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異世界転生ものの変化球!? 遊川和彦脚本『35歳の少女』は『家政婦のミタ』を超えるか?

リアルサウンド

20/10/10(土) 6:00

 『眠れる森の美女(眠り姫)』や『シンデレラ』がヒロインと王子の結婚で終わる「幸せなおとぎ話」なら、バッドエンディングの『マッチ売りの少女』や『人魚姫』は「不幸なおとぎ話」だ。そして、このドラマはそのどちらのパターンになるのか予想できない。10月10日に始まる新ドラマ『35歳の少女』(日本テレビ系)では、1995年に10歳だった少女が自転車事故で意識不明に。25年間、病院のベッドでこんこんと眠り続け、35歳の誕生日に目覚める。そんな数奇な運命をたどった35歳の望美を演じるのが柴咲コウだ。

 25年ぶりに意識を取り戻すなんて、こんなことが実際にあるのだろうか?と思い調べてみると、去年「UAEで昏睡状態だった女性が27年ぶりに目覚めた」というニュースが報道されている(参考:昏睡状態のUAE女性、27年ぶりに目覚める – BBCニュース)。つまり、現実にもなくはないのだろうが、やはりこの特殊なシチュエーションをわがことのように想像することは難しい。キャッチフレーズに「眠り姫」という言葉があるように、医療の発達した現代ならではのおとぎ話として観るしかないだろう。

 10歳の望美にとって、美しく優しい母(鈴木保奈美)、仕事のできるかっこいい父(田中哲司)、生意気だけれどかわいい妹(橋本愛)との暮らしは幸せそのものだった。小学校には初恋の相手・結人(坂口健太郎)もいて、将来の夢はアナウンサーになることだった。きっと未来は輝いて見えていただろう。しかし、目覚めたとき、自分の外見は35歳で、もう若くはなくなっていた。それなのに自分は同世代が通ってきた受験、就職、恋愛などをまったく経験していない。これはかなり絶望的な状況である。そして、心の支えになるはずの両親も離婚していて。父親には新しい妻子ができ、家族はバラバラになっていた。

 心はまだ10歳の望美にとってはたいへんな状況だが、ドラマの受け手としては正直、もうこのぐらいでは驚かなくなっている。なぜならこれは脚本家・遊川和彦による新作で、遊川はこれまでもヒロインに過酷な試練を課してきたからだ。前作『同期のサクラ』(日本テレビ系)でもサクラ(高畑充希)は会社にいられなくなった上、頭を打って昏睡状態に陥っていたし、5年前に柴咲と組んだ『○○妻』(日本テレビ系)でも、ただでさえ過酷な過去を背負う妻(柴咲コウ)が最後には頭を打ってバッドエンディングとなった。大ヒット作『家政婦のミタ』(日本テレビ系)の終わり方は「幸せなおとぎ話」に入るかもしれないが、謎の家政婦ミタ(松嶋菜々子)の背負う過去が美しすぎたゆえに、毒親、セクハラ、ストーカーなどに人生をめちゃくちゃにされたという、これ以上はないほどヘビーな設定だったので、印象としては辛さが勝る。ラブコメ路線の『過保護のカホコ』(日本テレビ系)などもあるが、観ていると「もうやめて!ヒロインのライフはゼロよ」と言いたくなる。それが遊川作品なのである。

 遊川作品における「昏睡状態」とは何を意味するのだろうと考えると、望美のような不可抗力によるアクシデントである場合と(NHK連続テレビ小説『純と愛』の愛も病気だった)、『同期のサクラ』『○○妻』のような“辛すぎる現実から無意識に自分をシャットダウンする”パターンの2つがあるようだ。目覚めたばかりの望美にはシャットダウンとして意識不明になるという展開はできないだろうから、たいへんな現実をひとつひとつ理解して、乗り越えていく展開になるのではないか。その先にハッピーエンディングが待っている可能性もある。

 もしかして、本作はライトノベルの世界では鉄板の「異世界転生もの」に近いのかもしれない。望美の時が止まった1995年は携帯電話もまだそれほど普及せず、Windows 95が発売されたぐらい。スマートフォンもWi-Fiもない。ISDN接続によってパソコンの画面ではホームページが1秒ごとに上から少しずつ表示されていたぐらいで、情報のスピードは現在とは比較にならない。その意味では「のどか」だった四半世紀前から“転生”してきた望美には、2020年の日本はほとんどパラレルワールドに見えるのではないか。そんなギャップに驚く展開も楽しめそうだ。『テセウスの船』(TBS系)では主人公が平成元年にタイムスリップし、黒の家庭用電話機やワープロなどアナログなツールを目にしていたが、今回はその逆パターンになる。異世界に転生したヒロインがその世界に対応して、恋をし、夢を叶えていくのなら、“アガる”展開になるだろう。

 最後に、改めて考えてみたい。私たちはもう「不幸なおとぎ話」は観たくないのだろうか? 現在、視聴率を稼いでいるのは明るめのラブコメディであることからして、暗い内容のドラマを敬遠する傾向は確実にあるのだが、簡単にイエスとも言えない。あの『半沢直樹』(TBS系)に並ぶヒット作、最高視聴率40.0%を記録した『家政婦のミタ』が放送されたのは、2011年の10月からだった。ヒットした理由は、主演・松嶋菜々子の徹底した無表情ぶりが面白かったり、「それは業務命令でしょうか」などの名セリフがあったりし、ネット上でもネタとして盛り上がったからだと分析されたが、筆者が作り手のひとりにインタビューしたとき、ベテランのテレビ人であるその人は、ネタドラマで40%は取ることができず、それだけ数字が出るということは、本気でミタに共感した人がたくさんいるということ、そして世の中にはミタのようにさびしい境遇の人がいるのだと語った。

 9.11、東日本大震災の直後、直接、被災した人はもちろん、日本中の人が同胞を失った悲しみを抱えていた。そこで、親や夫や子を亡くしたミタの悲しみが私たちの心を震わせたのではないか。そして、そんな共感のプロセスは、悲しみを乗り越えるのに必要なことなのかもしれない。

 折しも、新型コロナウイルス感染拡大という「不幸」があり、私たちは「時を戻そう」とばかりに、1年前の世界に戻りたいと思っているタイミング。自分の意志と関係なく、不条理にも人生の一部を失った望美は、多くの人の共感を呼ぶかもしれない。遊川作品のもつストーリー性の強さに期待したい。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
『35歳の少女』
日本テレビ系にて、10月10日(土)放送スタート 毎週土曜22:00〜22:54放送
出演:柴咲コウ、坂口健太郎、橋本愛、田中哲司、富田靖子、竜星涼、鈴木保奈美、細田善彦、大友花恋
脚本:遊川和彦
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:大平太、諸田景子
演出:猪股隆一ほか
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/shojo35/
公式Twitter:@shojo35

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