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高橋留美子「人魚シリーズ」と『鬼滅の刃』の共通点とは? 人の欲望に根ざした“闇”の深さ

リアルサウンド

21/1/6(水) 10:00

 高橋留美子先生が紫綬褒章を受賞されました。それだけ先生のマンガはクオリティが高いと言うことですよね、ファンとしてとても嬉しいです。高橋留美子先生というとコメディのイメージが強いですが、一番好きなのは「人魚シリーズ」。どんな話かというと、「湧太という青年がめっちゃくちゃモテてる物語」です。

 いや、それが主題じゃないのはわかってますよ。でも嘘でもないんです。

 湧太は800年ほど前に人魚の肉を食べて不老不死になりました。それから人魚を探して旅をしていて、行く先々でさまざまな人と出会い、行く先々で女に好かれて泣かれるんですよ。モテモテなんです。

 確かに正義感が強いからすぐ人助けしてくれるし、不老不死だから痛めつけられても死なないというかすぐ生き返ってしつこく戦ってくれるし、スーパー不老不死なんです、そりゃモテますわ! でもどんなにいい子に好かれても、彼女の命が有限である限り、不老不死の雄太とは添い遂げるのは難しい。どの物語も悲恋なんです。

 短編のシリーズであるこの作品は、人魚の肉を食べて不老不死になった真魚と湧太の出会いから話が始まります。

 人魚の肉は、人が食べるとたいてい身体に合わずに苦しんで死ぬか、身体がムクムクと膨れ上がり「なりそこない」という化け物になってしまう。不老不死になれるのはほんの限られた人だけ。真魚は、湧太が800年旅をしてきて初めて会った「仲間」なのです。この2人の関係の、唯一無二感がすごくいい!

 私はこの「人魚シリーズ」の根底に流れる人間の闇のような部分が好きです。2020年にどハマりした『鬼滅の刃』にも同じものを感じます。「不老不死」「異形の強いものとの戦い」「家族愛がテーマ」のあたりは共通していますよね。でもなによりどちらの作品も「人の欲望に根ざした闇」に取り組んでいるところにすごく魅力を感じます。この、どよーんとした曇り空のところがたまらなく好きなのです。

 20代の頃、年上のお姉さんにこんなことを言われました。「人は、どうしようもなく孤独なんです。パートナーがいたって通じ合うとは限らないし、看取ってもらえるとは限らない。死ぬときは1人なんです。それを理解しないといけません」。当時はまだ夢を見ていて「そんなことはない」と思っていましたが、今ならわかります。そうそう孤独を埋めてくれる人なんていないし、一緒に死ねるとも限らない。でもだからこそ、「永遠に生きることの孤独」が描かれる際には「絶対無二のパートナー」がセットになるのですね。

 『ポーの一族』のエドガーにもアランというパートナーがいました。ああ、そうだ、でも『鬼滅の刃』の無惨にはパートナーがいない。だからあんなに荒れてるのかな、荒れてるからいないのかな、なかなか業が深いです。

 短編のマンガは、無駄がなくてコンパクトでテンポがいいので引きこまれます。このシリーズも、湧太と真魚が出会う人たちにどんな闇があるのかが、各話のテーマになっています。そう、冒頭だけでは誰が悪者なのか、誰に同情したらいいのか、わからないんです。人魚がどんなふうに物語に関わってくるかも見どころです。肉だけではなく肝だったり、乾燥させて粉にすしたり、人魚の使い方もさまざま。それが物語にバリエーションを加えています。この謎解きのようなワクワク感もたまりません。

 ところで、人魚の肉がもし目の前にあったら、食べます?

 食べたら90%くらいの確率でめっちゃ苦しんで死ぬ。9%くらいは化け物になる。不老不死になるのは1%くらい? 宝くじよりは当たるけどかなりのギャンブルです。

 私だったらどうするかな……。重病や大けがで余命いくばくもない、というときになら食べるかもしれないな。それ以前に不老といっても現在すでにけっこう年取ってるし、不死になりたいかというと、ちょっと微妙かも。やっぱり自分からは進んで食べないかな。

■和久井香菜子(わくい・かなこ)
少女マンガ解説、ライター、編集。大学卒論で「少女漫画の女性像」を執筆し、マンガ研究のおもしろさを知る。東京マンガレビュアーズレビュアー。視覚障害者による文字起こしサービスや監修を行う合同会社ブラインドライターズ(http://blindwriters.co.jp/)代表。

■書籍情報
「高橋留美子 人魚シリーズ」(少年サンデーコミックススペシャル)全3巻
著者:高橋留美子
出版社:小学館
価格:各576円(税込)

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