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『約束のネバーランド』エマは“絶望の中の希望”だ ジャンプヒーローとしての新しさに迫る

リアルサウンド

20/6/18(木) 9:00

 先日、『週刊少年ジャンプ』で人気を集めていた『約束のネバーランド』が連載の最終回を迎えた。『約束のネバーランド』は、原作を白井カイウ、作画を出水ぽすかが担当し、2016年8月から約4年間連載された。同時期に連載を開始した『鬼滅の刃』とともに『週刊少年ジャンプ』の連載として注目され続けた作品であった。最終回を迎えた今、改めて『約束のネバーランド』の魅力について考えてみたい。

関連:【画像】『約束のネバーランド』19巻書影

 主人公は、11歳の女の子・エマ。彼女が住むのは「グレイス=フィールドハウス」。そこでは0歳児から12歳までの男女38人が共同生活している。みな孤児であり、12歳になる前にいつか里親から“お迎え”がくる……と教えられて育った。しかしある日、醜悪な姿をした鬼の存在を知り、鬼が“お迎え”の子を食べていたこと、自分たちは鬼の「食用児」として育てられていることがわかる。

 身体能力の優れたエマ、才気あふれるノーマン、知識が豊富なレイは、その才能でさらに様々な事実を知る。そして全員でこの「人間飼育場」を脱走することを決意。その過程でこの世には、鬼の世界と人間の世界があることを知るのだった。

 少女であり主人公であるエマこそが、『約束のネバーランド』が『週刊少年ジャンプ』で連載される理由であり、象徴であると考え、以下で語ることにする。

※以下ネタバレあり

 この物語においてエマが、『SLAM DUNK』の桜木花道、『ドラゴンボール』の悟空、『ONE PIECE』のルフィであることは間違いない。ジャンプの大きな柱に、ヒーロー像というものがある。エマは、少女でありながらそのヒーロー像の条件を満たす存在として描かれている。しかし、彼女が新しいヒーローに見えるのは何も性別の問題だけではない。エマは、「おバカ」ではないヒーローだからである。

 先述した名ヒーローたちはジャンプのテーマである「友情」「努力」「勝利」を体現しているが、彼ら自身はいい意味で純粋な「おバカキャラ」から始まっている。そのテーマを信じて疑わない、生まれながらに正義を持つ彼らが、なぜ困難に向かうのか。それは愛すべき「おバカ」だからである。困難を乗り越えられるという根拠のない直感があるから、無鉄砲でいられるし楽観的でいられる。だからこそ物語の中で多くを学び、成長し、勝利していく様が描かれてヒーローになっていくのだ。

 エマも、無鉄砲で命知らずではあるが、彼女は「おバカ」ではない。毎日超難問のテストをクリアしている優良児という設定からもわかる通り、エマは並外れた身体能力を持つ頭脳派である。天真爛漫でムードメーカーな一面もありながら、彼女は最初からはるか先にあるであろう困難を見通すことができる。

 自分の理想がいかに実現不可能か、どれだけ危険なことかが予測できるとき、誰だってその理想の未来に恐怖し慎重になってしまう。しかしエマは、名ヒーローたちと同じ“勇気”の持ち主だ。「うるせえ!!行こう!!!!」と言って人を動かしたルフィのように、「やってみなきゃわからない!」というのが彼女の口癖。

 ヒーローの勇気は、ある意味で楽観的だからこそでてくるものだった。しかしエマが持つのは、実現困難だということは理解しつつも、自分や人の可能性を信じることで生まれる勇気だ。頭で考えた最悪の未来ではなく、自分や周りにいる人が起こす奇跡を信じられる勇気なのだ。つまり、名ヒーローたち以上に冷静に未来を想像できる頭脳を持ちながら、名ヒーローたちと同じく、未来を恐れぬ勇気と信じる力を持っているということだ。

 エマは、考えろ考えろと「誰のことも諦めない」という強い理想を実現させるために自分を追い込んできた。もちろん、それを通そうとして予想外のことが起こり、エマ自身、左耳を切り落とす事態になったこともある。しかしそれでも頑固に理想を通していく。その考え抜かれた頑固さに刺激を受けた仲間たちが、どうにかしてエマの理想に近づこうとしていく様は、まさに「友情」「努力」「勝利」である。

 困難な未来を想像できる頭脳と、強固な理想と勇気はなかなか両立することはない。エマは、それを両立し、実現させていく稀有で魅力的な新しいヒーローであり、絶望的な物語の中の希望なのである。

 隣り合わせに存在する死、1人の少しの間違いで多くの犠牲がでる状況、常に危機にさらされている子どもたち。そのすべての要因は鬼にあり、憎むべきものとして描かれてきた。しかしエマは、鬼の世界を知っていくうちに、彼らも自分と同じ命であることを無視できなくなっていく。自分が獣を狩り食べることと、鬼が人間を食べることに違いはあるだろうかと考え、迷う。そして物語は、鬼を全滅させたいノーマンと、人間も鬼も死なせたくないエマ、2人を中心に最終局面へ向かっていく。

 最終回を迎えた『約束のネバーランド』だが、実写映画やアニメ2期、単行本の発売もまだ控えている。新しいジャンプヒーローを生んだこの世界にハマるのは、今からでも遅くない。

(文=菊池彩)

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