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『ONE PIECE』空島編で”脱落”するのはもったいない! ロマン溢れる冒険譚の魅力を再検証

リアルサウンド

21/1/29(金) 12:00

 「週刊少年ジャンプ」にて1997年に連載を開始し、今なお不動の看板作品としての地位を確立している海洋冒険ファンタジー作品『ONE PIECE』(集英社)。最新97巻時点での累計発行部数は4億7000万にのぼり、歴代漫画作品でもダントツのトップとなっている。今日まで『ONE PIECE』は漫画界の第一線を走り続けてきたが、刊行から20数年、単行本巻数も90巻を突破すれば、連載途中に”脱落者”が出てしまうことも想像に難くないだろう。

 その”脱落者”が多いと言われているストーリーが存在する。それが麦わらの一味が空の海で大冒険を繰り広げる、“空島編”だ。そこで本稿では空島編での脱落者が多い理由を考察し、その上でストーリーの魅力を改めて紹介する。

 空島編はルフィ達麦わらの一味のログポースが、航海中に空を指す場面から始まる。空に浮かぶ島・空島があると仮説を立てたルフィ達は、海賊が闊歩する島・ジャヤで空島についての情報収集を始めた。しかし空に島があるという非現実的な話を本気で信じるルフィ達を見て、海賊達は大笑いし、蔑む。

 そんな中1人の男が、一味のロマンを叶えるべく名乗りを挙げた。その男の名はモンブラン・クリケット。モンブラン・クリケットは世界中で嘘つきとして知られる、冒険家・モンブラン・ノーランドの子孫である。黄金卿をジャヤで見たと自国の王に嘘をついたノーランド。クリケットはそんなノーランドの子孫であるが故に、毎日を馬鹿にされ生きてきた。

 そしてクリケットは自身を苦しめてきたノーランドとケリを付けるため、ノーランドが処刑直前に残した「黄金卿は海に沈んだのだ」という言葉のもと、毎日黄金を探しに身一つで海に潜り続けていたのだ。彼もまた人に笑われ、誰も信じないロマンを追い求める海賊だったのである。クリケットは空島に行く方法を一味に指南し、自分のような馬鹿な夢を見るルフィを、海賊団総出で援助する。

 空島への出航当日、ルフィはフライングモデルとなったゴーイング・メリー号で、ノックアップストリーム(突き上げる海流)が発生する目標地点へと帆を進めた。一気に立ち昇る海流に乗って、空に向かって突き進む船。気付けば一味は、空に浮かぶ白い海の上を漂っていた。大喜びで空に浮かぶ国・スカイピアに上陸するルフィ達。空島の不可思議さに大興奮の一味だが、空には空を治める人間がおり、空には空の戦いがあった。こうしてルフィ達は空島での戦いに巻き込まれていくこととなる。

 “他人に笑われた夢を実現する爽快感”や“海賊が空を旅するワクワク感”など、こんなにも面白い要素が備わっているにも関わらず、冒頭でも述べたように空島編での脱落者は多い。その理由は主に「敵キャラの物足りなさ」にあると筆者は考える。

 『ONE PIECE』でも屈指の人気エピソードとして語られるアラバスタ編。アラバスタ編の人気の理由には、名悪役として名高いクロコダイル率いる秘密結社・バロックワークスの存在がある。王下七武海サー・クロコダイルの名前には当時計り知れないほどの迫力があり、組織メンバーを実力順にランク付けするシステムも、少年心をくすぐる仕様となっていた。

 しかし空島編での敵である神官やシャンディアなどは、悪魔の実の能力者もおらず格上の相手というわけでもないため、どこか物足りなさを感じる。

 そのなかで空島編最強の敵である神(ゴッド)・エネルは、ロギア系悪魔の実・ゴロゴロの実の能力者だ。雷の力を操りどんな強者でも一撃で仕留めてしまうエネルに、絶望した読者も少なくないだろう。それだけに一味はどのようにエネルに一矢報いるのか気になったものだが、その方法はゴムと電気の相性を利用しルフィが勝利するという少々呆気ないものだった。クロコダイルを打ち負かした際は、知恵を振り絞り工夫を凝らして勝利をもぎ取ったルフィ。もちろんルフィ自身の実力が高いことは大前提にあるが、“ゴムの能力を得ていたから勝利した”というある意味運要素が強い勝ち方に、少しがっかりしてしまった読者も少なくないように思う。

