞台はギリシアのミコノス島。ファストファッション・ブランドで成功をおさめたリチャード・マクリディは、自身の誕生日を祝うために、この地で大規模なパーティを予定している。離婚した元妻や息子、母と島に乗り込んだ彼は、自分の伝記本を書く作家まで引き連れて、ド派手で、自分の力を誇示するような一夜にするべく準備を進める。
一方で彼はイギリス当局から脱税疑惑をもたれ、海外の生産拠点の劣悪な労働環境を問題視されている男でもある。即席のコロシアムが建設され、本物のライオンが運ばれ、有名セレブをゲストに呼ぶべく奔走するマクリディ。しかし、傲慢なこの男が築き上げてきた帝国は少しずつほころび始める。
ウィンターボトム監督は、主人公マクリディのミコノス島での6日間を主軸にしながら、マクリディの半生、彼の家族のドラマ、あまりにも過酷で劣悪な環境で働かざるをえない人々の状況、島にいる難民のエピソードを巧みに構成した。
ポイントは、劇中にマクリディの伝記本を書くために取材にきた作家を置いたことだ。この作家は華やかな世界を眺めながら、内心ではマクリディのような人間を許せない。しかし、彼は仕事で取材しているので、傲慢で湯水のように金を使うマグリディに追従している。格差は許せない、ひどい環境で働く人がいることも許せない、でも安いファッションはありがたいし、金のためなら働かざるを得ない……現代の顧客と伝記作家はある意味で同じではないだろうか。
「ファストファッションで稼いだ金で豪勢な暮らしをしている世界と、貧しい地域で過酷な労働をせざるを得ない人がいる世界が存在する。このふたつはまったく離れた別の世界のように見えるけど、実はしっかりとつながっているんだ。伝記作家はこのふたつの世界の間にいて、ふたつをつなぐ役目を担っている。
この映画をつくる上で調べていて興味深いと思ったのは、ファッションの世界は、他の業界とくらべて現実の世界で起こった出来事を隠そうとする傾向がある、ということだ。彼らはモデルに自社の洋服を着せたり、セレブとデザイナーを並べて立たせたり、その様子を雑誌やネットで記事にしたりすることで、ファストファッションの現実から気を散らせようとしている。
もちろん、我々がこの状況に過剰に責任を感じる必要はないと思う。でも、豪勢な暮らしをしている世界と、過酷な環境で働く人のいる世界がつながっているのだと改めて感じることができれば、我々も違った行動をとるようになるかもしれないと思ったんだ」
国外の人々を極端に低い賃金で働かせることで築き上げた巨大な帝国。本作はその不気味さと滑稽さを徹底的に描き出し、そこに亀裂が入る過程も描いていく。でも、映画の中で帝国が崩壊したとして、金持ちに罰がくだったとして、我々はスッキリして良いのだろうか?
「映画の中の話だから、スッキリしていいんだよ! 映画の中だから観客が考える天罰を与えることもできるしね。でも、現実の世界では億万長者にはあまり悪いことは起こらないんだ。主人公のモデルになったフィリップ・グリーンのグループも経営破綻したけど、彼はいまだにお金持ちのままで、その資産は子供に受け継がれようとしている」
この映画の主人公マクリディにも気弱な息子がいる。強欲を絵に描いたような男の富は、この子に受け継がれるのだろうか?
「50年前、世界はここまで格差が広がっていなかった。現代はあの頃よりもさらに不平等になっているし、富が一部の人間に集中している。そして、その富は次の世代に継承され、格差はさらに広がってしまう。それこそが僕がこの映画で描きたかったことのひとつなんだ。私たちは本当に“親の持つ資産によって自分という人間が決定されてしまう社会”を望んでいるのか? それとも望まないのか? それは我々に委ねられた問題だと思う」
『グリード ファストファッション帝国の真実』
6月18日(金)公開