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“梨泰院ロス”を癒すサウンドトラックと豪華ブックレット ドラマの美学が随所に感じられる作品に

リアルサウンド

20/10/15(木) 18:00

 今年に入って韓国のテレビドラマ、いわゆる“韓流ドラマ”が日本で再び人気を集めているのはご存じだろう。見ごたえのある作品が数多く登場してきた理由のひとつとして、本国だけの放映に終わらず、積極的に海外に販売することで十分な制作費を確保できたという点があげられる。シナリオや映像といった分野で有望な若手が続々登場し、主役を張れる役者も増えてきたことなども昨今の盛り上がりの背景にあるとはいえ、ドラマ制作における適材適所を実現するには、やはり資金の確保が最優先なのは間違いない。

 日本で大人気の『梨泰院クラス』は、テンポのいいストーリー展開や洗練された演出と映像で高く評価されているが、オリジナルサウンドトラック(以下、OST)も相当充実しているのが大きなポイントだ。本作の場合はNetflixとの独占配信契約でじっくりと細部を作り込めるようになったのか、ドラマ本編とともに挿入歌やBGMにも心血を注いでいる。

 2020年の夏、日本でも『梨泰院クラス』のOSTがリリースされた。通常は1枚か2枚組で発売するケースが多い韓国ドラマのOSTが、本作は4枚組という圧倒的なボリュームで出したことにまず驚く。それほど捨て曲がなく、作品のクオリティに自信があるということだろう。

 それでは『梨泰院クラス』OSTの中で注目すべき楽曲をいくつかピックアップしてみたい。ボーカル曲でまず紹介したいのは「Still Fighting It」だ。アメリカの実力派シンガーソングライター、ベン・フォールズが2001年にリリースした楽曲で、本作ではイ・チャンソルという男性シンガーがリメイクしている。

 ドラマでは主人公(パク・セロイ)の父親の葬儀で流れ、とても切なく響く。英語の歌詞は一部を日本語に訳すとこの通りだ。「おはよう息子よ/いまから20年後/君と座ってビールを飲むことがあるかな」「いいことを教えてあげる/年月は過ぎても/みんなまだ戦っている/戦いは続いて行くんだよ」「そして君は何もかも僕にそっくりだ/ごめんね……」。

 今回のOSTの中で海外の曲をカバーしたのはこの曲のみ。オリジナル曲だけで構成したほうが手続き的に楽であるにも関わらず、わざわざ制作サイドが「Still Fighting It」を選んだのは、それほど『梨泰院クラス』に必要不可欠な曲だということに他ならない。つまり、親子の絆の強さや主人公の闘志を伝えるにはこの歌しかなかったのだ。

 R&BシンガーのGahoが歌う「はじまり」も重要な1曲である。アメリカンハードロック風の軽快なサウンドに乗せて歌われるのは、“明るい未来と強い意思”。「望みどおりにすべて手に入れるんだ/それこそが僕の夢だから」や、「耐え抜いて/僕の夢はもっと強くなるから」といったポジティブなフレーズはこのドラマのテーマそのもので、劇中で繰り返し流れるのもうなずける。

 K-POPファンは、BTSのメンバー・Vが歌う「Sweet Night」が最も気になるはずである。主演のパク・ソジュンとは過去のドラマ出演をきっかけに仲が良くなったそうで、その縁で参加したようだ。恋人たちの甘い夜をしっとりと歌うこの曲はドラマの後半から流れるようになり、特に最終回では視聴者に感動の余韻を与えてくれた。

 『梨泰院クラス』OSTにはインストゥルメンタルも数多く収められている。「タンバムの厨房」という曲では、主人公が経営する料理店・タンバムの温かいムードをクラシックギターによるゆったりとした曲調で表現。エレクトロポップやレゲエを組み合わせたサウンドメイクが印象的な「IQ162のアーバンガール」は、タンバムでマネージャーを務めるチョ・イソのキャラクターを的確に伝える。

 以上のように今回のOSTは、音を聴けばドラマのシーンや登場人物がすぐに思い浮かぶような仕上がりになっているのが最大の特徴だ。単なるBGMになることを避けつつ、かといって目立ちすぎることなくストーリーに寄り添ったサウンドを作る――。そんな裏方の美学が随所に感じられる力作だと言えよう。

 このたびリリースされた日本盤仕様の『梨泰院クラス』OSTは、豪華なブックレットも大きなセールスポイントとなっている。40ページという圧倒的なボリュームもさることながら、ドラマの場面をフルカラーでたっぷり掲載しているのがファンにとってはうれしい。

 さらに日本語対訳と韓国語歌詞のフリガナに加えて、参加ミュージシャンやレコーディングスタッフなどの詳細なデータも記載されているのも貴重だ。韓国では制作に携わった人たちをCDのブックレットに記載することはめずらしくないものの、ここまで徹底しているのは、本作が多くの人たちの努力と熱意によって出来上がったということを強くアピールしたいからなのかもしれない。

 “梨泰院ロス”という言葉をよく耳にする今、本盤はそんな人の心にうるおいを与えてくれるだろう。『梨泰院クラス』に夢中になった人であれば必ず持っていたい1枚だ。

■まつもとたくお
音楽ライター。ニックネームはK-POP番長。2000年に執筆活動を開始。『ミュージック・マガジン』など専門誌を中心に寄稿。『ジャズ批評』『韓流ぴあ』で連載中。ムック『GIRLS K-POP』(シンコー・ミュージック)を監修。K-POP関連の著書・共著も多数あり。

■リリース情報
『梨泰院クラス オリジナル・サウンドトラック(日本盤)』
発売中
価格:¥4,500(税抜)
【日本盤仕様】
P40フルカラーブックレット
ハングル(フリガナ)歌詞・日本語対訳付き
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