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鹿乃×MONACA 田中秀和、アルバム『yuanfen』対談 “死”と向き合い明確になった今伝えたいこと

リアルサウンド

20/3/7(土) 12:00

 ニコニコ動画の歌い手としてインターネットを通して人気を集め、2015年以降はメジャーに活動の場を移して活動を続けてきたアーティスト、鹿乃。彼女が2018年の3rdアルバム『rye』以来となる約2年ぶりの最新オリジナルアルバム『yuanfen』を完成させた。

 この作品では、2017年のシングル曲「day by day」を皮切りに、「Linaria Girl」や「CAFUNÉ」でタッグを組んできた人気作曲家・田中秀和(MONACA)が全編のサウンドプロデュースを担当。彼が声をかけた様々なアレンジャーとの相乗効果も加えながら、鹿乃の歌声とサウンドが、楽曲ごとにカラフルな風景を見せてくれるポップアルバムに仕上がっている。その制作風景について、彼女と田中秀和氏に話を聞いた。(杉山仁)

「“これが音楽に恋する感覚なんだ”と感じた」(鹿乃)

――鹿乃さんと田中さんとが最初にお仕事をしたのは、2ndアルバム『アルストロメリア』に収録された4thシングル曲「day by day」ですね。まずはそのときのことを思い出していただけますか?

【MV】 鹿乃 「day by day」(short ver.) 【OFFICIAL】

鹿乃:私はもともと田中さんの音楽のファンだったので、当時は緊張しすぎていて、実はあまり記憶に残っていないんですよ……(笑)。

田中秀和(以下、田中):(笑)。あのときは、鹿乃さんの方から「楽曲をお願いしたいです」とお話をいただいて。それまでにお会いしたことはなかったのですが、そのときに鹿乃さんから僕の楽曲を好きで聴いていただいていることを話してもらったのを覚えています。 

鹿乃:その当時、私は田中さんが手掛けられた『ハナヤマタ』のOPテーマ「花ハ踊レヤいろはにほ」が特に好きで。私は普段、ボカロPさんと楽曲をつくることが多いですが、田中さんはプロデュースにとても慣れている方で、ディレクションを言葉で伝えるのがお上手で。レコーディングがスムーズだったのも印象的でした。

ハナヤマタ OPテーマ「花ハ踊レヤいろはにほ」(short ver.)

田中:べた褒めじゃないですか(笑)。当時、鹿乃さんが「あまりレコーディングに外部の方は入れたくない」という話をされていて。なので、僕としては、歌録りで立ち会わせていただく際に、結構緊張して行ったと思います。「ナイーブな方なのかな?」と(笑)。

鹿乃:あははは。

田中:もちろん、実際に会ってみたら全然違いましたし、最初からすごくウェルカムな雰囲気で、とてもやりやすかったのを覚えていますね。

――そのすぐ後に、同じく『アルストロメリア』に収録されたアルバム曲「Linaria Girl」で、ふたたび田中さんが楽曲提供されました。

「Linaria Girl」

鹿乃:あの曲は、「田中さんが好きな雰囲気のアレンジで」というお話をして、ブラジル音楽の要素が入ったアレンジにしていただきました。

田中:「day by day」は『ソード・オラトリア ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝』のEDテーマとして作品に寄り添う必要がありましたけど、「Linaria Girl」はアルバム用の曲だったので、とても自由につくらせていただいたんです。

――ブラジル音楽っぽい要素もありつつ、渋谷系のようなメロディも印象的でした。

鹿乃:もしかしたら、「day by day」のときに私が「渋谷系が好き」と話していたのを、田中さんが覚えてくださっていたのかもしれないです。

田中:確かに、直接聞いていたと思います。それに、僕自身ももともと渋谷系が好きでルーツのひとつのようになっているので、僕がつくるものにも自然にそういう要素が入ってくる、という部分もあったはずです。「Linaria Girl」に関しては、レコーディングの際に鹿乃さんの歌い方を「ウィスパーボイスっぽい雰囲気で」とお願いして、そのウィスパー感が渋谷系にも繋がっているような気がしますね。

鹿乃:私は、「Linaria Girl」のときに、「これが音楽に恋する感覚なんだ」と感じたんです。「すごく好き」という感覚はもちろんずっとありましたけど、周りの方に「音楽に恋する瞬間がある」という話をされていても、私自身はなかなか感じたことがなくて。その感覚が分かったような気がしました。

――その経験が、鹿乃さんにとってすごく大きなものだったんですね。

鹿乃:そうなんです。これは今回のアルバムにも繋がる話なんですけど、「自分の音楽をつくりたい」と考えたときに、まっさきに浮かんだのが「Linaria Girl」だったんですよ。

――お2人は、お互いにミュージシャンとしてどういう魅力を感じていますか?

