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吉田鋼太郎の松永久秀は従来のイメージを覆すリアリストに 『麒麟がくる』総集編で注目

リアルサウンド

20/8/9(日) 6:00

 ついに「麒麟」が帰ってくる! 新型コロナウイルスの流行により撮影休止を余儀なくされ、6月7日に放送された第21回「決戦!桶狭間」を最後に放送が途絶えていたNHK大河ドラマ『麒麟がくる』が、来る8月30日より、いよいよ放送を再開する。それに合わせて8月9日からは、3週にわたって「総集編」と題された、これまでの『麒麟がくる』全21回のダイジェスト版が放送されることになっている。

 「本能寺の変の首謀者」、あるいは「信長を殺した男」として、今日でも広く知られている戦国武将・明智光秀を、最新の研究に基づいた新たな解釈のもと、従来のイメージとは異なる人物として描き出そうとする『麒麟がくる』。その意欲的な姿勢は、主人公「明智光秀(十兵衛)」を演じる長谷川博己をはじめ、「斎藤道三」を演じた本木雅弘、「織田信長」を演じる染谷将太など、ある種「意外」とも言えるキャスティングにも表れており、それは現在までのところ、俳優たちの熱演も相まって概ね成功していると言えるだろう。

 今後さらに、すでに登場済みではあるものの、いよいよ存在感を増していくであろう風間俊介演じる「松平元康(のちの徳川家康)」と佐々木蔵之介演じる「藤吉郎(のちの豊臣秀吉)」が物語の本筋に加わり、よりいっそうドラスティックな展開を迎えていくであろう本作だが、今回の「総集編」を観るにあたって、改めて注目してほしい人物がいる。吉田鋼太郎演じる「松永久秀」だ。

「梟雄」ではなく「理想主義者」の松永久秀

 『麒麟がくる』の物語は、天文16年(1547)から始まる。当時まだ珍しかった鉄砲を調達するため、主君・斎藤道三の許しを得て、美濃から堺の町にやってきた十兵衛は、ひょんなことからある男と知り合い、鉄砲の入手に成功する。その男の名は松永久秀。当時権勢を誇っていた三好家の当主・三好長慶(山路和弘)の側近中の側近であり、畿内の諸勢力を牛耳る実力者として、京では知られた大人物だ。今日では、下剋上を成し遂げた残忍で荒々しい大悪党(梟雄)――伊勢宗瑞(北条早雲)や斎藤道三と並ぶ「戦国の梟雄」のひとりとして数えられることも多い久秀。けれども、『麒麟がくる』における久秀は、依然としてそのような「悪党」、あるいは「信用のおけない人物」としての印象は見られず、むしろ豪放磊落な好人物であり、十兵衛と同じく「戦乱の時代の終わりを願う」、ある種の「理想主義者」として描かれているのだった。これはいったい、どういうことなのか。

 そこには、近年の歴史研究における、松永久秀像の変化も少なからず関係しているようだ。去る6月3日に放送された『歴史秘話ヒストリア』(NHK総合)は、「戦国のナンバー2 天下を動かした男」と題して、松永久秀を大特集。「将軍殺害」「主君殺害」「大仏殿の焼き討ち」という「3悪」を行った久秀の「梟雄」イメージは、あくまでも江戸期に書かれた『常山紀談』や講談、浮世絵などによって「作られた」ものであり、むしろ主君・三好長慶を天下人に押し上げた忠臣として、久秀の活躍を検証し直してみせたのだった。「応仁の乱」以降、混乱を極める京にあって、軍事政治両面で長慶を助けながら、さまざまな調整や交渉を行ってきた知将であり、長慶亡き後は、長慶の甥である義継を支えながら、やがて「三好三人衆」と激しく対立していった久秀。三好家の存続を願う彼が最終的に選んだのは、凶刃に倒れた将軍・足利義輝の弟・義昭を奉じて上洛せんとする信長との同盟だった。

 ちなみに、『麒麟がくる』の撮影現場から同番組にコメント出演した吉田鋼太郎は、自身が演じる久秀について、「エピソード先行で、実は謎に包まれている武将」としながら、次のように語っていた。

