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EMPiREが全身全霊のパフォーマンスで超えた限界地点 東京国際フォーラムを熱狂の渦に包んだ全曲披露ライブ

リアルサウンド

21/1/14(木) 16:00

 「みんなありがとう!」「ホントにありがとう!」「エージェントありがとう!」

 6人は目一杯の声と手を振りながらステージを右へ左へと動き回る。客席のエージェント(EMPiREファンの呼称)一人ひとりの顔を確認するように笑顔を見せながら。

 ライブ開始から35曲目となる「I have a chance!!」での一幕だ。定刻通り18時30分に始まったライブは、もうこのとき21時になろうとしていた。

 “限界突破”ーー。まさにタイトル通りのいろんな意味で限界を突破した、とんでもないライブだった。通常であれば終盤のここぞというときに放たれるナンバー「S.O.S.」で始まったことからも、いつもとは違う気合いが感じられたセットリスト。EMPiREの全37曲を、本編ノンストップで一気に駆け抜けた。昨年1月5日にZepp DiverCity(TOKYO)にて開催した『EMPiRE’S GREAT REVENGE LiVE』は、MAYU EMPiRE不在からの完全復活という劇的な内容であった。(参考記事:EMPiREが6人で果たした“リベンジ” MAYU EMPiREの歌声轟いた念願のZepp DiverCity公演レポ)あれから1年、2021年1月4日、『EMPiRE BREAKS THROUGH the LiMiT LiVE』はアンコール含めて39曲、3時間に及んだ壮絶な内容だった。EMPiREの歴史に残る、大きな意味を持ったライブであったことはいうまでもあるまい。

「EMPiRE気合い入ってます! 楽しんでいってください!」

 開演前の影アナ、WACK代表・渡辺淳之介の言葉がなんとも優しく、心強く思えた。1年ぶりとなる東京での有観客ライブ、加えてグループ最大規模会場となる東京国際フォーラム ホールAである。エージェントにとってもメンバーにとっても、いい意味での飢餓感と期待が交錯する、得も言われぬ気持ちになっていたはずだ。

 「S.O.S.」の軽快なギターのカッティングで幕が上がると、ステージ上には真っ白なローブを纏った6人が。すると誰かがワイヤーによって高く浮上し、のっけから場内の度肝を抜いた。NOW EMPiREだ。高いところからの景色を眺めながら歌うその表情は得意げで嬉しそうで実に彼女らしく、てるてる坊主、いや、天使のように1人だけ宙に舞っている光景は少しシュールでもあり、それがなんだかものすごくEMPiREらしい演出に思えた。

「エージェントーー!! 今日は来てくれて本当にありがとう!  みんないっしょに楽しもう!」

 MAYUが高らかに叫ぶ。6人がローブを脱ぎ捨てると、黒地に金をあしらった新衣装があらわになる。どこか異国の女帝を思わせる衣装は神々しく、瀟洒な彼女たちにぴったりだ。そのまま「SUCCESS STORY」「SELFiSH PEOPLE」と、アッパーチューンを畳み掛けていく。

 「maybe blue」からしっかりと歌を聴かせるナンバーが続く。情感たっぷりに歌うMAYU。真っ直ぐな歌声と豊かな声量を持つ彼女だが、そこに驚くほど艶やかな表現力が増していた。「I don’t cry anymore」で、マイクにしがみつきながら飾ることなく、心の赴くままに慟哭性あるメロディを歌う姿が、セピア色のバックスリーンを背に滲んでいく。そこから一転、爽やかに「I have to go」へと流れいった。この2曲は同じ主人公であり、「つらい恋をした女の子が前向きに強くなっていく様子を描いている」と、YU-Ki EMPiREが持論として幾度となく語っているのだが、その関連性を表しているように思えた。どこか悲壮感を漂わせるMAYUの歌声と、明朗なMAHO EMPiREの歌声のコントラストも、それを色濃く浮き彫りにしていたように見えた。

 余談だが、筆者は先日別のメディアでMAHOを「スゴいボーカリスト10人」に選んだ。彼女は、伸びやかで豊潤な声とはにかんだような愛くるしい歌声が魅力。剛と柔、メインにもなるしフックにもなる。そうした声色を器用に使い分けるボーカリストであるが、ここにきてさらに、中低音のハスキーな鳴らし方を完全に手に入れていた。喉の鳴らし方が太い。「I have to go」で聴かせるコロコロと転がるような愛くるしい歌声、「きっと君と」での麗かな響き、「RiGHT NOW」間奏明けで、鋭い眼光と共に一瞬時を止めるようにグルーヴを操る様……思うように声が出なくなってしまった2019年の『NEW EMPiRE TOUR SEMi-FiNAL』新宿BLAZEを乗り越え、そして昨年MAYU不在のZeppで会場の空気を一気に掌握したあの歌は……より強靭なものとなっていた。

