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ローレル・ヘイローからマイルス・デイビスまで 小野島大のエレクトロニックな新譜10選

リアルサウンド

18/8/19(日) 18:00

 2カ月のご無沙汰でした。今回もエレクトロニックな新譜を紹介します。

  まず紹介したいのは、ポストダブステップ的テクノ/エレクトロニカで知られる英国のローレル・ヘイロー(Laurel Halo)の新作ミニアルバム『Raw Silk Uncut Wood』(Latency)です。どういう経緯かフランスのレーベルからのリリースですが、この才女の研ぎ澄まされた感性の鋭さが痛いほど伝わってくるような大傑作になりました。シンフォニックでアブストラクトな現代音楽的アプローチによる静謐で幽玄なアンビエント〜ドローンで、現実と幻想の境目で浮遊しているような非日常感覚がたまらなく魅力的です。ドキュメンタリー映画の音楽制作の経験、そして老子の『老子道徳経』からインスパイアされたということですが、チェロ、ピアノやドラムなどの生楽器と電子楽器を巧みに融合して瞑想的な世界を作り上げています。これまでの作品も良くできた佳作揃いでしたが、これはレベルが違う感じ。恐れ入った才能です。30分余りと短い収録時間ですが、今年度を代表する作品になるのではないでしょうか。

Laurel Halo / Raw Silk Uncut Wood

 

 今年6月に突如日本公演を行った英国エレクトロニカ/IDMのベテラン、オウテカ(Autechre)の新作『NTS Sessions.』(nts.live / Warp / Beatink)です。

 前作『elseq 1-5』も4時間を超える大作でしたが、今作は全36曲8時間超というとんでもないボリューム、しかも全部新曲というから、その創作意欲には頭が下がります。4月に行われたラジオセッションの音源をコンパイルしたもののようですが、長い曲は1時間近くにも及びます。その場での即興もあるのかもしれません。徹底して硬質で冷ややかでダークで斬りつけるようなカッティングエッジで変則的な電子ノイズが8時間以上もの間絶え間なく襲いかかってくる。修行でもしているような気分になってきますが、漆黒の闇で行われる彼らのライブがそうであるように、これは一種の恐怖を伴った「体験」と言えます。白昼夢のようなアンビエントドローンノイズが1時間近くにもわたって展開する終曲「all end」など、ほとんどサイケデリックです。ライブと同じように、部屋の電気を消して爆音で聴けば、「第三の眼」でも開いてくるかもしれません。生楽器との融合だの歌ものだの踊りやすい四つ打ちだのポップなメロディだのを一切排除した、徹底してストイックでシリアスなピュアエレクトロニックミュージック。その揺るがぬ意思の鋼鉄の強さには圧倒されます。6月の日本公演は音の小ささや観客の態度(照明を消した暗黒ライブなのに、スマホを見てる客多数)に不満が残ったので、ぜひ近々の来日を期待したところ。

 ハイレゾ(24bit/44.1kHz)、アナログ12枚組、CD8枚組の3種で発売。デザイナーズ・リパブリックがデザインしたジャケも含め、これはもうコンテンポラリーアートそのものといえるでしょう。限定日本盤は8月24日発売です。

 シリアスな作品が続いたのでとびきりポップなやつを。DÉ DÉ MOUSEの新作『be yourself』(not records)。フィルターハウスや80年代ディスコやユーロビートなどを意識して作ったということですが、弾けた感じのアッパーでキラキラした開放的かつ青春的なダンスミュージックに仕上がっていて最高に楽しい。インタビューによれば(https://ototoy.jp/feature/20180802)、いろいろ裏ストーリーやメッセージを含んだ内容のようですが、そんなことは知らずとも、この楽しさは伝わるはず。このアーティストの美点が見事に凝縮された傑作で、京都では8月、東京では9月に予定されているライブも期待できそうです。

DÉ DÉ MOUSE / be yourself

DÉ DÉ MOUSE / be yourself Music Video (CAST : Rinne Yoshida)
DÉ DÉ MOUSE / scat n’ shout from new album “be yourself” Music Video

 一部では「イスラエルのハイエイタス・カイヨーテ」なる異名を持つバターリング・トリオ(Buttering Trio)のメンバー、リジョイサー(Rejoicer)ことユヴァル・ハヴキンの5年ぶり2枚目のソロアルバムが『Energy Dreams』(Stones Throw / BBQ)。LAのアブストラクトヒップホップの名門<ストーンズ・スロウ>からのリリースです。サイケデリックでダビーでアンビエントな浮遊感を漂わす極上のエレクトロニックR&B〜アブストラクトヒップホップ。音のレイヤーの重ね方にセンスがあって、抜群に洗練されたサウンドですね。個人的にはバターリング・トリオよりもいいと思います。MVもヘンで面白い。9月10日発売。

