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大高宏雄 映画なぜなぜ産業学

コロナ禍「特別な夏」の映画興行は『今日から俺は!!劇場版』が稼ぎ頭で、洋画のヒットはゼロ。この秋の期待は『TENET テネット』!

毎月29日掲載

第25回

20/8/29(土)

『今日から俺は!!劇場版』(C)2020「今日から俺は!!劇場版」製作委員会

コロナ禍只中の“特別な夏”という言葉が、今年の夏のキーワードになった。映画興行も、もちろん例外ではない。本当に、予測のつかない展開を見せたと言っていい。邦画の大ヒットがあった一方で、洋画のヒットはゼロである。というより、全国公開規模の洋画は8月中旬まで1本もなかった。かろうじて、8月21日から夏の盛りの時期をはずしたディズニー=ピクサーの『2分の1の魔法』が公開されたが、予想を下回った。この極端な違いのなかで、映画界の“特別な夏”が過ぎようとしている。興行を特筆すべき作品も少ないが、ざっと最終興収見通しだけを以下羅列してみよう(8月末時点での推定)。

・東宝配給『今日から俺は!!劇場版』=50~52億円
・東宝配給『コンフィデンスマンJP プリンセス編』=33~35億円
・東宝配給『映画ドラえもん のび太の新恐竜』=28~32億円
・アニプレックス配給「劇場版 『劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel]III.spring song』=17~20億円

残念ながら、10億円を超える見込みの作品が、新作ではこの4本のみである。こんな計算をしてみた。昨年の夏興行作品別興収トップ10本の累計が約490億円(7月中旬から8月上旬公開)。邦画と洋画のシェアは、前者が約55%、後者が約45%だ。今年は、スタジオジブリの旧作を含めて、トップ10本の累計が約180億円見込みで、昨年の37%ほどということになる(あくまで推定)。昨年、約490億円のうち、45%を占めた洋画の新作が丸々ないのだから、今年の厳しさはその点からも推し量られる。洋画のことから先に話せば、これは米映画界の事情によるものだから、日本側は手の施しようもない。先に発表されたディズニー『ムーラン』の日本での配信決定も、本社主導とみていい。洋画のメジャー系に関しては、日本支社はあくまで「支社」であって、本国での大変な事態のなかで、国内単独の動きはなかなかできにくい。

では邦画はどうかと言えば、改めて驚いたと同時に、これでいいのかとも思った。東宝配給の作品が、ヒット連発なのである。ただ、ここでも冷静に考えれば、東宝の配給作品のヒットが多い普段の興行とそれほど変わりないとは言える。平常時と非常事(あえて、この言葉を使う)で、邦画大手別でみると、極端な変化がない。これこそ、逆に異常に見えないだろうか。その異常さもさることながら、興行の中身自体においては、新作の少なさが、ヒット作品のシネコンにおけるスクリーンの寡占化状態といった事態を招いていることも指摘しておきたい。座席をあけた間隔で、チケットを発売しているため、1スクリーンでの集客は当然限られる。そのため、2スクリーン、3スクリーンをあける。1作品ごとの集客を上げるべく、スクリーンを増やし、上映回数を多くする。そのトータルが、1作品ごとの興収となる。ヒット構造の大きな一つが、これである。

批判もあろう。ヒット作品(あるいは、ヒットを見越した作品)が、いわば何スクリーンも“占拠”していくわけだから、わりを食う作品が出てくる。その作品は上映回数が減る。興収は伸びない。ヒットと低興収の差が広がっていく。ただ、ここでも指摘できることがある。これもまた、平常時の興行と似た状況なのである。非常時のほうが上映回数は多くなるとして、平常時であっても、ヒット作品の上映回数は増えるのが、現行のシネコンの常識だ。その際、洋画以外では東宝配給作品が中心になる。今回はとくに、洋画の大作がない分、余計にヒット邦画のスクリーン“占拠”が進んだとも言えよう。東宝配給作品のヒット連発はある意味、非常事態ならぬ異常事態だとも言えるのではないか。それもこれも、邦画のヒットが東宝1社にほぼ限られてしまうことが多い国内の興行の特質があるからだ。コロナ禍の興行は、平常時を写す鏡になっている気もしてくる。それも、そこに写る興行の像は、より鮮明でより強烈な印象となっていることに注視する必要があろう。

『TENET テネット』(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

興行全体で見れば、東宝配給作品だけでは、逼迫した状態は変わらない。今のままの座席をあけたチケット販売では、ヒットが2、3本出たといっても、興行には限界がある。とにもかくにも、邦画だけで日本の映画興行が成立することはない。洋画の動きが、下半期の興行の鍵を握る。そこで、とても重要になってくる作品が、『ムーラン』の配信に真っ向勝負を挑むかのように、映画館での公開にこだわり抜いたクリストファー・ノーラン監督のワーナー配給作品『TENET テネット』だ(9月18日から日本公開)。この8月26日には、都内のシネコンで完成披露試写会が催された。観たメディア関係者は限られているとは思うが、作品浸透がなかなかスムーズにはいかないこの時期、配給会社がどこまでノーラン監督の熱い志を反映できるような宣伝展開を見せてくれるか。大いに注目しようではないか。『TENET テネット』ほど、近年の洋画で重要な作品はない。それは日本や米国だけの話ではなく、世界的なレベルで、映画自体の存亡にもかかわってくると思える作品だからである。


プロフィール

大高 宏雄(おおたか・ひろお)

1954年、静岡県浜松市生まれ。映画ジャーナリスト。映画の業界通信、文化通信社特別編集委員。1992年から独立系作品を中心とした日本映画を対象にした日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を主宰。キネマ旬報、毎日新聞、日刊ゲンダイなどで連載記事を執筆中。著書に『昭和の女優 官能・エロ映画の時代』(鹿砦社)、『仁義なき映画列伝』(鹿砦社)など。

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