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緒川たまきに“堂々と居てもらう”ユニット?KERAが明かす、ケムリ研究室への思い

ナタリー

20/7/22(水) 16:54

ケラリーノ・サンドロヴィッチ

ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)と緒川たまきによる新ユニット、ケムリ研究室 no.1「ベイジルタウンの女神」の公演が9月から10月にかけて、東京・兵庫・福岡で上演される。それに先駆け、7月15日にKERAの取材会が行われた。

「ベイジルタウンの女神」は、大企業のワンマン女社長がふとしたことから貧民街で暮らすことになり、そこから巻き起こる騒動を描くコメディ。KERAはユニット結成の構想が8・9年前からあったとし、「2016年の『キネマと恋人』は当初、2人のユニット1本目の舞台として考えていた」と言う。結成について「(緒川は)作品によっては共同脚本と言ってもいいような存在だったのですが、これまでクレジットに載ることはなく、創作のブレーンとしても堂々と“居てもらう”ユニットがあってもいいんじゃないかと。2人のユニットとなれば、彼女を中心としたキャスティングができるし」と理由を挙げた。旗揚げ公演となる本作は、多くの人の目にとまるよう派手さを意識したものになるが、今後は“手作り”な作品も織り交ぜて活動を進めていく。

ケムリ研究室で「野外劇」「二人芝居」も提案しているという緒川の声にKERAは「僕はあんまり気が進まないんですけど」とぽつり。「野外劇はいろんな偶発性に左右されますし……でも、生涯で1度やるとして、緒川さんとなら気が楽そう」と心境を語る。「何かないと、やらないことって多い」と言うKERAは、去る7月12日に無観客でのリーディングアクト「プラン変更 ~名探偵アラータ探偵、最後から7、8番目の冒険~」の生配信とコント映像作品集「PRE AFTER CORONA SHOW The Movie」の配信を行った。「コロナがなかったら、ああいうものを『作ってよろしい』とお金を出してくれる人もいなかった」と振り返る。

創作のパートナーとしての緒川を、時代劇の脚本補佐や推理モノのトリック提案者になぞらえ、「主に彼女が出演しているときですが、(脚本を読んでもらうと)『終わらなくなる』とよく言われますね。『ここを膨らませるとストーリーが着地しないし、絶対に(上演時間が)4時間になる』って(笑)。一応分業ですが、ホンも相談に乗ってもらいながら書くことは多くて、特に『百年の秘密』や『祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~』といったヘビーな人間ドラマは、多大なる彼女の助力なくしては完成しなかったと思います」と打ち明けた。

新しい生活様式が推奨されてしばらく経つが、新型コロナウイルスの猛威を知らせるニュースは絶えない。そのような状況で稽古ができるのか。KERAは「創作にも影響がある」と語る。KERAが上演台本・演出を担ったシス・カンパニー公演 KERA meets CHEKHOV Vol.4/4「桜の園」は場当たりのあと、ゲネプロ直前にして解散、cube presents「欲望のみ」は稽古開始前に公演中止が決まったという。今回の公演については「『できるんだ』と自己暗示をかけて、公演は必ず無事行われることを信じて作っていく」と決意を述べ、「この前みたいなリーディング(「プラン変更~」)を2度もやる必要はないし、今度こそ『演劇のようなもの』ではなく『演劇』を上演したいという強い思いがある。祈るしかない」と自身に言い聞かせるように発言した。

また、これらの状況は「何らかの形で作品に反映されるだろう」とも話す。「置かれる状況から湧き立つ感情は、どうしても作品に反映される。冷静(な描き方)であれば、それは良しとすることにしています。また、この作品は必要以上にそういうふうに取られそうな作品でもあるんです。会社を継ぐことになった女社長が貧民窟で暮らす。この設定だけでも、何かを揶揄しているように思えるというか……好きなんですよ、金持ちとか乞食の話。入れ替わったり、侵入したり、侵食したりっていうのが(笑)。また今回は、ニヤニヤくすくす、たまにゲラゲラっといったところを目指しています」とKERAは明かした。女社長を演じる緒川には、「今回は少しだけ、いつもより“ガラではない”キャラクターに踏み込んでいってほしいともと思っていて。利己的で世間知らずな人間だけど、愛嬌は必要な役になると思う。ほかの人には出せない味わいが出ることを期待してます」と語る。

