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『MIU404』に騙され続けている気がしてならない 死を恐れなかった星野源の真意とは?

リアルサウンド

20/7/18(土) 6:00

 現実社会では騙されるとしゃくだが、ドラマならば大歓迎だ。金曜ドラマ『MIU404』(TBS系)は、毎度のことながら驚かされる。それは、自分自身の視野の狭さにだ。騙されるのは、それだけ一つの面しか見えていない証拠。人は自分がわかるものから認知して、知っていることを真実と思い込もうとする生き物だ。そういえば、第1話から志摩(星野源)はそう言っていたっけ。「思い込みで話が曲がる。無意識のうちに」と。

参考:『MIU404』綾野剛×星野源のバディ感 “同じ側に見える2人”のキャスティングの狙いとは?

 知らず知らずのうちにバイアスがかかって「きっとこうに違いない」という思い込みを生む。でも、つぶやきの読む順番が逆になれば、意味が全く変わって伝わるように、異なる側面から見た事実にハッとすることになる。このドラマは、そんな気づきの連続なのだ。

 第4話、サブタイトルは「ミリオンダラー・ガール」。暴力団によって闇カジノに引きずり込まれ、人生を狂わされた青池透子(美村里江)が、1億円を持って逃走した。1話完結の刑事モノ。通常であれば、この事件が解決されてスッキリ、めでたしめでたし。

 だが、それが思い込みというもの。『MIU404』は、そんな簡単な話で終わらせてはくれない。追い詰めたところで1億円が入ってるはずのスーツケースは空だ。じゃあ、なんのために? 描かれるのは「1億円の女」の行末ではなく、なぜ「1億円の女」がその行動に走ったかだ。

 青池透子は、銃で撃たれて重傷を負っていた。それでも彼女は病院へは向かわず、逃げ続ける。流れる赤い血液。押し寄せる痛み。上がる呼吸……逃げる青池透子の様子を文字にしてみると、まるで出産をしているかのようだ。多くの犠牲と引き換えに集まった汚いお金。どこにいっても搾取される側になってしまう弱い自分。この命がけで作った1億を、キレイで価値あるものに産み落とすことができたら……。青池透子は自分で自分の人生を受け入れられると考えたのかもしれない。

 「賭けてみる、一度も勝ったことないけど」その青池透子の言葉に、第3話で語られた“人によって人生の障害の数が異なる”という話を思い出す。いろんな考え方があるとは思うが、個人的には生まれる環境を選べた覚えがない。国も、性別も、身体的特徴も、そして時代も……世の中にはその生まれたスタートラインの段階で、理不尽な状況を避けられない人がいる。

 そして、現代社会においてもなお「ガール」であるという事実が、その大きな障害になっている。「1億の“女”」の逃走劇を「ミリオンダラー・“ガール”」と題したのは、青池透子も「ガール」の1人にほかならないから。そして「ガール」とは「女の子」であると同時に、守られるべき「弱者」を全般を象徴している言葉にも思えてくる。

 「10億の女神」と讃えられながらも警察から守ってもらえなかった情報提供者・羽野麦(黒川智花)もそう。「通報するな」と社長に言われて自分の正しいと思うことができない青池透子の同僚たちもそう。数の論理で少数派になれば、誰だって、いつだって「ガール」の1人になる可能性がある。

 でも、そんな「ガール」たちに手を差し伸べるためには、心と金銭的な余裕が必要で。強者になるのは、いつも弱者から搾取する人たちばかりで。メディアには「いいことがしたい」という善意が「迷惑だ」と言うセンセーショナルな切り口ばかりで。SNSではノイジーマイノリティーに打ちのめされて……結局、その事件がなくならない。

 「月給14万円で何ができるだろう」「どこならキレイに生きられるのだろう」と絶望する青池透子は、私たちそのものだった。どこか知らない国の「ガール」だけじゃない、厳しい現実はすぐそばにある。それでも、人は生きるしかない。青池透子も走ったのだ。最後に1つくらい、自分が生きた意味を作ろうとして。暴力団を、警察を、そして視聴者を騙しながら19時まで逃げ切って、1億円の眼を持つ兎が「ガール」たちのもとに届くように。

 死の直前に、本当はどう生きたいと願っているのか、その本性が見える。ならば、銃を突きつけられ、全く死を恐れなかった志摩のあの言動は何だったのだろうか。「二度とするな」と怒る伊吹(綾野剛)に、飄々と「合点承知之助」と答える志摩。「合点承知之助」と答えるときには、合点してないときだったはずだ。

 ところで、第3話であれほどサプライズで驚かせてくれた謎の男(菅田将暉)がチラリとも出てこなかった。加えて、これまですぐに事件に食いついていた特派員REC(渡邊圭祐)も姿もなく、代わりに新たな黒幕としてエトリも登場してしまった。その正体も気になるところだ。

 そして、何より第1話から街のビジョンや新聞など、ところどころ出てくる2019年(令和元年)の数字。なぜ、1年前の5月が今描かれているのだろうか。もしかしたら私たちは何か大きな真実を見落としてはいないか。欺れるのではないか。その予感がすごい。もちろん、気持ちよく騙される覚悟はできているつもりだ。この先、盛大に裏切ってくれることを期待してやまない。

(文=佐藤結衣)

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