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The CHANG「今日の雨はいい雨だ」

90's東京シティポップ再発見

ナタリー

19/11/28(木) 19:00

日本だけでなく世界的なシティポップブームが訪れている。昨今の新しい世代によるネオシティポップはもちろんのこと、1970年代から80年代にかけてのオリジネイターに注目が集まっており、再発も含めたリリースも多いのはご存知の通りだ。しかし、その中間となる90年代半ば、ひそかにシティポップの新しい潮流があったことをご存知だろうか。本稿では90年代半ばから後半にかけて、優れた作品を残した5つのバンドを紹介する。

キーワードは“フォーキー”

90年代のシティポップを語るうえで、とりわけ1995年は非常に重要な年と言えるかもしれない。この頃から、下北沢や高円寺界隈のインディシーンでは、“フォーキー”というキーワードが広まろうとしていたからだ。サニーデイ・サービスが1stアルバム「若者たち」を発表したのがこの年の4月。ロッテンハッツから派生したヒックスヴィルとGREAT3がメジャーデビューしたのも95年の夏だ。また、ジャズと歌謡曲をミックスしたような音楽性を持つ小島麻由美や、日本語ロックの元祖であるはっぴいえんどのエッセンスをヒップホップに取り入れたかせきさいだぁが現れたのも同じタイミングだった。ピチカート・ファイヴやフリッパーズ・ギターなどによって牽引されてきた、90年代初頭の一大ムーブメントだった渋谷系が一旦落ち着いたこともあって、傍流からはしっかりと歌を聞かせるアーティストが台頭してきたのだ。

そんな中、サニーデイ・サービスを頂点とするフォーキーなアーティストに続けて、グルーヴィなソウルを取り入れた、今の感覚でいうシティポップ的なアーティストも続々と登場した。ソウルの影響を受けた楽曲というと、オリジナル・ラヴの「接吻」(1993年)や小沢健二の「愛し愛されて生きるのさ」(1994年)に代表される渋谷系のアーティストの特徴の1つでもあったが、そこをさらに踏み込んで、フォーキー系のアーティストが持つ言葉の重みとソウル風のサウンドをうまく融合しようとするバンドが多数現れたのである。

The CHANG

The CHANGはその中の先駆けであり、代表的なバンドの1つといえるだろう。現在はCHEMISTRYやハナレグミなどのサポートギタリストとしても知られる石井マサユキ(Vo, G)を中心にした5人組バンドで、Simply Redなどで世界的に活躍していた屋敷豪太がプロデュースを手がけたロンドン録音の作品によってデビューした。こう書くと洋楽かぶれっぽいサウンドを想像するかもしれないが、彼らの楽曲はまず日本語詞ありきで歌が耳に入ってくるので、印象としてはサニーデイ・サービスにも近く、“和製フォーキーソウル”と呼ぶのがふさわしいかもしれない。1stアルバム「DAY OFF」(1995年)にも収録されているデビューシングル「春一番が吹いた日」、2ndシングル「今日の雨はいい雨だ」(1995年)、2ndアルバム「ACTION」(1996年)収録の「休日 ~Holiday~」などにおける心地よいグルーヴィなサウンドと、訥々と歌う石井のボーカルのアンサンブルは絶品。活動期間は短かったが、近年再評価が高まっているというのも頷けるし、今聴いても色褪せないエバーグリーンな魅力を放っている。

ザ・ハッピーズ

サニーデイ・サービスと相通じるフォーキーなバンドで言えば、中村ジョー(Vo, G)率いるザ・ハッピーズも無視できない。もともとはザ・ヘアや渚ようこと共に和モノリバイバルのシーンから出てきたバンドだが、徐々にフォーキーかつリズム&ブルース色の強い路線に移行。96年にメジャーデビューする頃には、The CHANGなどと比べると泥臭くレイドバックした印象はあったが、それでも新鮮なグルーヴを持つロックバンドとして颯爽と登場した。メジャーでの1stアルバム「都会のハッピーズ」(1996年)は彼らの持ち味であるガレージロック感覚とフォーキーな持ち味が融合した作品だ。今のシティポップのように洗練されたものではないが、ドレスコーズの志磨遼平をはじめ熱狂的なファンも多いと聞く。2ndアルバム「アンドロメダ急行」(1997年)も70年代の日本語ロックやフォークを思わせる力作だったが、1999年には惜しくも解散した。中村ジョーはソロとして地道に活動を続けており、ザ・ハッピーズとしても何度か復活ライブを行っている。