 また『ONE PIECE』の世界では、仲間の存在が非常に大きな意味を持つ。アラバスタ編では仲間であるビビのために戦い、そのストーリーに読者は共感し感動を覚えた。心身共に傷つけられたビビのために戦うルフィ達を見ると、手に汗握り応援したくなる。しかし空島編にそういったストーリーはない。

 そのため感情を揺さぶるようなストーリーを求めている読者からすると、空島編はどこか冗長な印象を与えてしまうのだろう。しかし、もちろん空島編を推しエピソードとする読者も多く存在し、空島編には空島編なりの魅力がある。その筆頭と言えるのが「黄金探しの冒険」と「ノーランドとカルガラの物語」だ。

 空島にてナミは驚くべき物を発見する。それはジャヤに存在したはずのクリケットの自宅の片割れ。黄金卿のあったジャヤは海に沈んだのではなく、一味が乗ったのと同じ上昇海流で空に飛ばされ、空に浮かんでいたのだ。そしてそれに気付いた麦わらの一味は黄金探しの冒険を開始する。ノーランドが残した「ドクロの右目に黄金を見た」という言葉を頼りに、謎を解きながら黄金に近づく一味。この謎を解きながら密林を進み、黄金を探すという展開こそが、空島編の大きな魅力だ。空に島があり、その島には謎と黄金があり、そして敵がいる。『ONE PIECE』にて必須である“ワクワクする冒険”というカテゴリーで言えば、空島編は随一のエピソードだと言える。

 そして空島編の1番の魅力は、新世界編に突入した現在でも指折りの名ストーリーとして語られる、「ノーランドとカルガラの物語」だろう。クリケットの先祖にして、世界一の嘘つきとされるノーランド。ノーランドは過去、実際に空に飛ばされる前のジャヤを訪れていた。当時ジャヤには正体不明の伝染病が蔓延しており、それを呪いと勘違いした島民は神と崇める大蛇に生贄を納めている。

 しかしノーランドはその大蛇の首を一刀両断。食ってかかるジャヤ1番の大戦士・カルガラに、自分がこの村を救って見せると言い切ったのだ。そしてノーランドは実際に特効薬を作り、村を救う救世主となった。その後ノーランドとカルガラはすっかり意気投合し、親友となる。そしてカルガラは自分達の大切な黄金卿をノーランドに見せた。ノーランドは特に黄金の鐘の音色を気にいるが、そんな矢先ある事件が起きる。カルガラを含む村の人間が、ノーランド達に冷たく当たるようになったのだ。突然の事態に困惑するノーランドだが、出航間近にその真意を知ることとなる。ノーランドはカルガラ達が命よりも大切にしている先祖の魂が宿る“身縒木”を、全て切り倒してしまったのだ。

 しかしそれには理由があった。ジャヤを蝕んでいた伝染病「樹熱」は、樹から人間へと感染る病だ。そして身縒木はすでに樹熱に蝕まれていたため、ノーランドはそれらを切り倒した。その事実を知ったカルガラはかけがえのない親友を失ったことに気付き、出航してしまったノーランドに「鐘を鳴らして君を待つ!!!!」と言い放つ。その後ろでは黄金の鐘がいつにも増して強く鳴り響いていた……。

 しかしノーランドとカルガラは、その後再会を果たすことはなかった。それは、ノックアップストリームによってジャヤが空に飛ばされてしまったためだ。そして数百年後ジャヤの片割れで黄金を夢見るクリケットに、空島から黄金の鐘の音を届けるルフィ。数百年もの時ををかけ、黄金の鐘の音はモンブランに届いたのだ。

 確かに一味のメンバーが各々個性の強い敵と仲間のために戦う、胸が熱くなる感覚が好きな読者であれば、空島編は少し物足りなく感じてしまうかもしれない。しかし空島編には他のエピソードでは味わえない“少年少女のロマン”が詰まっているのである。もし本稿を読んでいる人のなかに、実際空島編で脱落した読者がいれば、ぜひもう一度空島編の完読に挑戦してみて欲しい。

■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆ており、主にwebメディアで活動している。

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