「鉄砲は戦争をするためのものではなく、戦争をやめるものだという見解を持っていた久秀は、先見の明を持ったリアリストだったのではないか」

 奇しくもそれは、同じく「鉄砲」の威力に魅せられながら、それを「麒麟が舞い降りるような」戦乱のない世の中を生み出すために用いようとする光秀の姿と重なり合う。リアリストであると同時に、「太平の世を願う」ある種の「理想主義者」でもあった久秀と光秀は、今後『麒麟がくる』の物語の中で、どのようにその関係を深めてゆくのだろうか。そして、やがて彼らを従えることになる信長は、2人と何を語り合いながら、どんな関係を築き上げていくのだろうか。それが恐らく、『麒麟がくる』後半戦の、大きな見どころのひとつとなっていくのだろう。

“裏切る”光秀と久秀

 さらにもうひとつ、今、松永久秀が注目を集めている理由として、今年5月に出版された今村翔吾の歴史小説『じんかん』(講談社刊)の存在がある。2020年上半期の直木賞候補にもなったこの小説は、久秀の知られざる生い立ちと青年時代を含めた生涯を、意外なほど爽やかに描き出した一大巨編となっているのだ。従来の「梟雄」イメージを覆すような「忠義」の若者としての久秀。そう、先ほどの引用した吉田のコメントにもあるように、久秀の経歴は、その出身地も含めて、実は依然として多くの謎に包まれているのだ。それを、歴史小説家ならではの大体な発想で描き切った物語。それが『じんかん』なのだ。

 本書が興味深いのは、長慶の死後、臣従しつつも二度にわたって謀叛を試みた久秀と、それを最後まで懐柔しようと試みた信長の関係性の謎を解き明かすと同時に、長慶ではなくその父である「三好元長」と久秀の運命的な出会いを、その物語の中核に据えている点だろう。その勢威を恐れた細川晴元によって、志半ばで無念の死を遂げた主君・元長から、ある「夢」を託された久秀。彼はその「夢」を実現させるため、三好家の守護者として、その息子である長慶、さらには長慶の甥である義継に忠義を尽くことになったというのだ。

 『麒麟がくる』の前半戦では、それほど出番は多くはないものの、「鉄砲」という光秀という武将を語る上で欠くことのできない武器を最初に与えた人物として、さらには光秀に請われる形で斎藤義龍(伊藤英明)による「信長暗殺計画」を事前に阻止した人間として、実は重要な役割を果たしてきた松永久秀。

 『麒麟がくる』の公式サイトに掲載されている「キャストメッセージ」で、吉田鋼太郎は「これからの撮影で楽しみにしているのは、信長のシーン」としながら(興味深いことに、吉田は大河ドラマ『真田丸』で「織田信長」を演じている)、次のように自らのコメントを締めくくっている。

「きっと、光秀と会っているときはまったく違う松永がそこにいるはず。これまで、2人の関係を詳しく描いた作品は少なかったと思うので、どのような関係性やシーンをつくれるか、今から楽しみです」

 『麒麟がくる』前半戦における屈指の名シーンとなった信長と道三の対面シーン同様、こちらのシーンも是非楽しみにしたい。そして、信長という人間に魅せられながら、最終的にはそれを「裏切る」という意味で、実は久秀と同じ道を辿ることになる光秀は、久秀の壮絶な最期に、果たして何を思うのだろうか。これまでのイメージをさらに大胆に覆すような、吉田鋼太郎=松永久秀の熱演に期待したい。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twitter

■放送情報
「『麒麟がくる』まであと3週! これまでの名場面すべて見せます」
総集編(1)旅立ち
8月9日(日)
20:00~20:45/NHK総合・BS4K ※土曜の再放送あり
09:00〜09:45/BS4K
18:00〜18:45/BSプレミアム

『麒麟がくる』まであと2週! これまでの名場面すべて見せます
総集編(2)動乱
8月16日(日)
20:00~20:45/NHK総合・BS4K ※土曜の再放送あり
09:00〜09:45/BS4K
18:00〜18:45/BSプレミアム

『麒麟がくる』まであと1週! これまでの名場面すべて見せます
総集編(3)誇り高く
8月23日(日)
20:00~20:45/NHK総合・BS4K ※土曜の再放送あり
09:00〜09:45/BS4K
18:00〜18:45/BSプレミアム
写真提供=NHK

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