田中:今回、鹿乃さんの表現者としての魅力を、レコーディング現場でより身近に感じることができたんですが、「とても器用な方なんだな」と改めて感じました。同時に、すごく色々な表現の引き出しをもっていて、声の魅力もあって、「ただ器用なだけじゃない」という魅力がある方でもあって。言葉にするのが難しいんですが、鹿乃さんにしかない不器用な部分も含めて、それを魅力として表現できる方だと思いました。器用な方はたくさんいらっしゃると思うんですよ。でも、自分の中のどうにもならない芯の部分も見せながら色々な表現ができる方って、少ないと思います。今回の制作で、歌唱や短期間で歌詞をたくさん書いてくださった中で「そういう方なんだな」ということをより感じました。素晴らしい表現者だな、と改めて思いました。

田中秀和

――田中さんから見た、鹿乃さんの歌詞の魅力はどういうものなんでしょう?

田中:今回より感じたのですが、いわゆる職業作家的なテクニカルな部分がすごく見えた印象があって。でも、それが自分自身と切り離されている言葉ではない、すべてが鹿乃さんから出てきたと感じられる言葉になっているところが魅力的だと思います。

――シンガーソングライター的でもありつつ、同時に作家的にテクニカルな側面も持ち合わせている、と。

田中:そうですね。毎回歌詞を見るたびに、「いい歌詞だなぁ」と思っていました。

鹿乃:私は、今回田中さんたちとアルバムを制作させていただく中で、自分自身の考え方が変わっていった部分がありました。編曲してくださった方も含めて、みなさんそれぞれのプライドのようなものが感じられて、「仕事を真剣にやるってかっこいいな」と思ったんです。私は自分のことを「まだ歌手になれていない」と思っているんですけど、今回、改めて「歌に真摯に向き合っていきたいな」と思いました。

――実際は、鹿乃さんは歌手として活躍されているわけですから、「まだ歌手になれていない」というのは、鹿乃さんの人柄がよく伝わる部分なのかもしれません。

鹿乃:私が憧れてきた歌手の方って、とてもキラキラしていて、パワーがすごい方ばかりで。でも、今の私って、まだまだ周りの方々に押していただいていると思っているんです。なので、いつか私が引っ張っていけるような存在になっていけたらいいな、と思っています。

――鹿乃さんは鹿乃さんで、目標が高いということですよね。

鹿乃:でも、正直にお話すると、今回のアルバムをつくる前に、マネージャーさんや事務所の社長さんに、「音楽を辞めようかな」という話をしていたんです。メジャーレーベルで音楽活動ができるようになって、目標としていたことを達成してしまったときに、次にどうしていいのか分からなくなってしまって。もともと、「自分には個性がない」と悩んだりもしていたし、このまま音楽を続けていて、「何かになれるのか」「何かをつくれるのか」と、考えてしまっていました。そんなときに、「それでも音楽が好き」「自分の音楽を見つけたい」と思って、周りの方々にも励ましていただいて、もう一度頑張ってみようと思ってつくったのが、今回のアルバムでした。なので、今回は「もうちょっとわがままになってみよう!」と思ったんです(笑)。そこで、「アルバム本編を全部田中さんに書いてもらえないですか?」とリクエストしたのが、『yuanfen』のはじまりでした。

――なるほど。自分の好きな音楽にまっすぐ向かっていこうと思ったんですね。

鹿乃:私の1stシングルを担当してくださって、以降もずっと曲をつくってくださると思っていたsamfreeさん(2015年に逝去)のお墓参りに行ったときに、電車の中でこのアルバムの話をしていて。私だっていつ亡くなってしまうか分からないですし、「鹿乃の死」というのは、私が諦めた瞬間のことなので、10周年に際してアルバムとして、後悔のない作品をつくりたいと思っていました。今後10年続けていくときに、「この作品をつくれたんだから、何があっても頑張れる」というものになればいいなと思って、「Linaria Girl」のときに感じた気持ちが忘れられなかったので、田中さんにお願いすることにしました。

「音楽って“楽しい”以外のことも表現できるもの」(田中)

――制作当初に、お2人で話し合ったことはありましたか?

