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みうらじゅんの映画チラシ放談

『オールド』『岬のマヨイガ』

月2回連載

第66回

『オールド』

── この連載で取り上げた『いとみち』を観てきました。みうらさんの予測がムチャクチャ当たってました。ちゃんと女子高生が三味線で人間椅子の曲を弾いてたんです。

みうら え!? マジですか(笑)。気持ち悪いくらい当たってましたね。この連載、頑張って最も遠いところに投げて喋ってるつもりなんですけどね。もはや「なわけない!」じゃなく、「なわけある!」ことになっちゃいましたね。

自分で言っといてなですけど、今年、一番驚いた出来事かもしれないです(笑)。

── さて、今回1本目に選んでいただいたチラシは『オールド』です。

みうら というか、シャマランさんの『オールド』ですよね。だから、毎回いい意味でも悪い意味でも「騙されるぞ」って肝に命じて観に行ってるわけでね。これはもう、騙されついでに、ですから。ま、シャマランさんもこのタイトルからして “老いるショック”を迎えられたんでしょうね。

で、やっぱり気になるのは、このチラシに写ってる人の右側がもう骨になってること。これってよく“老いるショック”な人たちが言う「オレもう片足棺桶に突っ込んじゃってるから」ですよね。その言い回しは言葉では聞いたことあるけど、ビジュアルとして具現化されたものを見たのは初めてです。

ビーチが舞台みたいですから、そこが“老いるショック”を早める現場なんでしょうね。ここに行くと一気に老ける。シャマランさんは今おいくつになられたんですか?

── シャマラン監督は現在51歳ですね。

みうら 昔から男は“ハメマラ”って言う年頃ですね。まず老いが歯に来て、次に目が霞み、そしてマラに来るっていうのが順番でした。たぶんシャマランさんも、それそろクリアされるんじゃないですか?

まあビーチと言えば若者のイメージがあるからこそ、なにかに若さを吸い取られるみたいな騙しネタを考えつかれたんだと思うんですが、このチラシを見る限り、それは砂の下じゃないですかね? 砂の下に、若さエキスを吸い上げるモンスターがいるのかもしれない。

水着になって、少し砂浜に佇んだが最後、一気に老け出し海には入れないっていう映画だと思いますね。オールドになると体を冷やすことが、一番いけませんから。当然、そのモンスターはかつてそのビーチで亡くなった兵士なんじゃないでしょうか?

── つまり死者が蘇る系のホラーですね。

みうら そうですね。砂を深く掘ったら兵馬俑の遺跡みたいなのが出てくるでしょう。でもチラシには“謎解き”としか書いてないですね。亡霊とかモンスターのことは一文字も書いてない。でもシャマランは、とにかく意外性で騙してくる人ですから、実は巨大なハマグリかもしれません。潮干狩りで採られてきた恨みから、巨大化したハマグリが出現する可能性もあります。

実は最近、『土偶を読む』って本を読んだんです。土偶って基本、人間を模したと思われてきましたけど、本当は植物だったり貝だったり、そういうもののキャラ化ではないかという説を唱える本なんですよ。その土地で採れたとか栽培してたものをゆるキャラ化したもんじゃないかと書いてあったんです。

── ゆるキャラと言えばみうらさんの専売特許ですが、“ゆるキャラ”って本当に書いてありました?

みうら それが本当に書いてあったんです。僕もね、自書の『ゆるキャラ大図鑑』でゆるキャラは八百万の神だと書きましたし、自然崇拝、アミニズムの対象は、人物ではなくて食物だった説に合点がいったというか。

このビーチも、かつてはもっと内陸だった可能性はありますよね。貝塚だった場所がビーチになった。貝塚もゴミ捨て場ではなく、祭事の場所だったという説がありますから、祀られていたハマグリが、人間の若さエキスを吸い取ることによって復活する。そんな呪術的な物語に違いありません。

シャマランさんはドンデン返し的なことをいつもしでかすじゃないですか。なにかやってはくれるはずですが、とにかく夢オチだけはやめてほしいと願うばかりです。

── シャマランも、過去に夢オチだけはやってないですね。

みうら かと言って、のっけから「こんな夢を見た」では、黒澤映画のパクリになりますからね(笑)。

あと、チラシに『OLD』ってタイトルがカタカナじゃなく英語で表記してますでしょ。このOとDがね、どうも貝の形状を連想させるように作ってるような気がするんですよね。

だからこのチラシのアルファベットは、貝が埋まっている場所を指し示してると思うんです。そうなると、間に入ってる“L”の文字も、なにかを模してないとおかしいですが、そこまではまだ流石の僕も考えつきません(笑)。

このチラシの人は腕輪もしてるし、足にもアンクレットをつけてるでしょ。これは古代の装飾品を示唆してるとみて間違いありません。ちょうどその下に“O”と“D”があるわけですから。これは絶対にハマグリの逆襲映画ですよ! たぶん、観終わったら焼きハマグリが食べたくなるでしょうね。

『岬のマヨイガ』

── 続いて選んでいただいたのは『岬のマヨイガ』です。

みうら アニメには全く疎いんですけど、『若おかみは小学生』っていう映画にはピン! ときて観に行ったんです。この連載でも“若小”のチラシを取り上げましたけど、本当、ボロ泣きしたんですよ。このチラシも、なんだかその匂いがしたんですよね。あの映画の絵の感じにちょっと似てると思って。

当然、空に飛んでいるのはシーサーですよね。舞台は沖縄なんでしょうね。他にもカッパっぽいのもいますが、沖縄ですからこれはキジムナーですよね。

『若おかみは小学生』でも、友達になった子供の幽霊がいろいろ助けてくれたりするんです。それがまた、シルバー料金男の涙腺を痛めつけるんですけど、これもきっと、不思議な妖怪たちが主人公を守るに違いないと思いますね。それにね、意外なことに、って自分で言うのもなんですけど、僕、すごく沖縄が好きなんですよ。

