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樋口尚文 銀幕の個性派たち

神戸浩、 不謹慎な笑いを誘う異形の人

隔週連載

第7回

18/9/27(木)

『星めぐりの町』 (C)2018 豊田市・映画「星めぐりの町」実行委員会

 一度その風貌と声に接したらまず忘れることはないであろうバイプレーヤーが神戸浩だ。年齢不詳だが、実は1963年生まれの55歳。思えばずいぶん前から神戸浩を見ている気がするのだが、出身の名古屋に根を張ってさまざまな作品に顔を出してきた。もともとは北村想の劇団に参加していたが、その「異形の人」ぶりが目立って、いつしかドラマやCMに引っ張り出されるようになる。私の最初の神戸体験は、80年代半ばくらいの川崎徹のデパートのCMで、それはナレーションだけだったが、あまりにも異色の声で気になった。

 以後、86年の山川直人監督の『ビリィ★ザ★キッドの新しい夜明け』でも見かけたが、テレビドラマに最初に出たのは91年のフジテレビ『世にも奇妙な物語』“黒魔術”あたりだろう。実はこの作品の監督と親しい関係で、私は現場に陣中見舞いに行ったのだが、いきなり台詞つきで出演させられることになった。その現場にいたのが、神戸浩その人で、私はご本人のキテレツな雰囲気が面白くてしかたなく、終日ロケバスで一緒なのでにわかに親しくなった。神戸浩と親しい俳優として高嶋政伸の名前が挙がるが、その出会いもこの時だった。そして高嶋は神戸に会うなり、以前からよくよく注目していることを嬉しそうに告白していたのを思い出す。

『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(C)2007「ALWAYS 続・三丁目の夕日」製作委員会

 神戸の風貌と声のキテレツさは、そもそも脳性麻痺の後遺症に由来するものだというので、それに大笑いというのも不謹慎なのであるが、そんな神戸を見ていて思い出すのはまだ「からだの不自由な方」という表現のなかった昭和の感覚で、たとえば町内に神戸のような人がいたら、その奇異なる見え方をクスクス笑ったり茶化したりはしていたが、それゆえに逆に差別意識より親しみが勝っているという側面はあった。だから、神戸がスクリーンやテレビに出たての頃は、私は罰当たりながらその演技に爆笑していた。ヴィム・ヴェンダースの大作『夢の涯てまでも』で、新橋のカプセルホテルをちょこまかと走る神戸浩を一瞬見かけた時は、ああヴェンダースもきっと神戸には大笑いしたのだろうなと現場を空想した。

 だが、こういう「異形の人」としてのキワモノ的な売りが虚しいものであることも、神戸はすぐに気づき出していた。その不安と不満に真っ向から答えてくれたのが、なんと山田洋次だった。1996年の『学校Ⅱ』で神戸が演じたのは、高等養護学校の知的障碍児の役だったが、それまで見てくれの面白さで乗り切っていた神戸をしごいて、山田監督は地に足のついた演技に開眼させた。神戸がこの作品で日本アカデミー賞の優秀助演男優賞を受賞した時は快哉を叫んだが、実はこの前後も『男はつらいよ』シリーズや『たそがれ清兵衛』などで神戸はすっかり山田組の常連となっていた。山田洋次としては、寅次郎という市井のはぐれ者とともに、神戸扮する町で時たま見かけるキテレツな人、という感じのアウトサイダーぶりがとても気に入ったのであろう。

 神戸には、そういう正体不明の町なかのヘンな人という役柄がいたく似合う。そしてその線での神戸をかなり活かしきっていたのが、2014年の山本一郎監督『あのひと』だろう。織田作之助が遺したという幻の脚本による本作は、太平洋戦争末期の緊迫した世の中の空気と対照的な、脱力したダメダメな小市民たちを描いていたが、神戸のヘンテコさとフシギな生活感が妙に心に残った。まことに愛すべき怪優である。

『あのひと』(C)山本昆虫

作品紹介

『星めぐりの町』

2018年1月27日公開 配給:ファントム・フィルム
監督・脚本:黒土三男
出演:小林稔侍/壇蜜/荒井陽太/神戸浩/六平直政

『blank13』

2018年2月3日公開 配給:クロックワークス
監督:齊藤工 脚本:西条みつとし
出演:高橋一生/松岡茉優/斎藤工/村上淳/神戸浩

プロフィール

樋口 尚文(ひぐち・なおふみ) 

1962年生まれ。映画評論家/映画監督。著書に『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』ほか。監督作に『インターミッション』、新作『葬式の名人』が2019年に公開。

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