鹿乃:最初に打ち合わせをしたときに、私が田中さんに「自分の個性が分からないから見つけていただきたい」ということを、すごくあやふやな日本語でお伝えしました(笑)。「音楽を辞めようと思っていた」という話は、田中さんに余計なプレッシャーをかけてしまうことになると思うので、その時点ではしていなかったんですけれど……。

田中:そうですね。後に「そんなことも考えていた」と聞きました。その時点ではまず「作品の方向性をどうするか」という打ち合わせで。それが「CAFUNÉ」(2019年発売シングル『光の道標』収録曲)の前の話だったので、その曲と、アルバムの打ち合わせを兼ねるような感じでした。僕自身、アルバムを全編プロデュースするのは初めてだったので、最初は「何をすればいいんだろう?」という状態で。鹿乃さんにやりたいことがあるならば、それを尊重しようと思っていました。実際、鹿乃さんからもやりたいことが具体的に上がってきていたんですけど、大きな方向性については任せていただいたので、「作曲は自分で行なって、アレンジに関しても一緒にやりたい方にお願いすれば、鹿乃さんと僕とでつくった作品になるんじゃないか」、と思っていました。

「CAFUNÉ」

――鹿乃さんからはどんなリクエストをしたんですか?

鹿乃:「私の歌も、音の一部として扱ってくださっても構わないので、ずっと聴いていられるような、カフェミュージックのようなものにしたい」とリクエストしました。

――ああ、なるほど。鹿乃さんの楽曲には、鹿乃さんの声を活かして演奏はそれに寄り添うタイプの曲と、アレンジも含めて色々な要素をちりばめていくタイプの曲があると思うのですが、確かに今回の楽曲には、全編後者の魅力が詰まっているように感じます。鹿乃さんのボーカルと、田中さんやアレンジャーのみなさんの音が一緒に遊ぶような雰囲気があるといいますか。

田中:ああ、よかった!

鹿乃:私も安心しました(笑)。

――では、収録曲を具体的にいくつか挙げていただきながら、制作時の思い出を振り返ってもらえると嬉しいです。

田中:まず、楽曲は基本的にはトラックリスト順につくっているんですけど、1曲目の「午前0時の無力な神様」は、実は2番目につくった楽曲で、最初につくったのは、3曲目の「yours」だったんです。

「yours」

鹿乃:そうそう、そうでした。

田中:最初の打ち合わせのときに、鹿乃さんご自身が書いたお話を10篇ぐらい用意してくださっていて。その内容が、「これはフィクションかな?」と思えるぐらいの凄絶さで……。

鹿乃:(笑)。

田中:後からうかがったところ、それは鹿乃さんご自身の体験だったそうで。それを確認するかしないかのタイミングで、僕の中で想像しながらつくったのが「yours」でした。

――なるほど。収録曲の中でも、影のようなものが感じられる楽曲ですね。

田中:そうなんです。あと、悪い意味ではないんですけど、ちょっと狂気も感じられるような雰囲気というか。音楽って「楽しい」以外のことも表現できるものだと思っているので、まずはそういう楽曲からつくっていきました。カフェミュージックって、僕の中では「日常に寄り添ってくれる音楽」「そばで寄り添ってくれる音楽」だと思っているんです。それなら、楽しいときだけではなくて、悲しいときも、怒っているときも、そばで寄り添ってくれる音楽がきっとあるはずで。「それって、こういうものなのかな?」と考えてつくったのが「yours」でした。

