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ネット・テレビ・ラジオ……変わるメディアのパワーバランス AWA上半期音楽チャートからヒットの最新潮流を探る

リアルサウンド

20/7/30(木) 16:00

 音楽配信サービス「AWA」が今年上半期の再生数ランキングを公開した。対象となるのは2020年1月1日から6月30日までの間に配信が開始された楽曲で、AWAでは1位から100位までを並べた「2020年上半期リリースランキング TOP100」と題したプレイリストが作成されている。

参考:NiziU、『Make you happy』収録曲がバイラルチャート上位を独占 音楽性と歌唱スキルからグループの魅力を紐解く

 緊急事態宣言の発令により多くの人びとが自宅にいる期間を過ごした上半期。ネットサービスの利用者がこれまで以上に増えたことが予想され、実際に今回を機にサブスクリプションサービスを始めてみたという声も聞く。消費者のデジタルへの移行が今まで以上に加速したこの期間、どんな楽曲が人気だったのだろうか。

■TikTokで流行った楽曲が上位にも影響

 まず、目立ったのがTikTokを経由したランクインだ。リストに目を通すと、

3位 Rin音「snow jam」
9位 yama「春を告げる」
15位 Justin Bieber「Yummy」
19位 Doja Cat「Boss Bitch」
22位 ちゃんみな「ボイスメモ No. 5」
30位 GeG「I gotta go (feat. Hiplin, WILYWNKA & kojikoji)」
32位 韻マン「Change My Life」
42位 The Weekend「Blinding Lights」

 といったように、50位までの間だけでも”TikTok発”と思われる作品が数多く占めている。このことから、TikTokで発生したバズが音楽ストリーミングサービスでの再生回数に大きな影響を及ぼしていることがわかる。「TikTokでよく耳にする曲を音楽アプリでも聴きたい」というリスナーの傾向が如実に現れたのが今年上半期のランキングの特徴と言えそうだ。

 そして、こうした楽曲の多くがヒップホップ系なのも見逃せない。TikTokで共有されるのは10数秒ほどの短い動画のため、歌詞のごく一部分の瞬間的なワードチョイスのおもしろさであったり、乗りやすいリズムなどが関係してくるのだろう。言葉の密度が高く、韻を踏んだり、軽快なリズムを持ったラップ調の作品は、ショートムービー用のBGMに選ばれやすいのだと思われる。

 たとえば、3位につけた「snow jam」は日常的な映像との親和性が高い。ごくありふれた生活の一幕を捉えた動画にこの曲がかかると、”かけがえのない平和感”が際立つ。こうした楽曲の雰囲気が、ステイホーム期間の長かった上半期の人びとのムードとうまく噛み合ったのではないか。

■依然として力を発揮しているタイアップ

 ネットサービスによる新しい形のヒットが生まれている一方で、テレビドラマの主題歌や映画主題歌、CMソングは依然としてランキングに大きな影響を与えている。

1位 Official髭男dism「I LOVE…」(TBS系火曜ドラマ『恋はつづくよどこまでも』主題歌)
2位 Uru「あなたがいることで」(TBS系日曜劇場『テセウスの船』主題歌)
4位 King Gnu「どろん」(映画『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』主題歌)
6位 King Gnu「Teenager Forever」(ソニー『完全ワイヤレス型ノイキャンイヤホン WF-1000XM3』『ハイレゾウォークマン“NW-A100シリーズ』CMソング)
7位 King Gnu「小さな惑星」(Honda「VEZEL」『PLAY VEZEL 昼夜』篇 CMソング)
8位 家入レオ「未完成」(フジテレビ系月9ドラマ『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』)
10位 Official髭男dism「パラボラ」(2020年「カルピスウォーター」CMソング)

 と、トップ10だけでも半数以上がタイアップ曲。やはり主題歌やCMソングは視聴者と接する機会も多く、繰り返し届けられるためヒットを生みやすい。しかし前述のTikTokとは異なり、タイアップ先の作品の世界観や商品イメージを重視する必要があるため、音楽的特徴は読み取り難く、さらに人気アーティストが上位に集中する傾向がある。その分、幅広い音楽性の作品がランク入りする日本のチャートの多様性を生んでいるとも言えるだろう。

■20年越しの再ブレイク「カブトムシ」

 そんな中、特殊な事例と言えるのが12位に漕ぎ着けたaikoの「カブトムシ」だ。発売されたのは1999年だが、今年になって配信が開始されたため対象条件を満たしている。2月20日に放送されたラジオ番組『King Gnu井口理のオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)で話題となったこの曲は、ほどなくしてaiko作品がストリーミングで解禁すると、瞬く間に各チャートを駆け上っていった。リリースから20年以上経っている曲が現れるのも、こうしたランキングの面白さである。

■ネット/テレビ/ラジオ

 こうして見ると、今回のランキングには3つの特徴的なヒットの形が混在している。

 一つは、ネットサービス上のバズによるヒット。もう一つは、タイアップによるヒット。そして最後は、ラジオで起きたヒット。従来の大手メディア主導型の流行に対して、今年はネットの力がより一層強まり、そのバランスが大きく変化を見せている。

 アーティストにとって今年は、今まで通り活動することが難しくなり厳しい状況に立たされた年だったかもしれない。しかし、昨今のメディアのパワーバランスの変化にチャンスを見出すことは可能だ。

 ”巣ごもり消費”が注目されるコロナ禍で、環境の変化に上手く適応できた者が今後も存在感を示すだろう。(荻原 梓)

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