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日本最高峰のコンクールで優勝。俊英・水野優也が語る日本音楽コンクールへの想い

ぴあ

21/1/15(金) 12:00

水野優也 写真:宮森庸輔

若手音楽家の登竜門・第89回日本音楽コンクールが昨年10月に開かれ、今年度の栄えある受賞者が決定した。3月に開かれる受賞者発表演奏会では、俊英たちが瑞々しい演奏を披露するが、中でも要注目は、チェロ部門を制し、全受賞者の中で最も印象的な演奏をした奏者に与えられる増沢賞をはじめ、4賞を獲得した水野優也。「もっと聴きたい、と思っていただける演奏ができれば」とステージに向けた抱負を語る。

「日本最高峰のコンクールでの優勝は、光栄であると共に、これをステップとして、さらに次の挑戦を続けてゆきたい、と強く思いました」と水野。「最近、海外のコンクールにも参加し始めていたのですが、コロナ禍で中止・延期が相次ぐ中、何か自分の中で目標を見つけたい、との思いで出場を決めました。結果だけではなく、自分の実力や経験値が高まって、とてもいい体験ができました」と振り返る。

実は、本格的に演奏家を志すきっかけのひとつも、日本音楽コンクールだった。「中学2年の時に本選を聴きに行って、ただただ感動して、何かのスイッチが入りました。その3年後には、自分が本選の舞台に立つことになった(結果は3位)のですが…」。“最優秀賞”である増沢賞も併せての受賞に「本当に嬉しかった。ピアノ伴奏で協奏曲を弾くにあたって、スケール感など、作品の魅力をどう伝えるか、自分なりに色々と工夫したので」と話す。

発表演奏会では、三ツ橋敬子指揮の東京フィルハーモニー交響楽団と共演、チャイコフスキー「ロココの主題による変奏曲」を弾く。「与えられた時間の中で、『どう自分の魅力を出すか』『演奏会で聴く意義があるか』を考えると、この曲以外になかった。美しくて優美で、哀愁もあって…チェロの魅力が詰まっています。これまで何度か弾きましたが、いっそう内面的なものを加味できて、一段と違う『ロココ』を披露できれば、嬉しいですね」。

チェロを始めたのは、6歳。「近所にスズキメソードの教室があって、体験レッスンを受けたら楽しくて…。母はピアノが弾けたので、簡単な伴奏を付けてくれたりして、毎日やっていても、全く苦ではなくて、むしろ自発的に取り組んでいました」。ソリスト活動の一方、2018年9月からハンガリー国立リスト音楽院に在籍。今年で73歳となる巨匠ミクローシュ・ペレーニの下で、さらなる研鑽を積んでいる。

「今の年齢でなお成長してゆける、音楽への姿勢や態度は、心から尊敬できます。彼は自分の思う“最高のモノ”を生徒たちに引き継いでもらいたいと考えていて、懸命に教えてくれるのですが、なかなか追いつけない。そこで、つい『とてもできない』と口走ってしまったことがあるのですが、そんな時、彼が『絶対に“できない”とは言うな』とおっしゃられて…。後で思い返すと、とても深い一言だったと感じています」

写真:宮森庸輔

そんな水野が、こだわり続けたいのが、“音色”。「自分の中で強みにできるのは、これかなと…」。そして、師ペレーニのような、音楽への“姿勢”だという。「今まさに音楽の本質を学んでいる最中です。以前は感情のまま、自由に弾くことを優先していましたが、楽譜に書いてある“意味”を読み取る作業を一番大切に。そこへ自分の感情などを、うまくミックスしてゆければ、と考えています」。

コロナ禍を経験して、「音楽に対して、よりいっそう、感動できるようになった」と水野。「演奏会が全くなくなってしまった時期を経て、改めてステージに立てた時、弾いている自分自身がまず心動かされたし、お客様の雰囲気も、ホールの空気感も、全てのものが、以前とは違うように感じました。おそらく、その場にいた全員が、その気持ちを共有していたと思います」と語る。

自分にとって、チェロを“一番付き合いの長いパートナー”、音楽を“不可欠なもの”と表現。「今も残っているクラシック音楽は、神聖で、揺るぎない存在。そんな音楽に一生かけて向き合ってゆける演奏家になるのが、夢ですね」。そして、「僕を含めて、入賞者発表演奏会の出演者にとって、ここからが本当の挑戦です。もっと聴きたいと思っていただける演奏をして、今後も見守っていただけたら、最高ですね」。熱っぼく語った。

第89回日本音楽コンクール受賞者発表演奏会(東京公演)
3月4日(木) 19時開演予定
東京芸術劇場コンサートホール(東京都豊島区西池袋1-8-1)

取材・文:寺西肇

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