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Official髭男dism「115万キロのフィルム」が親しまれてきた理由 映画『思い、思われ、ふり、ふられ』主題歌起用を機に考察

リアルサウンド

20/7/5(日) 10:00

 Official髭男dismは2019年に最も人気が上昇したと言っても過言ではないバンドだ。2020年になってからもその勢いは続いている。「I LOVE…」はドラマ『恋はつづくよどこまでも』主題歌になり大ヒットし、最新曲「パラボラ」はカルピスウォーターのCMソングとして人気を集めている。8月には収録曲全てにタイアップが付いたEP『HELLO EP』のリリースが予定されており、さらに人気は拡大しそうだ。

(関連:ヒゲダンの歌詞はなぜグッとくる? Official髭男dism「Pretender」を軸に特徴を読み解く

 新曲が続々と発表されているが、ブレイク前の楽曲が最近注目を集めている。2018年に発表されたアルバム『エスカパレード』に収録された「115万キロのフィルム」だ。シングル曲ではないしMVも制作されていない。しかし各種定額配信のランキングでは上位にランクインし続けている。さらに今年8月に公開される映画『思い、思われ、ふり、ふられ』の主題歌として使用されることになった。ヒゲダンの代表曲の一つになるほどの人気楽曲になっている。

 それは楽曲に求心力があることが理由に思う。ピアノの弾き語りから始まる演奏によって藤原聡の高い歌唱力と美しい声質が映える序盤で心を掴まれてしまう。楽曲の世界にどっぷりと引きずり込まれてしまう。

 また、歌の発音が独特であることも引き込まれる理由だ。文字一つひとつの発音がはっきりとしていて丁寧。序盤は語りかけるように歌っている。物語形式になっている「115万キロのフィルム」の歌詞と藤原の歌唱や発音は相性が良いのだ。歌詞を聴き取るのも容易で頭の中に言葉や内容がスッと入ってくるので、歌詞の物語に感動してしまう。

 人生を映画に例える視点も個性的で良い。表現方法を間違えればキザな歌詞になってしまうテーマだが〈初めて喧嘩した夜の涙 個人的に胸が痛むけれど そのまま見続けよう〉など描写が具体的なので素直に共感し歌詞を受け入れることができる。〈今でも余裕なんてないのにこんな安月給じゃもうキャパオーバー!〉などユーモアを交えた歌詞も良い。主人公の人間性が歌詞から伝わってきて親近感を感じる。

 最初は〈これから歌う曲の内容は僕の頭の中のこと 主演はもちろん君で僕は助演で監督でカメラマン〉とあくまで自分の妄想の話を聞かせるという入り方だが、曲が進むにつれプロポーズの歌だとわかる構成も凝っている。〈一生分の長さを ざっと115万キロ〉という後半の歌詞でタイトルの意味がようやくわかる展開も見事だ。優しいが少し頼りなさげな主人公を前半で描いているが、後半では〈すれ違いや憂鬱な展開が引き裂こうとしたその時には 僕がうるさいくらいの声量でこの歌何度も歌うよ〉という主人公の頼もしさを表現するフレーズもある。最後は〈撮影を続けよう この命ある限り〉と力強く楽曲を締めている。その歌詞からは彼女を想う気持ちが強く伝わってくる。主人公の人間性や感情の描写が丁寧なのだ。歌詞の内容がプロポーズがテーマで愛に溢れている歌だからか、結婚式で使われることも多い。それも納得の歌詞に思う。「115万キロのフィルム」はヒゲダンの楽曲としては歌詞が長い。曲の長さも5分を超えており、短い曲が増えている近年のポップスとしては歌詞も曲も長めだ。それでも最後まで集中して聴いてしまうような高い表現力がある楽曲である。

 もちろん歌詞だけでなくサウンドやメロディも魅力的だ。ミドルテンポの落ち着いた楽曲やバラードは、ストリングスを使ったり音を重ねて派手にすることで華やかで感動的な雰囲気を作り出すことがJ-POPでは多い。しかし「115万キロのフィルム」は派手な装飾は使われておらず、むしろバンドサウンドが際立っている。エイトビートのシンプルなリズムだが、音の隙間を上手く作ることで心地よいノリを作り、そのリズムに合わせるようにメロディをリズミカルに当てはめている。つまり音を華やかにして感動させるのではなく、前述した丁寧に物語を描くような歌詞を心地よいリズムに乗せて届けることで感動を生んでいるのだ。これはヒゲダンの他の楽曲でも共通している。リズムを大切にしたポップな演奏に、J-POP的な起伏が大きいメロディをリズムに合わせて綺麗に当てはめる。それが彼らの作風の個性ともなっている。

 1stシングル『ノーダウト』リリース以降はテレビドラマや映画、CMなど多くの大型タイアップが付いた。それが彼らを人気バンドに押し上げた理由の一つかもしれない。しかし、魅力的な楽曲でJ-POPとして新しい価値観を成立させたことが人気を獲得した最も大きな理由だ。だからリリース当初はタイアップもなくMVも制作されなかったアルバム曲の「115万キロのフィルム」も多くの人の心を掴んだのだ。(むらたかもめ)

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