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広瀬和生 この落語高座がよかった! myマンスリー・ベスト

4月のベスト、緊急事態宣言前に客席でみた演目では春風亭一朝『芝居の喧嘩』、それ以降のオンライン生配信では橘家文蔵の『文七元結』。

毎月連載

第18回

20/4/30(木)

4月に観た落語・高座myベスト5

①春風亭一朝『芝居の喧嘩』
 上野鈴本演芸場「春風亭一左真打昇進披露興行」(3/26)
②三遊亭鬼丸『ぐるぐる』
 上野鈴本演芸場「夜の部」(4/3)
③柳亭こみち『あたま山』
 上野鈴本演芸場「夜の部」(4/3)
④三遊亭歌奴『五貫裁き』
 上野鈴本演芸場「夜の部」(4/3)
⑤桂文治『品川心中』
 らくごカフェ「桂文治“自分のための独演会”」(4/1)

*日付は観劇日
 3/26〜4/25までに観た
 寄席・落語会13公演、46演目から選出

東京オリンピック・パラリンピックの開催を1年延期すると安倍首相が発表した翌日の3月25日に小池都知事が会見で「オーバーシュート」を防ぐために3つの密(換気の悪い密閉空間/多くの人と密集する場所/近距離での密接した会話)を避けるよう強く訴えたことで落語界では公演自粛の動きが急速に広がり、4月7日の安倍首相による緊急事態宣言によって5月連休明けまでの落語会はほぼすべてが中止もしくは延期となった。

上記の公演数・演目数には4月後半に無観客ライブ配信された「文蔵組落語会」や「春風亭一之輔の10日連続落語生配信」なども含まれていて、それを除いてリアルに客席で観たものだけを挙げると「3/26~4/3までの5公演、33演目」となってしまう。最後に生で観た落語は4月3日の上野鈴本演芸場夜の部トリの三遊亭歌奴『五貫裁き』である。21世紀に入ってこんなに長く落語の現場に足を運ばなかったのは初めてだ。東日本大震災の3月11日からの1ヵ月間でも、僕は3月12日と3月15日以外は毎日どこかに落語を観に行っていた。まさに未曾有の事態である。

オンラインでの生配信落語を候補に入れれば「第2回大阪つながり寄席~文蔵・遊方二人会~」(4/18)での橘家文蔵『文七元結』が1位、春風亭一之輔が配信した『団子屋政談』『千早ふる』『粗忽の釘』等も入ってくるだろうが、あえて“客席で観たもの”に限定すると、今月の1位から5位はこうなる。

一朝の『芝居の喧嘩』はとにかく啖呵の威勢の良さに痺れる。『芝居の喧嘩』と言えばかつては立川談志、今は春風亭一朝だ。一朝の『芝居の喧嘩』は談志に習ったものではないが「談志師匠の『芝居の喧嘩』が好きで、強く影響を受けている演目」だという。直接アドバイスも受け、サゲ方も談志から継承したもの。

上野鈴本演芸場 4月上席の番組一覧

鬼丸の『ぐるぐる』は深夜の満員電車で泥酔者によって引き起こされるスリリングな出来事を漫談調の軽妙な語り口で聞かせる京浜東北線ドキュメンタリー落語。無条件で笑える鉄板ネタだ。

不条理なサゲが有名な『あたま山』を実際に聴くことは珍しい。柳家花緑ぐらいだと思っていたら、こみちが独特な味付けをして、賑やかな語り口で楽しく聴かせてくれた。トントントンと調子よく進んでいくので、唐突なサゲもスッと受け入れられる。「少数精鋭のお客さんだから」とこういう演目を選んでくれたのも嬉しい。

歌奴の『五貫裁き』は定廻り同心が伝法な口調なのが印象的。大家の啖呵も威勢がいい。この噺を得意とした談志は皮肉な結末を考案したが、歌奴はもちろん「徳力屋は末永く栄えた」というハッピーエンド。朗々たる語り口と耳に心地好い美声。歌奴らしい爽快な大岡裁きの一席だ。

「桂文治 自分のための落語会」のチラシ

5位はサゲの一言で「人間って愛おしくって哀しいなあ」と思わせてくれる古今亭志ん輔の『水屋の富』(4/3)、正攻法で演じて人々がリアルに浮かび上がる柳家三三の『長屋の花見』(3/26)とも考えたが、ダイナミックな演技で引き込まれた桂文治の『品川心中』に。呼び出した金蔵にお染がすぐ心中の相談を始める志ん生型ではなく、金蔵が寝たふりをしているのを見たお染が手紙を書き始める圓生型で、お染のしたたかさと金蔵のマヌケさが際立っていた。



最新著書

『21世紀落語史 すべては志ん朝の死から始まった』(光文社新書)1,000円+税

プロフィール

広瀬和生(ひろせ・かずお)

広瀬和生(ひろせ・かずお) 1960年、埼玉県生まれ。東京大学工学部卒業。ヘヴィメタル専門誌「BURRN!」の編集長、落語評論家。1970年代からの落語ファン。落語会のプロデュースも行う。落語に関する連載、著作も多数。近著に『「落語家」という生き方』(講談社)、『噺は生きている 名作落語進化論』(毎日新聞出版)、最新著は『21世紀落語史 すべては志ん朝の死から始まった』(光文社新書)など。

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