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ビッケブランカが選ぶ、松任谷由実の“名歌詞” 日本語詞ならではの面白さについても話る

リアルサウンド

20/3/3(火) 6:00

 アーティストの心に残っている歌詞を聞いていくインタビュー連載『あの歌詞が忘れられない』。本連載では事前に選曲してもらった楽曲の歌詞の魅力を紐解きながら、アーティストの新たな魅力を探っていく。第3回目には、ビッケブランカが登場。ビッケブランカが選曲したのは、松任谷由実の「守ってあげたい」、「ダンデライオン~遅咲きのたんぽぽ」(以下、「ダンデライオン」)、「卒業写真」の3曲だった。ビッケブランカはこの3曲のどういったところに魅了されたのか、また、彼が考える日本語詞の面白さについても話を聞いた。(編集部)

(関連:【インタビュー写真】ビッケブランカ

●豊富な語彙で伝えたいことを表現する、松任谷由実の歌詞
――今回選ばれたのは、全て松任谷由実さんの楽曲でしたね。

ビッケブランカ:両親が聴いていた影響で、松任谷さんを好きになりました。感傷に浸らせつつ、意味もしっかり伝える。その描写力は明らかに抜きんでていますよね。

ーー松任谷さんは、日本語の歌詞に特化されている印象だったので、英詞の曲も書かれるビッケブランカさんが、松任谷さんを選ばれたことは少し意外でもありました。

ビッケブランカ:曲作りを始めたばかりの時期は、自分にとって音楽性やメロディが重要でしたし、日本語なんていらないってぐらい英語で歌っていました。でも、せっかく日本人のために歌う音楽をやるのであれば、ちゃんとその言葉を理解していい表現をしないといけないと考えるようになりましたね。その結果、やっぱり歌詞がいいのは松任谷さんだなって。超えることはないと思います。

――では、選んでいただいた楽曲でそれぞれ好きなフレーズはありますか?

ビッケブランカ:「守ってあげたい」は、〈遠い夏息をころしトンボを採った/もう一度あんな気持ちで夢をつかまえてね〉がとても好きです。夢を追いかけるあなたを応援するよってことだと思うんですけど、“夢を追いかけるあなたの横顔を見ていたい”みたいな表現はよくありますが、“トンボを取った純粋なあの頃の気持ちで夢を追いかけてね”って表現はなかなかできないです。「伝えたいこと」を豊富な語彙を用いながら表現されている方だなと思います。

ーー確かにそうですね。

ビッケブランカ:あとは、〈日暮れまで土手にすわりレンゲを編んだ/もう一度あんな気持ちで夢を形にして〉も好きですね。名歌詞って2番のAメロに多いんじゃないかな。1番のAメロは「導入」だからある程度明確な描写をかかなければならないけど、2番のAメロではそこからさらに深い表現に入ることができる、と僕は思っています。

ーーなるほど。

ビッケブランカ:「ダンデライオン」に関しては、サビの最後にある倒置法が素晴らしいなと思います。〈とても幸せな 淋しさを抱いて/これから歩けない〉の後に〈私はもうあなたなしで〉で終わるんですよ。普通だったら「あなたなしで私はもう歩けない」じゃないですか。けど、松任谷さんは倒置法を使って聴き手に投げかけてる。だからこそ、より悲痛に響いてくるんだと思います。あとは、本当の孤独を知らない相手や自分のことを「ダンデライオン」ってタンポポに例えるアイデアも素晴らしいです。でも、松任谷さんって実体験を書いているわけじゃないらしいんですよ。

ーーそうだったんですね。

ビッケブランカ:いろんな人に会っていろんな人の恋愛経験を聞いて、それをメモする。それで、その人がどんな気持ちで何を見たのかを想像して歌詞にしているみたいで。いろんなところからインプットしたことを咀嚼して歌詞にできる方だから、ずっと名曲を作り続けられるんだなと思います。

――松任谷さんの楽曲はどれも普遍性があって、聴き手がそれぞれの思いを馳せながら聴くことができますよね。

ビッケブランカ:そう。それも実際にみんなが経験していることを取り入れているからなんですよね。

――ビッケブランカさんは、周りの話を歌詞に取り入れたことはありますか。

ビッケブランカ:ないですね。いずれしたいです。

――それは意図的にしてないのでしょうか。

ビッケブランカ:まだ自分で書けることがあるからですかね。自分のなかから出るものがまだ潤沢にあるから。それでいうと、僕はMr.ChildrenとThe Beatlesの音楽をまだ聞いたことがないんです。きっと素晴らしい音楽なのは間違いない。だけどあまりにも影響力がありすぎて、みんな彼らの音楽性の影響をすごく色濃く受けてるじゃないですか。だから、アイデアが本当に枯渇してしまうまで聴かないようにしているんです。

――なるほど。では、「卒業写真」の好きなフレーズもお聞かせいただけますか。

ビッケブランカ:「卒業写真」に関してはすべて好きです。さっき、2番のAメロに名歌詞が多いと言いましたが、この曲は言葉数がすごく少ないから序盤からすでに切ないんですよね。

――そうですね。少ない言葉数のなかで全てを伝えきっていることが凄いですよね。

ビッケブランカ:そうなんです。長く書けば情報はいくらでも伝えられてしまう。だから歌にするときは、4分以内で伝えることが重要だと僕は思っています。そうすると、一つ一つの言葉にたくさんの意味を含ませなければならないし、伝える順序も大切になる。それが難しくもあり楽しくもありますよね。

●ストレートな歌詞であれば、英語の方が理解してもらえる
ーーこれまでのお話を伺っていると、松任谷さんの歌詞表現はビッケブランカさんの歌詞にも繋がるところがあるように感じます。やはり影響は受けていますか?

