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ヒプノシスマイク、各地域ならではの音楽カルチャーを感じとれる楽曲群ーーオオサカ&ナゴヤ・ディビジョンから分析

リアルサウンド

19/12/8(日) 8:00

 声のプロフェショナルである「声優」と、声を使った音楽表現・歌唱法の「ラップ」、そして少年マンガ的な熱い物語を織り成す「キャラクター」の要素を融合させ、音楽作品を原作にライブ・コミック・舞台・ゲームといったメディアミックス展開を行っている、男性声優によるキャラクターラッププロジェクト・ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-。「ディビジョン」と呼ばれる各地域を代表する3名のメンバーからなるチームが、それぞれの領土とプライドを賭けてMCバトルで競い合う、というストーリーがコンテンツの大枠としてあり、その各キャラクターを演じる声優が実際にラップを音源に吹き込んだりライブで披露するわけだが、本作の特徴はそこで生み出される楽曲のクオリティがとにかく高いこと。楽曲制作には、日本のヒップホップシーンで活躍するラッパーやクリエイターが多く関わっており、サウンドやリリックにヒップホップ好きの心をくすぐるネタを満載していることから、今や声優/2.5次元コンテンツのファンのみならず、あらゆるリスナーの心を掴む作品へと成長している。

(関連:ヒプノシスマイク(どついたれ本舗)「あゝオオサカdreamin’ night」MV

 今年4月にシリーズ初のアルバム作品『Enter the Hypnosis Microphone』(このタイトルはもちろんウータン・クランの1stアルバム『Enter the Wu-Tang (36 Chambers)』のオマージュだろう)を届け、オリコンウィークリーチャート初登場2位を獲得。同年9月には4thライブ『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle- 4th LIVE@オオサカ《Welcome to our Hood》』を大阪城ホールで2日間に渡って開催し、全国の映画館でライブビューイングも実施されるほどの盛況ぶりだった。その大阪公演において『ヒプノシスマイク』に新しく参戦することが発表されて話題となったのが、本稿で紹介するオオサカ・ディビジョンの「どついたれ本舗」とナゴヤ・ディビジョンの「Bad Ass Temple」の2組だ。

 『ヒプノシスマイク』には、それ以前からイケブクロ、ヨコハマ、シンジュク、シブヤの名前を冠したディビジョンが存在していたが、面白いのは彼らの音楽性が各地域ごとの実在するヒップホップシーンなり音楽カルチャーの特色を反映したものになっていることだ。例えばヨコハマ・ディビジョンのMAD TRIGGER CREWは、N.W.Aやスヌープ・ドッグらUS西海岸のギャングスタラップの流れを汲むウェッサイ系のサウンドを得意としているが、これは実際の横浜のヒップホップシーンにおいて同系統のサウンドが伝統的に人気であることと関係しているはず(日本語ラップにおけるウェストコーストサウンドの先駆者であるDS455は横浜を代表するグループとして知られる)。また、シンジュク・ディビジョンの麻天狼によるチーム曲「Shinjuku Style ~笑わすな~」はラッパ我リヤが提供したものだが、ここで聴かれるハードコアなスタイルに、新宿を拠点に活動するMSCおよび漢 a.k.a. GAMIらのスリリングなストリートライフを重ねる人も多いことだろう。

 そんなわけでオオサカとナゴヤの新ディビジョンは、どのようなサウンドを引っ提げて『ヒプノシスマイク』に殴り込んでくるのか、注目を集めていたわけだが、いざフタを開けてみたら、両雄ともまさにそれぞれの土地柄を盛り込んだ100%本気の楽曲に仕上がっていた。

 まずは、芸人の白膠木簓(ぬるで・ささら/CV:岩崎諒太)、彼の元相方で教師の躑躅森盧笙(つつじもり・ろしょう/CV:河西健吾)、詐欺師の天谷奴零(あまやど・れい/CV:黒田崇矢)からなるどついたれ本舗のデビューCD『あゝオオサカdreamin’night』について説明していこう。本作にはメンバー3人が参加したチーム曲と、メンバー個々のソロ曲の全4曲を収録(また、各キャラクターの関係性を描いたドラマトラックも収録)。なかでもYouTubeで先行発表された時点で大きな反響を巻き起こしたのが、チーム曲にして表題曲の「あゝオオサカdreamin’night」だ。本楽曲を制作したのは、今やTVやラジオといった各メディアにも引っ張りだこのヒップホップユニット、Creepy Nutsの二人。日本最高峰のMCバトル大会『ULTIMATE MC BATTLE』3連覇を成し遂げ、『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)で2代目ラスボスを務めるなど、日本屈指のラップ巧者として知られるMCのR-指定が作詞を担当。そして今年9月に開催されたDJバトルの世界大会『DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIP』で見事優勝を果たし、世界一のバトルDJの栄誉を勝ち取ったDJ松永がトラックを手がけている。