フリーボ

フォーキーな世界観をさらに掘り下げたのは、フリーボ(Freebo)ではないだろうか。リードボーカルの吉田奈邦子の歌声は、往年の吉田美奈子を彷彿とさせることもあり、世代を超えた音楽ファンに高く評価された。インディーズでリリースされた1stアルバム「すきまから」(1996年)はそういった意味においても非常に衝撃的で、ニール・ヤングやThe Bandを思わせるダイナミックなフォークロックサウンドもほかにはない斬新なスタイルだった。翌97年にメジャーデビューを果たし、「フリーボ'97」(1997年)、「Smoking Blues」(1998年)、「Blue Moon」(2000年)と素晴らしいアルバムを連発したが、商業的な成功には至らず、しばらくすると活動休止してしまった。2008年にはアコースティックテイストのミニアルバム「あこがれ」をリリースしたが、それ以外にはあまり目立った動きがないのが残念だ。

GOMES THE HITMAN

ソウルやフォーキーとは少し違う切り口から、グルーヴィなバンドサウンドを伴って現れたのが、GOMES THE HITMANだ。現在はソロとしても活動する山田稔明(Vo, G)を中心とした5人組は、パーカッションもメンバーに含むだけあって分厚いアンサンブルが特徴だ。ただ、彼らは英米のギターポップやネオアコからの影響が大きく、ソウル風味が多少あるとはいえ直接ブラックミュージックの影響を受けたのではないのがほかのバンドとは違うところだろう。山田が書く歌詞においても、村上春樹が翻訳したアメリカ文学のような味わいがあり、どこか青臭いポップなメロディと相まって独特の雰囲気を持っていた。「GOMES THE HITMAN in arpeggio」(1997年)、「down the river to the sea」(1998年)といったインディーズでのミニアルバムを経て、99年にメジャーデビュー。小説と連動した「cobblestone」(2000年)などユニークな作品を発表していった。2007年でバンドは一旦休止したが、2018年から本格的に活動を再開している。ギターポップ系はほかにもたくさんいるが、彼らほど日本語の歌詞が耳に残るバンドはいないかもしれない。

benzo

フォーキーかつソウルフルなバンドの中で、真打ちといえばなんといっても98年にデビューしたbenzoを忘れるわけにはいかない。ボーカル&ギターの平泉光司を中心にしたバンドアンサンブルは、シンプルながらタイトでソウルフル。「真昼」「抱きしめたい」「落下ドライブ」「DAY BY DAY」などのレパートリーは、今のシティポップのシーンでも通用するクオリティを誇る名曲ばかり。シュガー・ベイブや初期の山下達郎を彷彿とさせるファンキーなリズムと絡み合うエモーショナルなボーカルや、熱いライブパフォーマンスも評価が高かった。細野晴臣、星野源などのサポートでも活躍するベーシストの伊賀航や、サニーデイ・サービスからYogee New Wavesまで幅広いアーティストを支えるキーボード奏者の高野勲もメンバーだったといえば、その実力も伝わるのではないだろうか。残念なのはThe CHANGと同様に非常に短命なバンドで、オリジナルアルバムが「benzoの場合」(1998年)と「DAYS」(1999年)の2枚のみだったということ。これらはあっと間に廃盤になってしまったが、その後再評価されて2013年にはボーナストラックを加えて再発され、そのタイミングで復活ライヴも行った。現在、平泉はソロやCOUCHというバンドで活動中だが、benzoの本格的な復活を望む声も多いようだ。

95年から00年くらいの間に、こういったアーティストやバンドは下北沢界隈に多数いたが、そのうちフォーキーテイストの強いものは“喫茶ロック”や“歌モノ”といったムーブメントと共に新しいシーンを形作っていき、一方のソフトロックやソウル系に関しては、キリンジやNONA REEVESに受け継がれていった。いずれにせよ、ここに挙げたフォーキーでソウルフルなアーティストは、大きなブレイクをすることもなく活動休止や解散に追い込まれたという印象が強い。

しかし1つ言えるのは、彼らの音楽は20年ほど経った今も新鮮に感じられるものが多いし、さらに言えばシティポップが定着した現在のシーンでは、なんら違和感なく聴ける。その証拠に、The CHANGのシングル「今日の雨はいい雨だ」は7inchアナログで再発されGOMES THE HITMANは14年ぶりのオリジナルアルバム「memori」をリリース予定だ。never young beachやYogee New Wavesといった今のバンドにも、当時のバンドの隔世遺伝を感じることが多いし、ようやく正当な評価をされる時期が来たといえるのかもしれない。上質なシティポップがあるのは、80年代や現代だけではない。90年代にも存在していたということを、今改めて知ってもらいたいと思う。

※記事初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

文 / 栗本斉

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