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Plot Scrapsが持つ、“真実”を見つめる人間性 多彩でエモーショナルに進化した『INVOKE』を紐解く

リアルサウンド

20/5/9(土) 18:00

「人とのつながりを考えることというより、誰も傷つけないような人との関わり方をどうして皆できないのかな、と考えることは多いです。ロジックの上では容易いことなのにな、と。受け手にも語り手にも、必要な技術なんてそう多くはないのにな、と。学校のような教育機関で、唯一他人に教わるべきことはそれだけなのにと思います」

 「普段から“人とのつながり”について考えることはあるか」――新作『INVOKE』を聴き、歌詞の内容から筆者が感じたことを説明した後、ぶつけた質問に対する陶山良太(Vo/Gt)の回答である。このバンドの魅力に通ずる、とても重要な言葉だと思った。

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 Plot Scraps。彼らが3rdミニアルバム『INVOKE』をリリースするにあたり、メールインタビューを行った。その回答を紹介しながら、このバンドの魅力について探っていきたいと思う。

 Plot Scrapsは、キーパーソンで作詞作曲を手掛ける陶山良太、亀山敦史(Ba/Cho)、もぐ(Dr/Cho)の3ピースバンドだ。

「サウンド、アレンジ面で言えば、それぞれの担う部分がより明確になり、意見交換が円滑に進む要因になっているように感じます。4ピースバンドもいいなと思うこともありますが、個人的には今のバランスって結構いいなとも感じています」(亀山)

「この3人で活動したいので試行錯誤して頑張ってるだけで、3ピースにこだわりはまったく無いんですよね」(陶山)

 切り口を変えた「Plot Scrapsの3人は、一言で言うとどういう関係?」という質問には、こんな回答が届いている。

「国家錬金術師」(陶山)

「“密”ですかね(笑)」(亀山)

「麦わらの一味」(もぐ)

 こちらの意図を的確に捉えた、三者三様の回答である。冒頭の陶山の言葉、さらに前述した分析や三様の回答から、Plot Scrapsは非常に“他人とのコミュニケーション”を大切にしているバンドなのではないかと考える。メンバー間はもちろん、リスナー、ファン、そしてメールインタビューを通しても“相手を捉えよう、理解しよう”という、彼らの元々の人間性が見えて来る。

 彼らにとってのコミュニケーションとは、相手と向き合い、相手を理解し受け入れるということなのだと思う。事実よりも真実を大事にするタイプとでも言えようか。嘘を削ぎ落した中にある真実が、しっかり見えているのだ。そして、この人間性が最新作『INVOKE』の作品性になっている。

 爽快でブライトなアップチューン「一等星」で幕を開ける本作。「自然と“一等星くん”が1曲目の椅子に座りに行ってる感じ」(陶山)という通り、サビの“抜け”や、エモーショナルなバンドアンサンブルも含め、オープニングを飾るに相応しいスケール感がある。個人的に注目したのは、この曲のコーラスのアプローチ。1曲の中で、異なるジャンルのアプローチを見せる。そこがギターロックからはみ出したポップ感、曲のキャッチーさの一端を担っている。

「過去のアレンジでは、メインの歌に少しだけのプラス作用なり、内容の補強のために有効であるものという認識で、必要な部分に入れてきました。今回はいつもと少し違う(コーラス)パターンが入っていると感じてくれたのだと思うのですが、楽曲に求められた表現をしたまでで、『その場所にこういう感じのコーラスを入れろ』と楽曲から要請された感じ」(陶山)

 「CHOCOLATE PUNK」は、イントロからのスカビートがインパクト大のアッパーな1曲。テンポも結構速い。が、面白いのは、そこにメランコリックなメロディが乗っていることだ。スカに憂いあるメロディをマッチングさせたのがとても意外だった。

「ゲームのBGMでこんな感じのがあって、『こういうビートやりたいな』と思って書きました。最初の形はもっと速くてダークだったんですが、だいぶ遅くなってポップになりましたね」(陶山)

 インパクト大なのは、同曲の間奏も然り。ハードロックやメタル、ファンクやジャズなど、このバンドのルーツが次々と登場し、聴覚をガンガン攻撃してくる。

「そのようなジャンルにはすべて影響を受けています。何か感じてくれたのだとしたら、血肉化してるものだと思いますね。今作は特にドラムもベースも、構築されたものを2人にプレイしてもらったんです。スタジオに行っては実際に弾いてもらいつつ、2人のプレイヤーとしての雰囲気に合ったフレーズを自分が考えるという、ちょっと変わった手法でしたね」(陶山)

「個人的に大前提にあるのは“彼(=陶山)の歌声を最大限に活かしながら、無駄を削ぎ落とした形”に仕上げるということです。Plot Scrapsは、陶山くんが楽曲を持って来て、スタジオで最終的にアレンジを詰めるという形が基本なのですが、個人的には新たな試みの中で模索しながら、どの形が彼の声を活かしつつ最善の形でリスナーに届くかを大事にしています」(亀山)

 陶山の歌が、楽曲の大きな軸になっているPlot Scraps。ストレートな発声、丁寧にメロを紡ぐ歌い方、高音になると少し甘くなる人懐っこい声質、そして無意味にファルセットで逃げないボーカルへのエモーショナルなスタンスは、このバンドの最大の個性でもある。

「彼(=陶山)は、常に素直な声を出していると思うんです。着飾ることなくありのままで歌っているからこそ、演奏中は目を合わせずとも感情をむき出しにされているような感覚になるし、それが彼のリアルな部分として、曲たちに染みこんでいってさらに味が出ているように思います」(亀山)

「優しさ、あったかさを感じる歌声だと思います」(もぐ)

 亀山、もぐ、両者とも、新作『INVOKE』の中で、陶山のボーカルの魅力を感じてもらえる曲は「オーダーメイド」だと言う。

「この楽曲のヒリヒリしているようで優しく包み込んでくれる空気感は、彼の歌声ととても相性が良いと感じていて、この曲を聴いてもらえば、文字にしなかった部分まで、リスナーの方々にも伝わると思ってます」(亀山)

 さらに『INVOKE』では、陶山はボーカリストとしてのチャレンジも見せている。それがわかるのが「OZ」。歌い出しの低音、言葉の切り方なども含め、細かく変わるメロへのアプローチと、キーのレンジの広さが、他の曲にはないはっきりしたコントラストを描き出している。

「レンジが広くなったのは誤算で、サビはもっと低めにするつもりだったのに、気づいたら高くなってました。ラスサビのコーラスとフェイク的なところは、分かりやすくブルージーな感じになりましたね。歌ってみた感想は……むじぃです!」(陶山)

 最後に。アルバムタイトルにかけて、こんな質問を投げてみた――「“INVOKE”は、呼びかける、呼び覚ます、誘い出すといった意味がありますが、この単語に主語や目的語を付けるとしたら?」

「そこが一番答えたくない部分なので、すいません(笑)。ただ、答えたくないというのはどういうことなのか、を考えてもらえたら質問の答えになるので、やはりこの質問の答えは“答えたくない”が正解だと思ってます」(陶山)

 陶山は、嘘をつけない人なのだと思う。いや、もしかしたら、嘘をつかないと決めたのかもしれない。なぜならそれが、相手を大切にするコミュニケーションにつながるから。

 真実は、事実の中に潜んだ嘘を削ぎ落としたリアルの中に見えてくるのだと、Plot Scrapsの3rdミニアルバム『INVOKE』が教えてくれている。(伊藤亜希)

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