 ライブはテンポよく進んでいく。「TOKYO MOONLiGHT」で滑らかなリズムを見せ、「Buttocks beat! beat!」で勢いづける。セクシーさと実直さを兼ね備えたYU-Kiのハイキックの打点も過去最高に高く決まった。「WE ARE THE WORLD」「FOR EXAMPLE??」、EDMナンバーではドロップに合わせて6人は声の出せないエージェントとひとつになり、思い切り高く飛んで会場を揺らす。ノンストップで進んでいくライブ展開は一気呵成。途中でいつものライブと様子が違うことに気づいた。どこまでが前半で、どこからが中盤なのか皆目見当がつかなかった。「もしや、全曲やる気か……?」そう思わせながらも、流れの予想を裏切ってくるセットリスト。狂ったように乱舞していく「SO i YA」、大人びたボーカルを聴かせているかと思えば、突如狂犬のように切り込んでくるMiDORiKO EMPiREから目が離せない。そこから凛としたしなやかさで魅せていく「Clumsy」へ。NOWの屈託のない歌声が心地よい耳馴染みを生む。今まで観てきた中でいちばんエッジーな「Have it my way」、邪悪さをプンプン漂わせながらハードに攻める「RiGHT NOW」。EMPiREが放つグルーヴはエレガントでセクシーながらもソリッドだ。

 次にどの曲が来るのか、まったくわからない。「SUPER FEELiNG GOOD」ではゆったりとビートの波に身を任せ、「A journey」で力強い歌声を響かせる。「ORDiNARY」「This is EMPiRE SOUNDS」の紗幕を使用した、光と映像が織りなす美しいインスタレーションは見事としか言いようがなかった。いつもと異なるフォーメーションで始まった「EMPiRE originals」からの、前しか向いていない「ピアス」。毎回、その時々の気持ちに合わせて表情を変えながら、最高を見せてくれたこの2曲だが、6人の驚くほどの声量と熱が込められた情緒……すべてにおいて今まで見たことのない完成度に魅了される。そうやってこちらの感情に揺さぶりをかけ、エモーショナルに昂揚させておいて、「Dope」の人を喰ったようなコミカルな歌で落としに掛かってくる“してやられた”感。昨今のトレンドを押さえたダンスミュージックも、ちょっと懐かしいエレクトロなナンバーも、強く力漲るロックチューンも、さまざまな音楽がクロスオーバーしていくEMPiREの楽曲は観ても聴いても楽しい。そんな珠玉の楽曲たちをしっかりと自分たちのものにしている6人の強さをあらためて感じた。

 37曲目のラストは、もちろんEMPiREのアンセムというべき「MAD LOVE」。ラストサビ前のMAYUパート〈もお あなただけ〉の直後、割れんばかりのお決まりのコール代わりに客席から一斉にスマートフォンのライトが灯された。これは声が出せない状況下でも、メンバーに“たくさんの「ありがとう」と「おめでとう」を届けたい”という、エージェントからのサプライズだった。夜空のような光景を前に目頭を潤ませながら歌いきった6人はステージを降りた。

 今度はEMPiREからのサプライズ、アンコールで新曲「ERROR」が披露された。ダークエレクトロサウンドに低めのキーがずっしりとのし掛かる、oniによるEMPiREらしいナンバー。歌い出しのMiKiNA EMPiREのハンサムボイスに息を呑む。すっかり男装の麗人ポジションとなった彼女だが、そのきりりとした佇まいだけでなく、クールな中低音を響かせるボーカリストに成長したことを思い知らされた。〈勝手に生きてやろう 今 嘆きの壁を壊そう〉と、約10カ月ぶりとなる有観客ツアー『ERROR ERROR ERROR TOUR』が決定したときに書いたというMAHOによるメッセージ性の強い詞。争奪戦だったというラップパートを勝ち取ったMAYU、YU-Kiが巻き舌気味にクールに捲し立て、NOWが助走をつけながら、MiKiNAの〈行かなくちゃ〉がトドメを刺す。EMPiREならではのエレクトロな曲調であるが、WACKの伝統、ここぞという時に使用される特別な言葉〈行かなくちゃ〉が込められているところも、この今の世の情勢を踏まえた強い決意を感じるところだ。NOWによる躍動感ある振付も、楽曲強度をさらに高めていた。

 ラストのラストは、この日2回目の披露となった「アカルイミライ」。EMPiREの始まりの曲であり、これからの曲でもある。1回目よりも大きく舞い、優しく丁寧に歌っていたように見えたのは気のせいではないだろう。

 メンバー6人は手を取り合って、髪が床につくほど深く丁寧に頭を下げた。この状況下においてライブができること、そしてこうして多くのエージェントが集まってくれたこと……そのすべてに感謝するように、かなり長い時間頭を下げていた。

「また春に、みんなのもとに会いに行きます」

 そう言い残して、彼女たちはステージをあとにした。「今できることをすべてやる」そんな気迫を感じたし、今できること以上のものを魅せつけたライブだった。後半に向かっていくにつれ、ますます加速していく歌声とパフォーマンスはとてつもないエネルギーを放っていた。反面で、アンコール時のMCで過呼吸気味になっていたMiKiNAがこの日の過酷さを物語っていた。全曲やったからこそ、できることをすべて出しきったからこそ、見えたものがあるだろう。限界突破をしたEMPiREにもう怖いものなどないはずだ。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログTwitter

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