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有村架純の凛々しさ「唯一迷わないのは、絶対にいい作品をつくりたいということ」

ぴあ

有村架純 撮影/須田卓馬

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巴は、とても凛々しい女性だと思いました

雪代巴。それは、『るろうに剣心』ファンにとっては、特別な存在だ。かつて剣心が愛し、自らの手で斬殺してしまった女性。そして死してなお剣心の中で生き続ける女性。同作の実写映画化が決まったときから、ずっと誰が巴を演じるのか注目され続けてきた。

そんな期待と不安が交差する中、幕を上げた映画『るろうに剣心 最終章 The Beginning』。スクリーンに現れた有村架純の雪代巴は、息を飲むほど美しかった。儚く、憂いげで、その佇まいから悲しみの音が聞こえてくる。

「最初に原作と一緒に企画書と台本をいただいて、大友(啓史)監督がいかにこのエピソードに懸けているか、その想いをマネージャーさんを通して聞きました。すごく大事な役だからという言葉を聞いて、正直に言うと最初は怖かったです。だけど、そんな大事な役を『3月のライオン』でご一緒した大友監督が私に託してくれた。そのことがうれしくて。『3月のライオン』から3年経って、あのときいただいたものを今の自分なら何か違うかたちでお返しできるかもしれないと思ってお受けしました」

ひとつひとつの言葉を確かめるように、有村架純はゆっくりと話す。質問を受けてからも、ぴたりとあてはまる言葉が出てくるまで、黙ってじっくり考える。軽はずみに沈黙を埋めようとしない。誠実で、嘘のない人だ。

「巴は、とても凛々しい女性だと思いました。一輪の花が似合うような。巴を花に例えると薔薇とかチューリップとかわかりやすいものではなく、そんなふうに目立つ花を陰で支えてくれる花ですね」

それは、少し意外な回答に思えた。許嫁の清里明良を剣心に殺され、復讐のために剣心に近づく巴は、悲劇の印象が強かった。なぜ有村架純は凛々しいと感じたのか。そう質問を重ねると、彼女はまた扉をひとつ開けるようにして話しはじめた。

「確かに巴の運命はとても残酷なものだったと思います。でもどんな選択も、彼女は自分で考えて、選んだものだと思ったんですね。剣心に近づこうとしたのも、剣心のそばで自問自答しながらそれでも一緒にいようとしたのも、巴が自分で選択したこと。そこに、清里と剣心という2人の男性を想い続ける熱量を感じたというか。その芯の強さを思ったときに、ただ儚いだけじゃない、凛々しさというものを感じました」

健さんはプロフェッショナル。そして、すごくシンプルな人

銀幕の中の巴は、どこかこの世のものではないような雰囲気が漂っている。その静謐な空気の正体は、有村架純の役づくりにあった。

「演じているときは、なるべくまばたきをしないように心がけていました。私はたぶんドライアイで、普段からまばたきが多いと言われやすいんですね。私の中で巴はあまりまばたきをしないイメージがあって。巴がたくさんまばたきをしていたら、きっと観ている方も感情が途切れてしまうと思ったんです。それで、視線を動かすときも、なるべくまばたきをしないように意識しました」

また、その翳りを帯びた瞳には、スタッフたちのアイデアがつめこまれていた。

「実はカラーコンタクトをしているんです。裸眼のところもあるんですけど、シーンや心情によって色味を変えて、目にフィルターをかけていて。確か4色くらい使っていたと思います。そんなふうに巴を生きるための装備をつけて現場に立つと、すっと気持ちが入るというか。そうした衣装やヘアメイクの力を借りながら巴を肉付けしていきました」

剣心役の佐藤健とは撮影期間の多くを共に過ごした。有村架純の目から見た佐藤健は、どんな人物だっただろうか。

「プロフェッショナルで、職人気質の方だと思いました。頭のいい方なので、自分の喋ることすべてにおいて何か見透かされるような怖さがあったんですけど。いろいろ話をしていくうちに気づいたのが、実はすごくシンプルな方なんだなと。わかりやすいと言うと失礼なんですが、これが好き、だからやる、という意志がはっきりしている。そんなところがシンプルだなと思った理由ですね」

プロフェッショナルとしての矜持を胸に、大役を務め上げた佐藤健。その姿を間近で見て、同じ演者として刺激を受けることも多かったと言う。

「健さん自身は、キャストやスタッフさんとコミュニケーションをとって現場を盛り上げるムードメーカーのようなタイプではおそらくないと思うんですね。そうではなく、その佇まいでみんなについていきたいと思わせる方。健さんがまっすぐに作品に向かえば向かうほど、現場の士気が上がっていく。言葉にせずとも背中で示すって、迫力がないとなかなかできることではないので、そこはとても学ぶところでもありました」

私は、ゆらゆらしているタイプです(笑)

雪代巴にも、佐藤健にも感じた、強さ。有村架純にも、そんな強さがあるのだろうか。そう尋ねると、「うーん。強いところか…」と、かすかに照れたように笑った。

「私は、ゆらゆらしているタイプです(笑)。心配性なんですよ。どうしようどうしようっていつもビクビクしているし、気にしいだから、ひとつひとつのことにすごく慎重になっちゃうんです」

そう飾らずに自分の性格を打ち明ける。とても芸能界というめまぐるしい世界のトップラインに立っているとは思えないくらい、有村架純は控えめだ。

どの質問もたっぷり時間をとって答えた有村架純が、たったひとつ、即答したものがあった。それが、最後の質問。そんなふうにゆらゆらしている有村架純さんが迷わないものはなんですかーー彼女はその問いに弾むような声でこう答えた。

「自分がやらせていただくお仕事に対して、絶対いい作品にするんだっていう思いですね。一緒につくっているみなさんのためにも、観てくださるみなさんのためにも、いいものにしたい。その想いは強いです」

聞けば、『るろうに剣心』に関する取材はこの日が初めてだったと言う。「すみません、答えるのに時間がかかっちゃって」と少し恥ずかしそうに身を縮めて、その場をあとにした。華やかな世界にいる人なのに、決して気遣いを忘れない。でもそんな優しさよりも、シャイなところよりも、印象に残ったのは最後の質問に迷いなく答えた強さだった。

彼女は雪代巴を凛々しい女性だと彼女は言ったけれど、改めて思う。有村架純もまた凛々しい人だ。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』は6月4日(金)より全国公開。

撮影/須田卓馬、取材・文/横川良明

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