 R-指定と言えば大阪出身で、ときに関西弁を織り込む変幻自在のラップスタイルと、落語やお笑い好きの一面が見て取れる巧妙なオチと仕掛けを満載したリリック構成を身上としており、オオサカ・ディビジョンの楽曲提供にはうってつけの存在(ちなみにDJ松永は新潟出身)。なおかつ、彼がラップ百面相とでも言うべき巧みさで様々なラップを1ヴァースごとに披露していくCreepy Nutsの人気曲「みんなちがって、みんないい。」を聴いてもらえばわかるとおり、あらゆるタイプのフロウを分析して再現する技術に長けており、どついたれ本舗のやたらとアクが強い面々の個性をラップで表現するにあたって、こんなに適任な人材はいないのではないかと思えるほどだ。

 事実、「あゝオオサカdreamin’night」では3人のメンバーそれぞれが独自の個性を発揮。普段はオヤジギャグを連発しまくるという芸人の白膠木は、リリック内に〈真っさらに塗るで/刺さらん奴は〉と自らの名前をさりげなく織り込みつつ、Bad Ass Templeに向けたであろう〈口の悪そなお尻にお仕置き中〉といった相手を茶化すようなフレーズを、テンポよく流れるようなフロウで畳み掛ける。ビートに対するアプローチや声の抑揚の付け方は普段のR-指定そのものとも言えるが、それらをトレースしつつキャラクターとしての表現に落とし込んでいるところが聴きどころだ。続く天谷のヴァースは、演者である黒田崇矢のハードボイルドなバリトンボイスを活かした落ち着き払ったフロウに。とはいえ韻をがっつり盛り込んで饒舌に語る様には、歴戦のペテン師らしい貫禄がにじんでいる。そして特にユニークな仕掛けが施されているのが躑躅森のパート。躑躅森はかつて白膠木とお笑いコンビを組んでいたが、極度のあがり症のため芸の道を諦め、教師になった過去の持ち主。この曲でも最初は自分の出番になるや否や、緊張のあまりどもって言葉が出なくなってしまうのだが、そこに元相方の白膠木が割り込んできて、掛け合い漫才のように楽曲が進行していくという形をとっており、キャラクター同士の関係性や特徴をも浮き上がらせることに成功している。また、白膠木と躑躅森の演者である岩崎と河西は二人とも大阪出身ということもあり、関西弁による受け答えのテンポや間合いもまるで本物の芸人コンビのように絶妙だ。

 その他サビ部分に〈すっきゃねんってhold me tight〉と、関西弁バラードの定番曲であるやしきたかじん「やっぱ好きやねん」と上田正樹「悲しい色やね」の歌詞を合わせたようなフレーズを忍ばせて、大阪レぺゼン感を演出する遊び心にもニヤリ。サウンド面に目を向けても、マイアミベース風のシンプルかつブーミーなトラックに三味線や尺八といった和楽器のウワモノを合わせているところに、大阪のベテランクルーである韻踏合組合がかつてバウンシーな和ネタ曲を得意としていたことを思い出したり(ちなみに白膠木のソロ曲「Tragic Transistor」は韻踏合組合のHIDADDYが作詞を担当している)。そういった意味で全方面において大阪らしさが伝わってくるのが、この「あゝオオサカdreamin’night」と言えるだろう。

 では、もう一方のナゴヤ・ディビジョン・Bad Ass Templeの楽曲は、どのような部分において名古屋らしさを表現しているのか。それは彼らのデビューCD『Bad Ass Temple Funky Sounds』の表題曲「Bad Ass Temple Funky Sounds」を紐解けばすぐにわかる。僧侶の波羅夷空却(はらい・くうこう/CV:葉山翔太)、V系ミュージシャンの四十物十四(あいもの・じゅうし/CV:榊原優希)、弁護士の天国獄(あまぐに・ひとや/竹内栄治)と、これまたひと癖もふた癖もあるメンバーが揃ってマイクを握る本楽曲を提供したのは、地元の名古屋を拠点に(前身グループを含めると)20年の活動歴を誇るnobodyknows+。2004年発表のシングル曲「ココロオドル」が大ヒットを記録し、同年末には『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)に出場も果たした、名古屋を代表するヒップホップグループのひとつだ。