鹿乃:間奏のところもすごかったですね(笑)。

――〈あたし今日も/あなたのお友達〉のところから、鹿乃さんの歌の感情がぐっと増して、そのまま間奏に突入していく雰囲気で。

鹿乃:そのボーカル部分も、田中さんに丁寧にディレクションいただきました。

田中:色んな歌い方を試して、鹿乃さんと2人で試行錯誤しながらつくっていった感覚でしたね。そのあとに、リード曲として「午前0時の無力な神様」をつくっていきました。

鹿乃「午前0時の無力な神様」【OFFICIAL】

――「午前0時の無力な神様」は、渋谷系直系のサウンドが印象的な楽曲ですね。

鹿乃

鹿乃:リード曲になると思っていたので、歌詞はかなり悩みました。この曲は「神様」がテーマで、その神様というのは、「アーティストを神様だ」と考えてしまうことや、ファンの方を神様だと思ってしまうアーティスト側の目線を表現したものでもあるんです。そもそも、神様というのは「信じてくれる誰かがいないと存在できない」ものだと思うんですけど、アーティストの場合だと、「誰かひとりでも、自分のことを信じてくれる人がいる」ということは本当に大きくて。「信じてくれた誰かがいたから、私も10年間続けてこられたのかもしれないな」と思うんです。そう考えたときに、今回のアルバムタイトルにもなっている「yuanfen」(=中国語で「縁」の意)のようなものを表現したいと思って。そこから考えて、「縁」って結局「愛情なのかな」と思ったんです。

――人と人がお互いのことを考えて関係を築く中で生まれるのが「縁」だ、と。

鹿乃:はい。たとえば、誰かが毎日料理をしてくれたり、洗濯をしてくれたりするのも愛情だし、曲をつくってくれるのも愛情だし、仕事を取って来てくださるのも愛情だし。それで、「愛」に変わるいい言葉はないかな、と探していたら、テニスをしていたことを思い出したんです。テニスではスコアが「0」のことを「ラブ」と言いますよね。そこで、コーラス部分の〈またね午前0時〉というキーワードが出てきました。これは、私の1stシングル曲「Stella-rium」の〈なんにもないなら/なんにでもなれるはず〉という歌詞にも繋がっていて、「ここからまた何でもつくっていけるし、これまでもつくって来れた」という気持ちを表現しています。そのうえで、普段制作をしているときに、気づけば午前0時になっている、ということにもかけています(笑)。

――続く「光れ」はアレンジをNorさんが担当したフューチャーベースですね。

「光れ」

田中:もともと、今回のアルバムの楽曲をつくりはじめる前に、僕の方でつくってみたい雰囲気の楽曲や頼みたいアレンジャーさんについて、「こんな感じでどうですか?」と鹿乃さんに伝えたんですけど、この曲はそのときから「Norさんにアレンジをお願いしたいな」と思っていた曲でした。鹿乃さんの声を思い浮かべて、いただいた物語も読ませていただきながら、楽曲を着想していきました。

鹿乃:最初は田中さんに「これは架空の人物の歌詞で……」と言い訳していたんですけど、この曲は、実は本当に自分が歌をやめようと思っていた瞬間のことを書いたものでした。

「一人でもいいので誰かの役に立って死にたい」(鹿乃)

――それ以降の楽曲で、印象に残っている楽曲といいますと?

鹿乃:私はまず、「KILIG」ですね。この曲は、ファンの方が聴いてくださったときに、きっと「初恋の曲なのかな」と思う人も多いんじゃないかと思うんですけど、これは先ほどお話した「Linaria Girl」のように「音楽に恋に落ちる瞬間」を表現したものなんです。最初は一生懸命少女マンガを読んだり、『テラスハウス』を観てトキメキを表現しようと思ったんですけど、どうにもうまくいかなくて(笑)。そこで「自分が音楽に恋に落ちる瞬間の気持ちを、素直に書こう」と思いました。そういう意味でも、デモの段階で一番ロマンティックだと思った「KILIG」に合うと思ったんです。これは私なりの音楽へのラブレターですね。

「KILIG」

――〈200年くらい飽きるまで隣ずっと〉という歌詞が印象的です。

鹿乃:音楽って、私や田中さんが死んだ後にも残るものだと思うんです。それと同じように、「この音楽が好き」という気持ちって、200年先まで続いていきそうな奇跡のようなものだと思っていて。歌うときも浮かれているようなキラキラした雰囲気を意識しました。

田中:編曲を担当してくださったハヤシベトモノリさんに、色んな音色が出ては引っ込む雰囲気にしたい、とお話しました。その結果、音でもキラキラした雰囲気が表現できたのかもしれないです。

