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田中泰の「クラシック新発見」

2021年は“ホームカミング”なPMFを楽しみたい

隔週連載

第12回

パシフィックミュージックフェスティバル札幌

札幌の夏を彩る風物詩「パシフィックミュージックフェスティバル札幌(PMF)」の開催が目前だ(7月23日~8月1日:札幌コンサートホールkitaraほか)。

20世紀を代表する作曲家・指揮者&教育者レナード・バーンスタイン(1918-1990)が、この世を去る直前の1990年に創設したPMFは、バーンスタインの遺志を継ぐ形で見事に成長。今や“世界三大教育音楽祭”のひとつに数えられる存在となっている。

31回目となる2021年は、コロナ禍の今を象徴するかのように、国内で活躍するPMF終了生や、オーディションの合格者で同じく国内在住のアカデミー生たちで編成される「PMFオーケストラJAPAN」を中心に展開される。これはまさにPMF史上初の試みだ。同オーケストラを指揮する原田慶太楼曰く「ホームカミングなPMF」とは言い得て妙。さながら鮭が産卵のために故郷の川を遡る姿を想像させる。

ちなみに「ホストシティ・オーケストラ」である札幌交響楽団には、11名のPMF終了生が在籍しているのだから頼もしい。そうなると、気になるのはコンサートの内容だ。今や飛ぶ鳥を落とす勢いのマエストロ原田慶太楼に今回の公演について聞いてみた。

原田慶太楼 (C)PMF組織委員会

「選曲のテーマは“アメリカン”です。バーンスタインの提唱によって始まったPMFにはアメリカのDNAが流れていますからね。ガーシュウィンの『ピアノ協奏曲』を選んだのは『ラプソディ・イン・ブルー』のように有名ではないけれど、とても優れた作品であることを多くの人に知ってもらいたいという願いからです。そして今回共演するピアニスト三舩優子さんのガーシュウィンが素晴らしいのです。

1935年に完成した『ポーギーとベス』を選んだのは、ガーシュウィンの多様性を知ってもらいたかったからです。原作の完成が1925年で、『ピアノ協奏曲』完成の年であることがとても興味深いのです。この2曲には深いつながりを感じます。さらには近年大きな問題となっている人種差別への提言も含めての選曲です。そしてその約10年後に発表されたコープランドの『ロディオ』と、そのまた10年後のバーンスタインの『キャンディード』を披露することによって、アメリカ音楽の変革を1つのコンサートの中で体験していただきます」

一方、マエストロが絶賛するピアニスト三舩優子の想いや如何に。

三舩優子 (C)AKIRA MUTO

「原田慶太楼さんからのお声がけでPMFに初めて参加できたことがとても嬉しいです。今回は、オーケストラとの共演でガーシュウィンを演奏するほか、リサイタルでも“アメリカ”をテーマに演奏します。幼少の頃から馴染んできた『ラプソディ・イン・ブルー』を含む“アメリカプログラム”は私にとって特別です。

デビューした頃には弾くことを疑問視されるような存在だったガーシュウィンも、今ではピアノの先生たちまでが弾きたがります。やっと時代が追いついてきた気がしますね。クラシックのアーティストが演奏するガーシュウィンということで、ジャズとの違いを感じていただきたいと思います。リサイタルでは北米だけでなく南米ものも演奏します。今年生誕100年を迎えたピアソラのピアノ曲は、クラシックの作曲家を目指して伝説の名教師ブーランジェのもとで努力していた頃に書かれた作品です。タンゴが感じられる作風がすごく面白いのでお楽しみに」

沖澤のどか(指揮)と三浦文彰(ヴァイオリン)の共演や、バーンスタインの薫陶を受けた指揮者大植英次29年ぶりの登場などなど、見所聴き所満載のPMF。さらには、来日が叶わない教授陣が収録した演奏を届けるPMFファカルティ・デジタルコンサートをはじめ、オープニングコンサートやピクニックコンサートなどが有料配信されるなど、オンラインコンテンツの充実ぶりにも注目だ。

「二度とないかもしれない“ホームカミングなPMF”をぜひ楽しんでいただきたい」という原田慶太楼の言葉が心に残る。

1990年のPMFでのレナード・バーンスタイン (C)PMF組織委員会

パシフィックミュージックフェスティバル札幌
https://www.pmf.or.jp/jp/highlights/2021.html

プロフィール

田中泰

1957年生まれ。1988年ぴあ入社以来、一貫してクラシックジャンルを担当し、2008年スプートニクを設立して独立。J-WAVE『モーニングクラシック』『JAL機内クラシックチャンネル』などの構成を通じてクラシックの普及に努める毎日を送っている。一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事、スプートニク代表取締役プロデューサー。

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