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和田彩花の「アートに夢中!」

『ルール?展』

毎月連載

第62回

今回、和田さんが紹介するのは21_21 DESIGN SIGHTで開催中の『ルール?展』。私たちが日常のさまざまな場面で遭遇する「ルール」をテーマにしたユニークな展覧会についてお話を聞きました。

日常のルールを見つめ直すことのおもしろさ

『ルール?展』は、世の中のいろいろなルールについて考えていくという、とても面白い展覧会です。驚いたのは、私が行ったときですが、来場者がとっても多かったこと、そしてその多くが大学生くらいの年代の若い人たちだったことです。もちろん、基準に沿って入場者数を制限しているので問題はないのですが、最近の美術館は、新型コロナウイルスの影響もあり、おだやかな雰囲気のところが多かったので、美術館で人の多さを感じるのは久々でした。週末は予約がいっぱいになることもあるみたいですね。

若い人が多いことはとても嬉しいです。彼らが世の中のルールに対して興味や関心を持っているということがひと目でわかったから。ルールや決まりごとって、普通に生活を送っている場合は、そこまで意識しなくても一応は生きて行けるものだと思うし、自分の身の回りには無関心な人も多い。だけど、この場所にいる人たちは真剣に鑑賞していて、その場でよく考えているんです。その風景が展示作品とともに強く印象に残りました。

『ルール?展』ポスタービジュアル

『ルール?展』はチラシやポスターもおもしろいです。歩道の写真なのですが、展覧会の冒頭で、この写真の解説をしてくれます。郵便ポストの色や、道路標識、コンビニの色彩や子どもが背負うランドセルまで、日常の中に細かくいろんなルールが潜んでいる。そして、ルールには法律や省令、企業などによる自主的なガイドライン、長年の慣習などたくさんの種類があることも示されている。

街の写真を例に、日常に存在するさまざまなルールについて、改めて気づかせてくれる

実は、写真の場所はお仕事の関係で10年以上は見ている、個人的になじみがある場所だったんですけど、ここにこんなにもルールが存在していたことは全然気づかなくって。そのことを写真1枚だけで実感することができて、ちょっとうれしかったです。この写真と解説文を読んでいるだけで、けっこうな時間が経ってしまいました。

続いて、《あなたでなければ、誰が?》という参加型作品。ここは、15分のプログラム中に参加者が投げかけられるいろいろな問いかけに対して、自分の答えを選んでいく構成になっています。質問は政治的なもの、社会的なものが多くて、私以外の参加者は若い人が多かったんですが、その方たちの反応や答えを見るのもすごく楽しかったです。

ダニエル・ヴェッツェル(リミニ・プロトコル)+田中みゆき+小林恵吾(NoRA)×植村 遥+萩原俊矢×N sketch Inc.《あなたでなければ、誰が?》

印象に残ったのが、世の中に対して不満や疑問を感じたときの対処法の質問でした。「デモに参加する」「選挙に行く」「家族や友達に話す」といった選択肢があったのですが、私が参加した回の参加者は圧倒的に「家族や友達に話す」と答える人が多かった。選挙って若い人にとっては身近じゃないんだなあって感じました。選挙が大切なことをわかってもらうにはどうしたらいいのかなと。けれど、「選挙に行く」を選んだ人もひとりいて、その人は一緒に来ていた友達に一生懸命「選挙に行かないとだめだよ、行った方がいいよ」って、その場で一生懸命説得してたんです。こういう方もいるんだと嬉しくもなりました。

この作品は、単なるその場のアンケートだけではなく、質問に関連する日本の統計データを見せてくれます。参加者のなかでは多数派でも日本においては決してそうではなかったり、逆の結果だったりすることもわかって、それもおもしろかったです。

ルールを飛び越える、ルールを疑う

最初のふたつの作品や解説で、ルールを見つめなおすことの面白さに気づいてから、作品を見るとどの作品も非常に楽しいです。葛宇路(グゥ・ユルー)の《葛宇路》は、あいちトリエンナーレ2019にも展示されていた作品です。彼は、自分の名前に道路を意味する「路」が入っていることを利用して、自分の名前つき道路標識を北京の町に勝手に設置していた人。そのうち、インターネットの地図サービスが勝手にその標識を拾って、ネット上でそれまで名前のなかった道が「葛宇路」と表示されるようになってしまった。そんな彼の行動がネットやニュースで知れ渡ることとなり、当局は標識を撤去した、という一連の顛末が作品になっています。