鹿乃:他には、アルバムのどこかで自分自身を表現する歌詞を書こうと思っていて、デモを聴いて「絶対にこの曲だ」と思ったのが5曲目の「聴いて」でした。この歌詞は、等身大の自分の飾らない言葉で書いています。みんなは私を「いい人だ」と言ってくれますけど、「そんなのじゃないよ」と思ったりすることもありますし、一方で、そもそも私が音楽を続ける理由って、生きている間に、一人でもいいので誰かの役に立って死にたい、と思っているからでもあって。自分が寂しい気持ちのときにも、音楽があると、一人じゃない気持ちになれることってあると思うんです。歌い方は、田中さんにディレクションをいただいてかなり試行錯誤しました。

「聴いて」

田中:そうですね。今回のアルバムでは、1曲の中でも時系列に沿って鹿乃さんの歌い方が変わることを意識してもらった曲が多いのですが、この曲もまさにそういう曲でした。

鹿乃:最初はあえて抑えて歌うことで、みんなが思っている鹿乃のイメージからスタートして、曲の最後に感情が乗るように歌ってみよう、とか。

――ああ! 確かに、この曲でも終盤は全然違う声になっていますよね。

鹿乃:ミックスの雰囲気も、遠くに響かせるようなものにしてくださいました。

田中:というのも、この曲は「自分の内側を見つめることで、ものすごく大きなエネルギーが外に放たれる」という意味で、僕の中ではシューゲイザーのようなイメージだったんです。

――他にもお2人それぞれ、印象的だった曲はありますか?

田中: 8曲目の「罰と罰」は、個人的には「つくれてよかった」と思った曲でした。この曲は最後に歌を録ったんですけど、歌詞も言葉数が多いですし、自分自身あまりこういう雰囲気の曲は過去につくったことがなくて。編曲の佐高陵平さん(y0c1eとしても活動)もそうだったと思うんですけど、佐高さんの音楽性との化学反応を期待してお任せしたら、めちゃくちゃいいアレンジにしていただきました。

「罰と罰」

――ジャズのテイストもあって、同時にモダンな要素も入っている楽曲ですね。

田中:そうですね。曲の基盤はラテンジャズだと思うんですけど、サウンドはもっとモダンな雰囲気になっていて、鹿乃さんのウィスパーボイスの表情づけも印象的ですし、それがエディットした音と混ざり合うようになっていて。歌詞は、鹿乃さんが1日で書かれていたと思うんですけど、とても素敵だと思いました。魂が込められた歌詞というか。

鹿乃:ありがとうございます(笑)。この歌詞は、「執着しすぎた罰」「執着しなさすぎた罰」という意味で、「悪縁」のようなものを表現しているんです。悪縁って、どちらか一方が悪いわけではないと思うんですね。どっちにもすれ違いがあって、責任があって。そういう雰囲気を表現した曲でした。

――なるほど。そしてラスト曲「エンディングノート」についても聞かせてください。

「エンディングノート」

鹿乃:今回のアルバムは、「今死んでも悔いの残らないような作品をつくりたい」という気持ちでつくりはじめた作品なので、そういう意味でも、もちろん遺書ではないんですけど、最後に「エンディングノート」を入れたいと思ったんです。楽曲の雰囲気を説明していただいたものにも、「もう終わりだけれどまだ終わりたくない」と書かれていたので、「テーマはこれしかない!」と思って。そこから、「エンディングノートということは、本当にみんなへの気持ちを書くものになるよなぁ。そのとき、自分はどんな歌を歌いたいだろう?」と考えていたら、シンプルに「ありがとう」と伝えたいという気持ちになりました。それこそ、田中さんと初めてお仕事をさせていただいた曲「day by day」の歌詞にもあった“愛の唄”(〈誰かのため/愛を唄おう〉)なのかな、って。もちろん、これが本当に最後ではなくて、まだまだ活動していこうと思っているんですけど、ネットの中で生まれた「鹿乃」というキャラクターの終わりを想像して歌詞を書いてみました。

――歌詞も曲もアレンジも、かなり壮大なものになっていますよね。

田中:いい曲……。

鹿乃:(笑)。歌詞を最初に渡したとき、田中さんは「こうくるとは思わなかった」と言われていましたよね?