「ベイジルタウンの女神」には多彩なキャストがそろった。今回、KERAと初顔合わせとなる高田聖子が、ライバルの女社長に扮する。また、菅原永二もKERA演出に初めて挑む。そのほか、KERAが「何度か(作品を)観に来てくれた」と言う吉岡里帆、松下洸平、東京・青山円形劇場でのKERA作品に3本出演した植本純米、久しぶりとなる仲村トオルのほか、水野美紀、山内圭哉、尾方宣久、温水洋一らが、そしてナイロン100℃からは犬山イヌコが出演する。KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「ドクター・ホフマンのサナトリウム~カフカ第4の長編~」に続き振付を小野寺修二、映像を上田大樹、音楽を鈴木光介が担当。演出についてKERAは「(物語上で)場所があちこち飛ぶので、記号的な道具をシーンごとにステージングで入れ替え、それに映像が絡んでくると思うんですけど……コロナのせいで『ドクター・ホフマンの~』からクリエイターとのコラボレート色が強い作品が続いてしまったので、どうやって違いを見せるか」と悩んでいる様子。また、さまざまなユニットを創作の場に持つKERAは「どのユニットも地道に作るという部分は変わらない」と言うが、ケムリの研究室がどのような姿で立ち現れるのか楽しみだ。

取材会では先月発売された「ケラリーノ・サンドロヴィッチ自選戯曲集1・2」(早川書房)の話も。KERAは「戯曲集が商売にならないこのご時世で、(発売されたことに)感謝しています。戯曲に読み慣れないとなかなか読み進まないかもしれませんが、本はいつ読むのを中断してもいいし、何度でも読み返せるのがいい」と述べ、自身の過去作について「覚えていないことも多いのですが、今読み返すと“下手くそだな”と思うようなところにもきっと書いたときの作家の意図があって、そこは尊重してあげたいなと。よくこれほどたくさんの世界を書いたなとも思います。30代前半の頃は、振り返ったときにたくさんの作品が積み重なっていることを理想としていたので……とはいえ、劇団健康時代のものは恥ずかしくて、すでに2冊くらい(戯曲集が)出ちゃってるけど抹消したい(笑)」と告白する。また、趣味として戯曲を読むことについて問われると、別役実とのエピソードに話が及んだ。KERAは別役の戯曲集に収録された作品の多さと“似か寄り”を挙げ、「読み出すのに力がいるんだけど、あっという間に引き込まれる。なんでこんな作品が書けるのだろう?と。永遠にたどり着けない先生です」と語った。なお、表紙写真は緒川のアドバイスでガラリと変わり、KERAいわく「これを選ぶとは思わなかった」写真になったそう。ぜひ確認してみてほしい。

ケムリ研究室 no.1「ベイジルタウンの女神」は9月13日から27日まで東京・世田谷パブリックシアターで、10月1日から4日まで兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールで、9・10日に福岡・北九州芸術劇場 中劇場で上演される。

ケムリ研究室 no.1「ベイジルタウンの女神」

2020年9月13日(日)~27日(日)
東京都 世田谷パブリックシアター

2020年10月1日(木)~4日(日)
兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

2020年10月9日(金)・10日(土)
福岡県 北九州芸術劇場 中劇場

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
振付:小野寺修二
映像:上田大樹
音楽:鈴木光介
出演:緒川たまき、仲村トオル、水野美紀、山内圭哉、吉岡里帆、松下洸平 / 望月綾乃、大場みなみ、斉藤悠、渡邊絵理、依田朋子、荒悠平 / 尾方宣久、菅原永二、植本純米、温水洋一、犬山イヌコ、高田聖子

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