 nobodyknows+と言えば、Crystal Boy、ヤス一番?、ホクロマン半ライス!!!、ノリ・ダ・ファンキーシビレサスら個性豊かなMCによる息もつかせぬマイクリレーと、リーダーのDJ MITSU制作によるファンキーなトラックが合わさったノリの良いパーティースタイルが持ち味。メロディアスかつアッパーな先述の「ココロオドル」はもちろん、ディスコティックな雰囲気がオールドスクール感全開の「シアワセナラテヲタタコウ」、マイナー調の切ないメロに勢いあるラップがエモさを強調する「エル・ミラドール~展望台の唄~」といったヒット曲を持ち、同郷のSEAMOやHOME MADE家族らとともに、広くJ-POPのフィールドでも活躍するラップアクトとして人気を集めた。おそらく世代的に今20代の人の中には、彼らやRIP SLYME、KICK THE CAN CREW、SOUL’d OUTといったアーティストたちの楽曲を通じて、ラップミュージックに初めて触れたという人も多いのではないだろうか。

 そんなnobodyknows+が楽曲を手がけたこともあってか、「Bad Ass Temple Funky Sounds」は非常にファンキーかつチーム感に溢れた楽曲となっている。キャッチーなギターリフとスクラッチ、太くうねるベースライン、細かな音の抜き差しで展開を作るサウンドデザインにはDJ MITSUらしさが息づいているし、それぞれキャラの立ちまくったラップを隙間なく応酬していくところは、まさにnobodyknows+のスタイル。また、各々のフロウもキャラクターの特徴をしっかりと反映したものになっている。波羅夷は僧侶らしくお経を読むような抑揚の付け方を交えながら、やんちゃな一面がダダ洩れているワイルドなラップを披露。そしてノリ・ダ・ファンキーシビレサスを彷彿させる、いかつく男らしいダミ声ラップを聴かせるのが天国。過去にいじめを受けていた過去を持つ四十物は、座右の銘である「何があっても、何があっても、何があっても屈するな」の精神を、厨二病ワードを織り込みながらクールなイケメンボイスで速射する。後半になるにしたがってお互い声を合わせるパートが増えて団結心が強まるような構成も素晴らしく、リリック内で使われている名古屋弁を引用するならば「ちんちこちん(すごく熱い)」な一曲と言えよう。

 ちなみにナゴヤ・ディビジョンのCDに収録されている波羅夷のソロ曲「そうぎゃらんBAM」は元SOUL’d OUTのDiggy-MO’が楽曲を提供。彼特有のオリジナリティの塊りのようなライミングやフロウを、声優の葉山翔太がキャラクターとして解釈しつつ見事に演じ切っているので、ぜひ聴いてほしいところ。また、V系バンドのLeetspeak monstersが手がけた四十物のソロ曲「月光陰-Moonlight Shadow-」は、厨二病感全開のゴシック系ミクスチャーロック(名古屋系を意識?)。そしてロカビリー風イントロからゴリゴリのワル系トラックに繋がる天国のソロ曲「One and Two, and Law」は、『ヒプノシスマイク』には「ベイサイド・スモーキングブルース」に続き二度目の登板となるKURO(HOME MADE 家族)とCHIVA(BUZZER BEATS for D.O.C.)のコンビが制作している。天国はなぜかジョー・ストラマーの名言「月に手を伸ばせ たとえ届かなくても」を座右の銘にしていたりと、いわゆるヒップホップに限らない音楽的バックボーンを感じさせるのもナゴヤ・ディビジョンの特徴。それはもしかしたら、ヒップホップとハードコアパンクのように異ジャンル間の交流が盛んな名古屋の音楽シーンのカラーを反映したものなのかもしれない。

 以上、オオサカ、ナゴヤの各ディビジョンの特徴についてざっくりとさらってみたが、ここでは紹介しきれなかったネタがまだまだ詰め込まれているのがヒプノシスマイクの楽曲のすごいところ。ヒプノシスマイクという作品世界とリアルなヒップホップ/音楽シーンのレイヤーを重ね合わせ、声のプロである声優がキャラクターとしてラップを行うことによって、その魅力は何倍にも掛け合わさることになる。今後も「Before The 2nd D.R.B」と題してイケブクロ、ヨコハマ、シブヤ、シンジュクの4ディビジョンのCDが4カ月連続でリリースされるので、引き続き注目していきたい。(流星さとる)

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