田中:感動してしまって、半分泣いているような状態でした。テーマもそうですし、全部の言葉が刺さってくる感じがして。レコーディングのときも、演奏してくださるミュージシャンの方々に鹿乃さんの歌詞を共有して、説明してから演奏をしてもらっています。この曲で編曲をお願いしたのは、僕がいつもお仕事させていただいているsugarbeansさんで、演奏してくださったミュージシャンの方々も、僕がいつもご一緒している方々です。実はこのレコーディング中は、僕らの間で、「死」というものへの気持ちが共有できている時期だったんです。それは、レコーディングの現場では言葉としては出なかったんですが、「死」というものに対する身近さや、「僕らにもいつそれが訪れるかわからない」、だからこそ「今何を伝えたいのか?」という思いのようなものが、かかわってくれた方々全員で共有できていたように思います。歌詞をお渡ししたときに、演奏してくれたみなさんが「これはブルーズだ」と言われていて。僕も鹿乃さんが「人生のブルーズを表現した楽曲」なのかな、と思っています。

――最後に、今回の『yuanfen』は、お2人にとってどんな作品になったと感じていますか?

鹿乃:たとえば、色々と悩んで考えていても、諦めずに少しずつでも進んでいけば、その先で何かが開けていくようなことってあると思うんです。この作品は、そんな道標のような作品になってくれたらいいな、と思っています。あと、このアルバムから、私自身の視野が変わってきた部分もあるんです。活動を続ける中で、自然と日本の人たちを意識していた部分があったんですけど、もともと鹿乃はインターネットから出てきたわけですし、「もっと広い視野で考えたらいいのかな」と思えるようにもなって。そうやって、今世界中の人が私の音楽を聴いてくれていることや、自分が活動をしていくことについて、自信を持てるようになった作品でもありました。「聴いてさえもらえれば、好きになってもらえる」と思える素敵な曲をプレゼントいただいて、「音楽で希望をいただけたな」と思います。

田中:僕も、1枚のアルバムを全曲プロデュースさせていただくことは、作家として大きな経験になりました。アルバム1枚すべての楽曲を同じ作家が書くことは、昨今なかなかないことですし、この作品ではアルバムを通して聴いたときに美しいものにしたいと思って、曲順からこだわりを持ってつくらせていただいて。自分にとっても、「1枚すべてサウンドプロデュースをさせていただきました」と胸を張って言える作品になったと思っています。

■リリース情報
2020年3月4日(水)発売
『yuanfen』
【初回盤】
<CD+DVD> ※LPジャケット仕様
TECI-1675(DVD:TEBI-42601) / 価格:¥3,818+税
<収録曲>
01.午前0時の無力な神様
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:Aire
02.光れ
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:Nor
03.yours
作詞:鹿乃 作曲・編曲:田中秀和(MONACA)
04.KILIG
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:ハヤシベトモノリ
05.聴いて
作詞:鹿乃 作曲・編曲:田中秀和(MONACA)
06.漫ろ雨
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:曽我淳一
07.おかえり
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:Oliver Good(MONACA)
08.罰と罰
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:佐高陵平(Hifumi,inc.)
09.エンディングノート
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:sugarbeans
bonus track
光の道標
作詞:こだまさおり 作曲:山田高弘 編曲:齋藤真也

<DVD>
1.午前0時の無力な神様 Music Video

【通常盤】
<CD>TECI-1676 / 定価:¥3,000+税
<収録曲>
01.午前0時の無力な神様
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:Aire
02.光れ
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:Nor
03.yours
作詞:鹿乃 作曲・編曲:田中秀和(MONACA)
04.KILIG
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:ハヤシベトモノリ
05.聴いて
作詞:鹿乃 作曲・編曲:田中秀和(MONACA)
06.漫ろ雨
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:曽我淳一
07.おかえり
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:Oliver Good(MONACA)
08.罰と罰
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:佐高陵平(Hifumi,inc.)
09.エンディングノート
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:sugarbeans
bonus track
光の道標
作詞:こだまさおり 作曲:山田高弘 編曲:齋藤真也

『鹿乃 VR Live ReBirth』

■ライブ情報
『鹿乃 VR Live ReBirth』
2020年3月29日(日)19:00~(日本時間)/18:00~(北京時間)
INSPIX LIVE:24コイン
ニコニコ動画 ネットチケット販売価格(税込価格):2,000ニコニコポイント(2,000円)
※視聴URL、ネットチケット販売URLは別途鹿乃公式HPにて公開。
bilibili動画 ネットチケット販売価格:100元
※視聴URL、ネットチケット販売URLは別途鹿乃公式HP。

■関連リンク
鹿乃 オフィシャルサイト
鹿乃 オフィシャルTwitter

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