── こないだは、青森がお好きだと仰ってましたが。

みうら そうなんですけど、沖縄も好きなんですって(笑)。波照間も行ったし、与那国島も行ったし、結構離島にも足を伸ばしてるんです。ただ、そこまで行ってるのに、ほとんど海に入ったことがない。そもそも、ほぼ泳げないっていうのが大きな理由なんですが、海を見るのは大好きで。ただ、ビーチに座ってるだけなんですけど……って、僕は沖縄のビーチで随分若さを吸い取られてきたんです。

── いきなり『オールド』とつなげてきましたね(笑)。

みうら オールドになってからよく行くんですがね(笑)。

波照間島っていうところに、ムシャーマっていうお祭りがあるのご存知ですか? 白い布袋さんのようなお面をかぶって、海岸を練り歩くんですがね。実はこれがそのお面なんですけど、沖縄ではミルク様って呼ばれている弥勒菩薩のことなんです。南国なのに顔が真っ白いのも、確実に異界から来たっていう現れだと思うんです。

みうらさん私物のミルク様

その祭りをすごく見たくて、2回も石垣島まで行って、波照間に渡ろうとしたんですが、2回とも海が荒れていて船が出なかった。

で、これもずいぶん昔の話ですけど、沖縄本島の国際通りのアーケード商店街に、このお面を見つけたんです。値段を見ると3万5千円って書いてあるんで、高くてそのときはやめたんですけど、それからさらに10年くらい経って同じ店に行ったら、まだ置いてあったんです。もう覆ってあるビニールはカピカピになっていてね。でも、これはきっと僕のために残ってたんだなと思ってね、ようやく買いました。

でも、いつものケチ根性が働いたんです。なにか仕事で使えるんじゃないかと思って、領収書くださいって店のおばちゃんに言ったんです。そうしたら奥の方からなんとか1枚探し出してきて領収書を書いてくれて、僕はその場で財布にしまったんですけどね。帰りの飛行機でなにげに取り出して見てみたら、但し書きになんと“ミルク代”って書いてあるじゃありませんか(笑)。

── 決して間違ってはいないですね(笑)。

みうら 間違っちゃないんですが、フツー、赤ん坊のミルク代は経費で落とせませんからね(笑)。ま、そういう思い出が沖縄にはいろいろあるので、たぶんこの映画もボロ泣き間違いなしだと思うんですよ。

── ちなみにこの映画、東北が舞台みたいです。

みうら ええ! でもチラシにシーサーいるじゃないですか!

── 確かにシーサーに見えるんですけど、チラシのウラ面に“岩手県に伝わる不思議な伝説”って書いてあるんですよ。

みうら あ、これ? オモテ面の絵は確実に沖縄に見えますけど……。じゃあ、このカッパみたいに見えるのは、キジムナーじゃなく100%カッパってことですか? じゃあ遠野物語で有名なカッパ淵での話ですか?

── でも“岬の”って言うんだから海沿いが舞台じゃないですか?

みうら そういや、どこにも『若おかみは小学生』のスタッフがお送りするって書いてないですよね……。

── いや、『若おかみ』は、みうらさんが勝手に連想しただけですから(笑)。

みうら でも、これはシーサーですよね。しかも空からやってきてますもん。じゃあ、こうだ。岩手に住んでる女の子が沖縄に住んでる親戚のばっちゃんに会いに行く話ですね。チラシに書かれている“マヨイガ”っていうのも沖縄の言葉でしょ? 大竹しのぶさんが声優を務めているキワさんっていうばっちゃまは沖縄の方でしょ?

── でも“マヨイガ”自体が東北、関東地方に伝わる言葉らしいです。伝説の家のことだとか。

みうら もう全否定ですね(笑)。ひょっとしてもう、ご覧になっているとか? でも、だったらチラシにふたつもシーサーを入れてくることないじゃないですか。

── 確かにチラシから読み解く以上、シーサーを無視するわけにはいかないですもんね。

みうら でしょ。マヨイガというのも、本当はニライカナイのことでしょ。

分かった! このキワさんがキジムナーなんですよ。キジムナーが変身してるんですよ。それで、この少女を迷いから救おうって沖縄から岩手に飛んでくるんですよ。ついでに沖縄からシーサーを連れてきた。

でも、ひとつだけ疑問に思ったのは、このチラシの人物たちがみな長袖だってことなんですよね。海や空は夏場に見えるのに、岩手だと寒い日もあるんですかね?

── 主人公の女の子は、パーカー着たりして、結構防寒対策してますね。

みうら そうなんですよ。でも、このキワというお婆さんがキジムナーだってことだけは間違いないと思いますけれども。あと、ひょっとしてですけど、この3人ともが妖怪だったりして。妖怪が都市開発で住んでいたところから追われちゃって、キワさんが伝説の家を作ってそこをたまり場とするみたいな。

── 確かにそれなら、シーサーとカッパが出てきてもぜんぜん不思議ではないですね。

みうら きっと芦田愛菜さんが声優を務めている少女は、自分が妖怪だってまだ知らないんですよ。そこをばっちゃまに「なんでお前がここにいるか分かるか? それはな、お前が妖怪だからじゃよ」って言われて、一度泣くシーンがあると思いますね。

一番悩みが深い思春期なのに、その上、実は妖怪であったと知らされて、もっと大きい悩みに胸を痛める女の子の話。まだ観ていないのに僕も泣けてきましたよ。

取材・文:村山章

(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
(C)柏葉幸子・講談社/2021「岬のマヨイガ」製作委員会

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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