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田中泰の「クラシック新発見」

クラシック界最高の登竜門 第18回ショパン国際ピアノ・コンクール

隔週連載

第17回

ワルシャワ土産の「ショパンの手」

この秋のクラシック界最大の話題「ショパン国際ピアノ・コンクール(以下ショパン・コンクール)」の開催が目前だ(2021年10月2日~23日)。ショパンの命日である10月17日を軸に5年に1度ポーランド・ワルシャワで開催される同コンクールは、“クラシック界最高の登竜門”と言っても過言ではない。

過去の優勝者には、マウリツィオ・ポリーニ、マルタ・アルゲリッチ、クリスティアン・ツィメルマンなど、今をときめくクラシック界のスーパースターたちが名を連ねるだけに、コンクール自体への注目度が、他の国際コンクールとは段違いだ。5年に1度の開催ということは、4年に1度のオリンピック以上の狭き門。しかも今回はオリンピック同様コロナ禍によって当初2020年の開催予定が1年ずれ込んだことにより、6年ぶりとなる影響も見逃せない。

まずはコンクールの歴史を紐解いてみたい。その成り立ちは、19世紀から20世紀初頭にかけて著しく歪曲化された傾向にあるショパン作品の演奏と解釈を、本来あるべきショパン音楽のスタイルにに戻すことを意図したワルシャワ音楽院ピアノ科教授イェジ・ジュルヴレフの提唱がきっかけだった。

記念すべき第1回は、1927年1月23日から30日までの8日間、ワルシャワ・フィルハーモニーの大ホールで、予選・本選の2段階方式で開催されている。参加者は8カ国26名というこじんまりとしたもので、優勝者はロシアのレフ・オボーリン。参加者の中には後に20世紀を代表する作曲家となるショスタコーヴィチの名が刻まれているのも印象的だ。

ちなみに今をときめく「世界三大コンクール」とは、「ショパン・コンクール」「エリザベート王妃国際コンクール」「チャイコフスキー国際コンクール」の3つだ。米ソ冷戦時代の1958年にスタートした「チャイコフスキー国際コンクール」は、ショパン・コンクールに対抗すべく、革命後のソヴィエトが威信をかけて開催した初の国際的な大コンクールであったのだが、第1回優勝の栄誉が無名のアメリカ青年ヴァン・クライバーンの頭上に輝いたことは、米ソともに衝撃だったに違いない。これは、音楽に国境がないことを今更ながらに認識する出来事だ。

チョ・ソンジン (C) Christoph Köstlin

そもそもコンクールの意義とはいったいなんだろう。前回2015年のショパン・コンクール優勝者チョ・ソンジンの言葉が印象的だ。

「一言で言ってしまえばコンクールは“必要悪”です。ピアニストとして活動するきっかけを与えてくれたのですが、果たして本当に必要なのかどうかについては悩みます。なぜなら、私自身コンクールの準備によって精神的に疲弊してしまったからです。特にショパン・コンクールは一番苦しいコンクールでした。ショパン作品しか演奏できないことが何より辛かったのです。ショパンは幼い頃からずっと演奏してきたレパートリーでしたが、コンクールのための練習を始めてみると、練習すればするほど下手になるような気がするのです。

そこで、コンクールの3ヶ月前に練習をやめてリフレッシュする時間を持ちました。ピアノを弾かず、楽譜を見ながらそこに書かれた音楽のみに集中したリマインド作業ですね。ショパン作品だけに取り組むとなると、同じ解釈にとらわれてマンネリ化してしまいます。それを防ぐためにあえてショパンから離れてみたわけです。そんなことも優勝できた理由のひとつなのかもしれません」

今や世界が注目する若きスターの発言だけに実に意味深。コンクールを経験せずに世に出る才能が増えつつある現状にも通じる言葉だ。

「チョ・ソンジン 感動のショパン・コンクール・ライヴ2015」

さて6年ぶりとなる今回はどのようなドラマが生まれるのだろう。はたして日本人初の優勝者は誕生するのだろうか? 筆者がナビゲーターを務める「J-waveモーニングクラシック」では、9月27日週と10月4日週の2週に渡ってショパンを特集。遺された美しい作品の数々を、ショパン・コンクールで活躍したピアニストたちの演奏とともにご紹介する予定だ。クラシック界注目の大イベントにご注目あれ!

●「ショパン国際ピアノ・コンクール」歴代優勝者一覧
第1回(1927年):レフ・オボーリン(ソ連)
第2回(1932年):アレクサンドル・ウニンスキー(無国籍/亡命ロシア人)
第3回(1937年):ヤコフ・ザーク(ソ連)
第4回(1949年):ハリーナ・チェルニー・ステファンスカ(ポーランド)
第5回(1955年):アダム・ハラシェヴィッチ(ポーランド)
第6回(1960年):マウリツィオ・ポリーニ(イタリア)
第7回(1965年):マルタ・アルゲリッチ(アルゼンチン)
第8回(1970年):ギャリック・オールソン(アメリカ)
第9回(1975年):クリスティアン・ツィメルマン(ポーランド)
第10回(1980年):ダン・タイ・ソン(ベトナム)
第11回(1985年):スタニスラフ・ブーニン(ソ連)
第12回(1990年):優勝者なし/第2位:ケヴィン・ケナー(アメリカ)
第13回(1995年):優勝者なし/第2位:アレクセイ・スルタノフ(ロシア)
第14回(2000年):ユンディ・リ(中国)
第15回(2005年):ラファウ・ブレハッチ(ポーランド)
第16回(2010年):ユリアンナ・アヴデーエワ(ロシア)
第17回(2015年):チョ・ソンジン(韓国)
第18回(2021年):?

プロフィール

田中泰

1957年生まれ。1988年ぴあ入社以来、一貫してクラシックジャンルを担当し、2008年スプートニクを設立して独立。J-WAVE『モーニングクラシック』『JAL機内クラシックチャンネル』などの構成を通じてクラシックの普及に努める毎日を送っている。一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事、スプートニク代表取締役プロデューサー。

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