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「愛は勝つ」は時代とともに意味が加わり歌い継がれていく アップフロントによるテレワーク合唱から感じたこと

リアルサウンド

20/5/9(土) 6:00

 アップフロントグループ(以下、アップフロント)所属アーティストがリモートで合唱した動画がYouTubeに投稿され話題になっている。KAN「愛は勝つ」、Juice=Juice「泣いていいよ」、ZARD「負けないで」の3曲のカバーが歌われている。この動画は新型コロナの対策や対応のため最前線で働く方々へ感謝のメッセージを伝えることを目的に制作された。冒頭約3分間ではアップフロントの所属アーティストが、様々な職種の方々に向けて感謝の言葉を告げている。これまでに医療従事者への感謝をアーティストが伝える企画はいくつかあった。しかしアップフロントの場合は医療従事者以外へもメッセージを送っている。例えばガソリンスタンドや金融機関など、世間が見落としがちな最前線で働く方にも向けてられている。

 動画の再生数は80万回再生を超え、3000件以上のコメントが書き込まれている(5月8日時点)。動画でメッセージを送られていた様々な職業の方からの「励まされた」「明日からまた頑張れる」などのコメントが書き込まれていた。音楽によって多くの人に力を与えていることがわかる。

(関連:KAN「愛は勝つ」の女性カバーはなぜ胸を打つ? 日本財団CMソングに賛辞が集まる理由

 アップフロントはモーニング娘。’20をはじめとするハロー!プロジェクトのようなアイドルグループが多いイメージだが、世代も活動内容も様々な多くのアーティストやタレントが多く所属している。今回参加した所属タレントは121人。堀内孝雄、森高千里のようなベテランもいる。そのようなメンバーが一つになり一緒に歌うからこそ、メッセージが多くの人に届いたのではと思う。

 特に1曲目に歌われた「愛は勝つ」は多くの人に力を与えている楽曲だ。この曲は2011年に東日本大震災の復興支援を目的としたチャリティソングとしても使用された。当時もアップフロントの所属アーティストが集まり演奏と合唱を行ったのだ。その音源は配信リリースされ、収益金は日本赤十字社を通じて義援金として寄付された。

 YouTubeに投稿されている2011年のレコーディング風景を映した動画には、新型コロナが日本で拡がり始めた3月頃からコメントが増え始めている。「頑張ろう」「新型コロナに勝てる」などの新型コロナに対して言及するコメントが多い。元々は震災で被害を受けた人に向けたチャリティ動画だが、新型コロナで影響を受けた人たちにも力を与える動画になっているようだ。

 「愛は勝つ」は応援ソングとして作られたわけではない。もともとはKANが友人の恋愛相談に乗っていた時に「大丈夫、愛は勝つよ」と発言したことから着想した歌詞で、「せめて歌の中では上手くいけばいいな」という想いを込めて作詞した楽曲だ。つまり多くの人を励ます目的ではなく、一人の友人に対するささやかな励ましの歌だった。そのような曲が多くの人に希望を与える応援ソングになった理由は歌詞と楽曲構成にある。

 歌詞は抽象的な表現が多い。それはKANの楽曲の中では珍しい。例えば「プロポーズ」では〈ぼくの街に公園があるよ 緑の芝生も野球場も噴水もある〉など具体的な描写が多い。「まゆみ」は女性の名前を出しているし、「よければ一緒に」では登場人物の感情や行動が丁寧に描かれている。しかし「愛が勝つ」の歌詞に出てくる〈君〉が何に悩んでいるかもわからないし、主人公の励まし方も具体的ではない。しかし一つひとつの言葉は真っ直ぐでわかりやすい。真っ直ぐな言葉で抽象的な表現をしているので、リスナーは歌詞について様々な受け取り方ができ、自分の歌として共感することができたのだ。だからこそ東日本大震災の時は多くの人を励ます力を与える歌になったし、今は新型コロナの最中で頑張って働いている人たちにエールを送る歌にもなった。

 また楽曲の構成がシンプルでわかりやすいことも愛され続ける理由の一つだ。最初から最後までリズムパターンはほとんど変わらない。キーもほぼ一定の高さを保っている。Aメロとサビというシンプルな楽曲構成で覚えやすい。シンプルだからこそメロディと歌の印象が強く残る。

 元々はKANが友人の話から構想した歌だった。それがヒットして応援ソングとなった。東日本大震災の時は復興を願う人たちの希望の歌になった。そして今は新型コロナが流行する中、最前線で働く人たちへエールを送る歌になり、多くの人に安らぎをくれる歌にもなった。時代とともに意味が加わり、リリース時以上に多くの人に愛され歌い継がれる名曲へと育っている。きっと新型コロナが収束した時は〈必ず最後に愛は勝つ〉というメッセージの力強さをより感じる明日がきっとあるはずだ。(むらたかもめ)

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