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Reol、配信ならではのパフォーマンスで光らせた現実 『Reol Japan Tour 2020 ハーメルンの大号令 -接続編-』を観て

リアルサウンド

20/8/27(木) 12:00

 Reolが、8月16日にLINE CUBE SHIBUYAから生配信ライヴ『Reol Japan Tour 2020 ハーメルンの大号令 -接続編-』を開催した。

Reol

 今年1月にリリースしたアルバム『金字塔』を受け、2月からスタートしたツアー『ハーメルンの大号令』は新型コロナウイルス感染拡大の影響により中断。その後も公演再開の目処がたたず、振替公演がすべて中止になってしまったことから、自身初のホールワンマンが予定されていたLINE CUBE SHIBUYAより今回の生配信が行われた。

Reol 本ライヴのプラットフォームとなったのはYouTube Live。Reolは、YouTube公式チャンネルの登録者数が117万人を突破し、昨年の12月に開催された『YouTube FanFest Japan 2019』でゴールド・クリエイター・アワードを受賞。『金字塔』発売日には、YouTube Liveから『金字塔 リリース記念ライヴ』と題した一発撮りのライヴ配信を行っていた背景がある。YouTubeが話題のアーティストを紹介するキャンペーン「Artist On The Rise」の国内第2回目のアーティストに選出されているReolの本配信ライヴには、多大なスタッフや関係者の英断とReol本人の覚悟を感じずにはいられず、その気持ちに応えようと開演前からコメント欄にはファンからのSuper Chatの嵐となっていた。

 ツアータイトルに「-接続編-」の副題が付け加えられたこのライヴは、『金字塔』から地続きのコンセプチュアルな内容に、配信ならではの演出が施されたものになった。1曲目は『金字塔』から「ハーメルン」。紗幕の向こう側でベールを被ったReolの姿は、アルバムジャケットにもある聖母マリアのように神々しい。次曲「金字塔」でReolはベールを脱ぎ、ダンサー2名を引き連れステージ前方へ。徐々にパルテノン神殿をイメージさせるセットが浮かび上がり、バックのLEDパネルにはピラミッドを彷彿とさせる三角を象った映像が次々と展開する。

Reol

「『金字塔』への凱旋パレードという感覚ですね。『文明EP』の物見櫓が建っていて、『文明ココロミー』と『侵攻アップグレード』は自分たちの持ち場を広げるための行為、国が広がったところに『金字塔』が建って、そして軍隊が帰ってくる感覚」(参考:Reolが振り返る、『金字塔』に到るまで 自らの文明=音楽を広げた先に見えたもの

 『金字塔』リリース時のインタビューで、『文明EP』から繋がっているツアーの構想を教えてくれていたReol。ずばりツアーのテーマは、「『金字塔』への凱旋パレードをしているマーチングバンド」。そのテーマを象徴的に現していたのは、「たい」でベレー帽を被ったReolが指揮杖を振っていた光景だろう。

 先述したように、配信ライヴ独自の演出も多くあった。まず、最初に驚いたのは、「LUVORATORRRRRY!」でのこと。ステージから降りたReolは、客席を通って会場中央に特設されたステージへ。〈渋公から中継フリースタイル〉〈今日は茶の間でハンズアップ〉とドロップ部分でフリースタイルをしながらReolが、客席中へ設置されたサブステージへと歩き出すと、スクリーンにはニコニコ動画風のコメントが弾幕のように表示されている。これは無観客だからこそ出来た演出であり、さらに初心ともいえるニコ動上での活動を想起させることで、今と昔のReolがクロスオーバーした瞬間に思えた。さらには、「insider」でのスマートフォンのカメラ越しにReolを映し出す、より曲の歌詞を浮き彫りにしたカメラワークや、「ダリ」で画面越しのファンが「だりーな」とコメントを打ちこむコールアンドレスポンス、「十中八九」間奏での殺陣、アンコールでのリクエストコーナーなどは配信ライヴ独自のパフォーマンスだ。

 また、印象的だったのはReolが日本語だけでなく中国語や英語でもファンに呼びかけていたことだ。本来、ツアーは横浜港を眺める神奈川県民ホールでの『ハーメルンの大号令 -出港編-』を経て、中国5都市での『Reol China Tour Hamelin’s 大号令』も開催する予定で、この日も中国のファンに向けてMOVETUBEで生中継されていた。「HYPE MODE」で〈made in どこでもないところ〉と歌っているように、Reolにとっては日本で歌うのも、海外で歌うのも関係ない。東京が音楽をやるためにいる場所にすぎないだけのこと。そんな気概をガツンと見せつけられた。

Reol

 ツアーで披露するはずのなかった新曲「第六感」がコメント欄を大いに沸かせる一方で、ファンの心を打ったのが「1LDK」だった。客席の一角に用意されたこじんまりとした部屋。片隅に置かれたライトを付け、Reolはゆっくりと話し始める。16歳の時に父親を亡くし、今月で10年が経つこと。当時、身近な人を亡くし、死生観を持つようになりながらも、気持ちの整理がつかず、ひたすら聴いていたのが音楽だった。

Reol「当時、16歳だった自分にとって音楽とインターネットは逃げ場でしかなくて、それが十年たった今こうしてインターネットと音楽を通じて、現実に前進することが出来ている。インターネットと、音楽、その両方があるこの場所で、そしてそれがたくさんの芸術が生まれてきた渋谷公会堂であるということは、自分にとって大きな意味があります」

「境遇は違えど、四苦八苦しながら今日までを生き抜いてきたと思うんですね。そんな、あなたに向けて。そして、あの時の自分に向けて。ここ、東京から」

 そう告げ、Reolは自分と音楽との在り方を書いた「1LDK」を歌い始める。嫌悪感、肯定できない自分自身、好きの裏腹にある嫌い。クソみたいな現実を塗り替えてくれたのは音楽であり、ファンにとってはそれがReolの楽曲になる。感情の乗った力強い歌声で熱唱するReolは、視聴者2万5000人の紛れもない代弁者だった。

 アンコールのラストに選ばれたのは、彼女の原点の曲「No title」。ファンの人生に寄り添い愛されるようになった曲だ。Reolは最後に「感無量ですけど、泣くのはみなさんが一緒にライヴに参加できるようになったらかなと思っています」と言葉を残し、紙吹雪が舞うステージを後にした。

Reol

 彼女の言う通り、またあの時のようにライヴが出来る日は、きっと来る。そんな輝く未来へ、Reolはクソみたいな現実を光らせてくれた。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

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