Rejoicer – Double Astral Move
Rejoicer – Purple T Shirts – feat. Mndsgn

https://itunes.apple.com/jp/album/energy-dreams/1387039642

 この記事が出る頃には『SONICMANIA 2018』の出演を無事終えているはずのオーストリア生まれの電子音楽家ドリアン・コンセプト(Dorian Concept)の4年ぶり新作が『The Nature of Imitation』(Brainfeeder / Beatink)。フライング・ロータスのライブサポートをやった縁もあってか、彼の主宰する<ブレインフィーダー>からのリリースです。音の粒が飛び跳ねるようなイキのいい肉体的なエレクトロニックサウンドとポップで人懐っこいメロディ、予想のつかない展開、予断を許さない奇抜なアレンジと、いつもながら才気煥発です。先のDÉ DÉ MOUSEにも少し通じるものがあるかもしれません。ここのところ契約アーティストの幅を広げているブレインフィーダーの動向にも注目ですね。

Dorian Concept – ‘J Buyers’
Dorian Concept – ‘Promises’

 やはり『SONICMANIA 2018』に出演したロス・フロム・フレンズ(Ross From Friends)も、<ブレインフィーダー>から1stアルバム『Family Portrait』(Brainfeeder / Beatink)をリリースしました。いわゆるローファイハウスの文脈から出てきた人ですが、弱冠24歳、ハイエナジーやイタロディスコのDJをやっていた父親の影響で音楽を作り始めたという彼の経歴や、様々な時代のダンスミュージックの快楽部分だけを抽出したような荒々しくも甘美で、かつエッジの効いたサウンドには強烈な「次世代感」が漂います。サンプリングのセンス、リズム・アレンジの多彩さとメランコリックな上モノ使いは、近来希にみる大物感を漂わせています。

Ross From Friends – ‘Project Cybersyn’
Ross From Friends – ‘Don’t Wake Dad’

 ドイツ・デュッセルドルフ出身のDJ/プロデューサー、ロコ・ダイス(Loco Dice)の新作が『Love Letters』(Desolat)。オリジナルアルバムは確か9年ぶりのはずです。中身はロマンティックなタイトルとは裏腹の、激渋なミニマル〜テック・ハウスを堂々と展開。この人にしかできない緻密に作り込み練り上げられたエスノトライバルでサイケデリックなサウンドは、テクノファンなら抗いがたいものがあります。

Loco Dice – Out Of Reach feat William Djoko

 ジューク/フットワークの奇才RP・ブー(RP Boo)の3年ぶり新作『I’ll Tell You What!』(Planet Mu)はμ-Ziq主宰の老舗<プラネット・ミュー>から。サンプリングを駆使した荒々しく生々しくダーティな漆黒のグルーヴは、スカスカの音の隙間からシカゴのゲットーのストリートのツンとした匂いが漂ってくるようで興趣満点。スティーヴィ・ワンダーの「Lately」を大胆にネタ使いした曲など彼の真骨頂です。お上品な歌ものハウスやオシャレなR&Bを聴いていると、時々こういうアンダーグラウンド発のローの効いた強烈な音を無性に聴きたくなります。

 なおRP・ブーの秘蔵っ子として登場し鮮烈な印象を与えたジェイリン(Jlin)の新作も同レーベルから9月に発売を予定している模様。こっちも期待大です。

RP Boo / Back From The Future (Edit)
Jlin – The Abyss Of Doubt

 そして最後にこれを。マイルス・デイビス『ビッチェズ・ブリュー SACDマルチ・ハイブリッド・エディション』(ソニー)。今更説明の要もないジャズの帝王の1969年録音/リリースのアルバムです。マイルスがスライ&ファミリー・ストーンやジミ・ヘンドリックスなど当時の最先端のブラックミュージックに傾倒した頃の、いわゆる「エレクトリック・マイルス」期を代表する作品で、リリース当時は激しい賛否両論を巻き起こしましたが、今となっては歴史的名作という評価は揺るぎのないものでしょう。それを今なぜ今更、それもエレクトロニックミュージックの新譜を紹介するこの連載で取り上げるかというと、今回発掘された4チャンネル・クアロドフォニック・ミックスが凄まじいからです。聞き慣れた前方定位の2チャンネル・ミックスでの印象を根底から覆してしまうようなサラウンド立体音響のインパクトは強烈です。冒頭の「ファラオズ・ダンス」で、突き抜けるように吹かれたマイルスのトランペットが天空の彼方から四方のスピーカーの間を飛散するようにパンニングしていくときの衝撃は凄まじいものでした。そこには現在のフライング・ロータスまで通じる、サイケデリックでファンキーでアンビエントでコズミックで呪術的でマジカルで、現代的どころか未来的ですらある音楽が鳴っていたのです。当時SQ4チャンネル盤としてリリースされたこの音源を今でも持っていて、まして聴ける人はほとんどいないでしょうから、世界的に見ても極めて貴重な再発と言えるでしょう。

 ただ残念なのは、自宅で5.1チャンネル環境を整えている人はそれほど多くはなく、ましてマルチチャンネルSACDを再生できる人はごく限られてしまうということです。せめて現在の最新のフィジカルメディアであるブルーレイディスクで出せなかったでしょうか。

■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebookTwitter

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