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峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

『SKOOL PILL』と教室クラブ

毎週連載

第115回

去年出した銀杏BOYZのアルバム『ねえみんな大好きだよ』を聴いてくれた人から「あの曲が好きだ」とか色んな感想をもらって嬉しかったけど、収録曲11曲のうち、一番歌詞の掴みどころがなかったのが『SKOOL PILL』っていう曲。「あの歌詞はどういう意味なんですか?」って聞かれたことが何度かありました。

高校生の頃のことを歌ってるんだけど、実話もあればそうでない話も入ってる。だから、聴いてくれた人はワケわかんないみたい。でも、音楽って聴いてくれる人のものだから、あとは自由に感じてもらえれば……と思ってるけどね。

『SKOOL PILL』の歌詞を少し種明かしをするとさ〈踊る君を見ていた日〉っていうのはtrf(現・TRF)の『EZ DO DANCE』からなんだ。

高校の頃の僕は、前にも何度か話してる『SKOOL PILL』の歌詞にも出てくる森くんっていう友だちの影響でパンクにドップリだったんだけど、一方でさ、クラスの大半の子たちの間ではtrfがメッチャ流行ってて。そんな中、ある年の学園祭のクラスの出し物で、教室のカーテンを閉めきって真っ暗にして、ミラーボールまではいかないけど、照明を凝ったりしたクラブ風の催しをやることになったんだ。DJをしたい人はやれば良いし、カラオケをやりたい人はやれば良いっていう教室クラブみたいな感じのもの。

仕切ってたのはクラスの別の人だったけど、僕も「それは良い!」と思った。だって、その教室クラブで僕もオアシス、グリーン・デイ、ブラーとか爆音でかけることができるから。

でもさ、その教室クラブで僕も20分くらい使わせてもらってオアシスとかを爆音でかけたんだけど、全然盛り上がってくれないわけ。「なんか違うな」と思いながらそのまま終わったんだけど、次のDJ役の人に変わって、メッチャ流行ってたtrfがかかると、男の子も女の子もメッチャクチャ汗かきながら踊り出してんの。クラブなんか行ったこともないような奴らなのにさ。僕は暗闇の中で、体育座りしながら〈踊る君〉を見てたんだよ、たぶんつまんない顔して(笑)。悔しかったな、あれは。「なんでオアシスがダメなんだ。trfで、どうしてこんなに盛り上がるんだろう」って斎藤正樹(元マネージャー・同級生)と話したことを覚えてるもん。

なんだけどさ、さらにまだ話があって。僕の同学年ではサッカー部がイケイケで、そのグループの中には村井くん(元メンバー・同級生)もいた。サッカー部のリーダー格の奴に、村井くんは金魚の糞みたいにくっついてたんだけど、trfで盛り上がってる教室クラブに今度はそのイケイケ軍団が下級生とかギャルとか30人くらいを引き連れて入ってきたの。

そこでtrfが終わった後にさ、ロッテルダム・ハードコアのユーロマスターズっていうすごいテクノバンドを爆音でかけ始めたんだ。これが本当にすごくて。僕は電気グルーヴはすでに好きだったし、なんとなくテクノはわかっているつもりだったけど、それにしてもすごい。ドッツ、ドッツ、ドッツっていう四つ打ちで、メチャクチャビックリしたんだ、あの音は。実際、教室クラブの様子もtrfから随分変っちゃって、本当にハードコアのライブみたいになって、壁とかボッコボコ殴るし、ギャルもキャーキャー言いながらダイブしたりして、体育座りの僕んところにもガンガンぶつかってくる。「なんだこれ!?」みたいな。さっきのtrfの悔しさがユーロマスターズでかき消されるほど衝撃だった。ここでもやっぱり僕は〈踊る君〉を見てたってことなんだけど、今度はたぶんビックリした顔をしてたと思う(笑)。

どうしてもこのバンドのことを知りたかったから、後で村井くんに聞いてさ。「お前らがかけたあのCD何?」って。そしたら村井くん、「峯田知らねーの? ユーロマスターズっていうロッテルダム・ハードコアだよ」って教えてくれた。ジャケットが良くてさ、ずっと忘れられなくてこのCDが欲しくて探してたんだけど、なかなか手に入れられなくて。高校を卒業して15年くらい経った32~33歳の頃にやっとアナログレコードを買うことができた。CDも中古で買えて、ちゃんと供養できたんだ、あの学園祭でオアシスもtrfも否定された気持ちが。

〈踊る君を見ていた日〉っていう歌詞にはこんな背景があったんです。忘れられない悔しかった思い出だったりする大事な曲なんだ。もちろんさ、どの曲を好きになってくれても良いし、嫌いな曲があるのも当然だと思うけど、そんな中で「『SKOOL PILL』が一番好き」って言ってくれる人がいるのは嬉しいね、素直に。

去年、アルバムが出た日の写真。高校生の頃は自分が音楽をやるなんて思ってもみませんでした。

構成・文:松田義人(deco)

プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。


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