ビッケブランカ:はい。やはり松任谷さんの歌詞は素晴らしいので、僕自身もこうした表現ができるように努めています。

――ビッケブランカさんの「TARA」の〈遠き日の花火が 窓を少しふるわせた〉というフレーズからは、特に松任谷さんの影響を感じました。聴き手の想像力に委ねている描写だと感じます。

ビッケブランカ:ありがとうございます。実体験を歌詞にすることは、この曲から始まったんですよ。なので、すごく重要な曲ですね。この曲は、もともとインディーズ時代のアルバム(『GOOD LUCK』)に入れていた曲だったんですけど、ターニングポイントとしてまた新しいアルバム(『Devil』)にも入れることにしました。

――インタビューで、「TARA」はご自身が失恋したことを歌詞にしたとおっしゃっていましたね。

ビッケブランカ:そうですね。今読んでも一番いい歌詞だと思います。〈遠き日の花火が 窓を少しふるわせた〉というフレーズは、かつて“あなた”と一緒に見た花火が、一人の部屋で震わせたかのように頭にこびりついているってことなんですよ。時間が経っているはずなのに、いまだにその花火のことを部屋の窓を震わせているぐらい強い思いで考えていると。

――非常に興味深いお話です。「TARA」のように実体験を歌詞に取り入れたりされてることはよくありますか。

ビッケブランカ:実は実体験を歌詞にしたことがあるのは、「TARA」と「SPEECH」だけですね。ほかの曲も自分の考えは取り入れてはいるんですけど、歌詞として作るときにある程度もう一回咀嚼をしていて。でも、その2曲に関してはその時の自分の気持ちでしかない。特別な2曲です。

――ビッケブランカさんは、タイアップ曲もとても多いですもんね。やはりその作品に寄り添う意識が強いですか。

ビッケブランカ:そうですね。めちゃくちゃ寄り添うようにしてます。その作品のためを思って100%作ります。歌詞に関しても、作品の主人公の気持ちになって作るから、本来の自分が思ってることとは違うことを歌っているとは思います。でも、結局曲を作っているのは僕。そこに絶対“らしさ”が滲み出るはずなんです。それこそが自分らしさだと思うんですよね。

――ビッケブランカさんの“らしさ”でいうと、個人的には言葉の柔らかさにあるように感じます。「まっしろ」「白熊」といったタイトルもなんだか愛らしさがあります。たとえアレンジが攻めているものであっても、ワードが柔らかいことで調和されているように感じるんです。

ビッケブランカ:嬉しいです。日本語みたいにこれだけの語彙があると、曲調の印象を上塗りするぐらいの世界観を作ることができるんですよね。それが日本語詞の素晴らしいところです。

ーービッケブランカさんは、アルバムの収録曲に必ず英詞の曲を入れていますよね。日本語詞と英詞それぞれの面白さはどんなところにあると思いますか。

ビッケブランカ:英語ははっきり物を言うことが正義。海外は1番のサビと2番のサビで歌詞を変えるっていう感覚が全くないんです。だから、少ない情報量で言えるまっすぐさがあると思います。日本語は語彙が豊富だからいくらでも深い表現ができることが面白い。ただ、最近の日本の音楽シーンは、日本語のそういう面白さを使いきれていないように思います。深い表現ができることが面白いのにもったいないなと。ストレートな歌詞であれば、英語の方がよりみんなに理解してもらえるんですよ。

――なるほど。「守ってあげたい」でも、〈守ってあげたい〉という言葉で最大級の「好き」を表現していますが、一方で英語を取り入れている箇所では〈’Cause I love you〉とストレートに歌っていますね。

ビッケブランカ:まさにそうですね。日本語って日本でしか喋られてない言葉じゃないですか。夏目漱石は「好き」と伝えるときに「月がきれいですね」って言う。それが全てだと思うんです。夏目漱石のそれも日本語ならではの面白さですよね。

――ありがとうございます。では、最後にビッケブランカさんが感じるいい歌詞について教えていただけますか。

ビッケブランカ:めっちゃ嫌なやつみたいですけど……経験と教養だと思います。いろんな言葉を知って、いろんな経験をして、それを自分に吸収して。これらをいかに1行、2行に込められるか。才能はもちろんですが、それ以上に経験や教養が必要なのではないかなと思います。(北村奈都樹)

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