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『恋はつづくよどこまでも』が好調! 社会派な火曜ドラマ枠で王道ラブコメが成功したワケ

リアルサウンド

20/2/25(火) 6:00

 『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)が好調だ。リアルタイム視聴率と録画・見逃し配信によるタイムシフト視聴率がそれぞれ10%前後を記録し、関連ワードがTwitterでトレンド入りするなどハマる視聴者が続出している。

参考:『恋はつづくよどこまでも』で佐藤健の虜に “彼氏みが強い公式LINE”にも通ずるマインド

 内容は主人公の看護師・佐倉七瀬(上白石萌音)が仕事に恋に奮闘する王道のラブコメディ。好調の要因として、主演の上白石萌音と相手役のエリート医師・天堂浬を演じる佐藤健の振り切った役づくりが挙げられる。そのドSな性格から「魔王」と称される天堂とドジっ子を絵に描いたような七瀬のかけ合いは今作の見どころになっている。

 『恋つづ』が放送されるTBS火曜22時からの「火曜ドラマ」枠では、2019年に『わたし、定時で帰ります。』(2019年4月期、以下、『わた定』)や『G線上のあなたと私』(同10月期、以下、『G線上』)が話題になった。働き方改革を意識した『わた定』、音楽教室に通う3人のつながりを描いた『G線上』は、社会派路線として注目を集めた。

 『わた定』や『G線上』が支持されたのは、働き方やライフスタイルが多様化し、女性の社会進出もこれまで以上に活発になる中、様々な事情から居場所を見つけることができない人々の存在や、制度疲労が顕著な労働環境で男女ともにすり減っていく現実のスナップを提供したことが大きい。

 この点、『恋つづ』の舞台設定は病院で、看護師は伝統的に女性が多く、医師とその他の医療従事者の間には明確なヒエラルキーが存在するなど、やや特殊な環境であることは否めない。リアリティがないことは自由に想像を膨らませる余地があるとも言えるが、『恋つづ』の場合は、視聴者を引き付ける工夫が随所にほどこされている。

 恋愛ドラマの主人公には共感できるキャラクターが求められる。恋愛の絶対的強者のような佐藤演じる「魔王」天堂に「勇者」七瀬が立ち向かうRPGに見立てた構図は、今作の感情移入ポイントを端的に示している。

 主演の上白石萌音は現在22歳だが、これまでに映画、舞台の主演や映画『君の名は。』ではヒロイン宮水三葉の声を演じ、歌手としても活躍。プライム帯連続ドラマ初主演の今作でも、そのポテンシャルの高さを存分に発揮している。

 佐藤について言えば、もともと絵になる役者だが、今作では表情や雰囲気を含めて意識的に役作りに注力。このところイケメンキャラを封印したような役が続いていたので、ファンは嬉しい思いだろう。デフォルメされた漫画っぽさを自然に感じさせる2人の演技がドラマの推進力になっている。

 ライバルが魅力的であることも恋愛ドラマの必須条件だ。天堂が恋愛に踏み切れない理由には病死した恋人の存在があり、その恋人に瓜二つの妹みおり(蓮佛美沙子)が天堂の前に現れる。同じ頃、天堂と同期の医師・来生(毎熊克哉)も七瀬への思いを打ち明ける。

 漫画原作ならではのベタな展開を魅力的にしているのは定評のある共演陣だ。来生を演じる毎熊は映画『万引き家族』や『AI崩壊』、連続テレビ小説『まんぷく』(NHK総合)など話題作に出演。遠回しに七瀬を見守る来生の天堂と違う意味での男気と優しさに触れて、SNS上では「来生担」を表明するアカウントが相次いでいる。

 その他にも、実力派や若手の有望株をそろえたキャスティングは今期随一。特徴的なのは、佐藤健や香里奈、山本耕史など30代以上の主演クラスと、上白石をはじめ、吉川愛、堀田真由、渡邊圭祐と言った勢いのある若手を融合させているところだ。ここからはメイン視聴者である30~40代女性に加えて、10代、20代に訴求しようとする明確な意図が読み取れる。

 もともと火曜ドラマがターゲットにしているのは、30~40代の女性と言われており、この中には働いている人や子育て中の主婦も含まれる。ライフスタイルが多様化し、職場や家庭で課題を抱えるこの年代にとって、社会的なテーマあるいはまったくリアリティを欠いた設定というある種両極端な割り切り方は、ドラマに求めるものとして合理的だ。

 同枠の代表作は『逃げるは恥だが役に立つ』だろう。契約結婚ではじまった同居生活が次第にリアルな恋愛関係に発展していく様子を描き、「好きの搾取」という言葉に代表される恋愛を取り巻く権力関係をさりげなく暴きつつ、現実とファンタジーという同枠の性格を規定する作品だった。

 また、同枠で女性作家の原作が次々と起用されてきたことも見逃せない。『逃げ恥』の海野つなみ、『あなたのことはそれほど』『G線上のあなたと私』のいくえみ綾、次クールで放送予定の『私の家政夫ナギサさん』は四ツ原フリコと女性漫画家であり、『わた定』は小説だが原作者は朱野帰子だ。制作サイドの方針もあると思われるが、「女性から見た社会と恋愛」というテーマは一貫しており、円城寺マキの原作による『恋つづ』もこの系譜に連なる作品と言える。

 ドラマに現実との接点が求められる中、純粋にドラマのおもしろさを楽しめるのはラブコメならではの利点と言える。『わた定』や『G線上』でも、主人公の恋が進展する場面で明らかに視聴者の熱量が高まっていた。バレンタインデーとホワイトデーを間に挟む1月期の火曜ドラマは、昨年の『初めて恋をした日に読む話』(2019年1月期)などラブコメの登場頻度も高い。ぜひ『恋つづ』でスウィートなドラマの魅力を堪能してほしい。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。

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