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Sir Vanity、GRANRODEO、OLDCODEX……声優所属の音楽ユニットが示してきた、新たな時代の可能性

リアルサウンド

20/7/3(金) 6:00

 声優の梅原裕一郎、中島ヨシキが参加するバンドプロジェクト・Sir Vanityが、6月26日に初の配信シングル『Vanity/悠』をリリースした。近年、「声の仕事」にとどまらない声優の幅広い活動やメディア露出がめざましい。その中でも、ロックグループとして音楽活動をするユニットに注目すると、彼らが示すであろう新たな時代の可能性を感じることができる。

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 声優が所属する音楽ユニットとして真っ先に浮かぶのは、なんといってもGRANRODEOだろう。ボーカルを務める声優の谷山紀章(KISHOW)とギタリストの飯塚昌明(e-ZUKA)による2人組で、楽曲制作も自分たちで手がけ、2010年には武道館でライブを開催するまでの存在へと進化。結成15周年となる今年も変わらずシーンを牽引し続けている存在である。「声優が歌う」のではなく、いちアーティストとして音楽業界にも認められ、評価される道筋を作った先駆者といえるだろう。

 次に挙げたいのは、声優の鈴木達央を有するOLDCODEXだ。OLDCODEXは、ボーカルのTa_2(鈴木達央)とペインターのYORKE.という異色の組み合わせ。ライブではTa_2が歌う傍らでYORKE.がライブペインティングするという、新たな形でのパフォーマンスを見せる。制作についても、YORKE.が作詞を手がけたり、Ta_2が映像、アートワークに至るまでプロデュースを行ったりと、「役割の垣根」にとらわれないのが特徴的だ。異なる才能を複合的に駆使し、その手でいくつもの可能性を切り開いてきた。

 これらの文脈を踏まえると、今回活動を開始したSir Vanityについても見えてくるものがある。Sir Vanityは、ツインギターボーカルの梅原と中島、ベースの桑原聖、ビジュアル面を担当する渡辺大聖からなる4人組バンド。声優である梅原と中島だけでなく、桑原は『あんさんぶるスターズ!』などを担当する音楽プロデューサーで、渡辺は『あんさんぶるスターズ!Starry Stage 2nd』『〈物語〉フェス ~10th Anniversary Story~』の総合演出などを多数手がけており、それぞれの分野で実績を持つ。渡辺のような、音楽ではなくビジュアル面を担当する人間がバンド内にいるのも特徴的だ。

 Sir Vanityで初めてギターに挑戦する中島ヨシキは、以前は絶対にやりたくなかったと、バンドのYouTubeにアップされているラジオ内にて語っている。すでにできる人がいるなら自分がやる必要はない。できないことをして恥を晒すのが嫌。かつてそう思っていたのが、年を重ねるうちに「恥をかける大人になりたい」と変わっていったのだという。梅原が作詞を手がけた「Vanity」には、その思いが組み込まれている。

 〈できないことを晒すのが 恥をかくのが怖いんだ〉と足踏みするBメロから、〈こんな無様な俺を笑ってやってくれよ〉と吹っ切れていくサビまでの流れは、Sir Vanityというバンドの成り立ちそのものに重なっているように感じられる。

 バンド名に冠されている「Vanity」は「うぬぼれ」の意味を持つ。「恥をかきたくない」という思いは、「自分をよく見せたい」といううぬぼれにも通じる感情だ。SNSやYouTubeなどのプラットフォームが充実し、誰もが発信者になれる環境になった。業界の壁や、仕事と趣味との垣根も曖昧になってきている。踏み出しさえすれば、誰もがなんでもできる時代において、いくつもの才能が組み合わさり、「うぬぼれ」を越えて結成されたSir Vanityというバンドは、象徴的な存在となっていくのかもしれない。(満島エリオ)

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