葛宇路(グゥ・ユルー)《葛宇路》

アートって、社会のルールや法で整備されてるもの、行動規範や常識、マナーとか、そういうものを飛び越えることができる。その作品を見ること、知ることであたらしい視点を獲得できる。この世の中の仕組みやルール自体を疑うことができるようになる。それはとてもいいことだと思うんです。その一面で、そこでだれかが傷ついたりしてはいけないな、とこのごろ感じています。

この作品はだれも傷つけてはいないし、わかりやすくてとてもおもしろいですが、道路標識とか交通ルールって人命を守ることにかかわるものだから、少しだけ頭をよぎりました。このような点まで考えさせてくれるのも、アートの力なのかもしれませんね。

あと、Whatever Inc.《D.E.A.D. Digital Employment After Death》も良かったです。この作品は自分が死んだ後、AIやCGで復活させることを許可するか?というもの。これから技術がどんどん発展していくと、自分が残したデータを他人が利用してコンテンツを作ることが容易になっていきます。そこに創作の要素を加えることもできてしまう。

Whatever Inc. 《D.E.A.D. Digital Employment After Death》(2020年)

この作品では、自分の死後に個人データやAI、CGなどを利用して「復活」させていいかどうかについて、生前に意思を表明する文書を書くことができるんです。復活させるとしたら、AIが自動生成した声はOKか、生前の発言内容や性格は厳守すべきか、アレンジは可能か? AIとCGを使って新しい映像を作ることは可能か? など、自分自身について取り決めを作っておけるんです。私も書いてきました。

まず最初に私を「復活」できる人の許容範囲を決めるんです。すべての人に許可を与えるか、親や親族なのか、私が指名した人なのか……。直感的には家族や親族しかいないなと思ったのですが、自分にはファンの方もいるし、公の場に出る立場でもあったりするから、自分の死後も自分を見たいと思う人がいるかもしれない。だとしたら、どこまで権限を付与したらいいのだろう……、と考えてしまって。

表現に関しても生前の事実にどこまで準拠するかも範囲を選べるんです。私は「生前の発言内容、性格、外見などの事実を厳守する」という項目を選びましたが、創作してもOKという選択肢もある。また、声をAIで自動生成OKか、CG化はOKかという項目もある。私は、事実に関しては厳守してもらいたいけど、映像の再現はOKかなって思ったりもしましたし。

よく、テレビ番組とかで、歴史上の人物や偉人の写真が動画化されて、セリフをつけて喋っているのを見かけていますが、自分がそうなったらどうなるんだろうって、自分ごととして考えるようになりました。

この意思表明を書いているとき、自分が美術史を勉強していたときのことを思い出しました。画家の書簡を呼んでいたのですが、研究目的とはいえ、ものすごくプライベートな書簡を公にされてしまうって、画家がもし生きていたらどういう気持になるんだろうって。ゴッホが弟に宛てた手紙なんてグッズ化されていたりするし。たとえ芸術的にすごく重要なことかもしれないけれど、これってどうなのだろう?と思うことがよくあったんですよ。とはいえ、書簡などの検証から新事実が発見されたり、画家の本当の意図が示されたりしますし。アーティストの希望で公開範囲を決められたらいいのに、と思ったりもしていました。

このほかにも、田中みゆき 菅 俊一 野村律子の映像作品《ルール?》や一般社団法人コード・フォー・ジャパン《のびしろ、おもしろっ。 シビックテック》など、いろいろなことを考えさせてくれる作品がたくさんありました。多くの人に見て、考えてもらいたい展覧会だなと感じています。

開催情報

『ルール?展』
2021年7月2日(金)~11月28日(日)、21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2にて開催 ※事前予約制
http://www.2121designsight.jp/program/rule/

日常のさまざまな場面で遭遇する「ルール」の存在と影響を取り上げ、デザインによってどのようにかたちづくることができるのか、多角的な視点から探る展覧会。来場者同士で意見交換しルールをつくったり、投票したことが展示に反映される参加型展示などを通して、鑑賞者がルールとポジティブに向き合う力を養っていく。

構成・文:浦島茂世 撮影(和田彩花):源賀津己

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。アートへの関心が高く、さまざまなメディアでアートに関する情報を発信している。

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