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新ドラマが受けた新型コロナウイルスの打撃 物語の世界観に与える影響は?

リアルサウンド

20/7/20(月) 10:00

 新型コロナウイルスの影響で撮影休止となり、中断されていた春クールのドラマが夏クールにずれ込む形で再スタートしているのだが、違う世界の出来事を見ているかのように感じてしまった。

【写真】多部未華子主演『私の家政夫ナギサさん』

 コロナの世界的流行が起こらずに東京オリンピックを控えたもう一つの日本。SF風に言うならば、平行世界(パラレルワールド)を見ているようで、複雑な気持ちになる。

 どのドラマも初回はコロナ前に撮影されたものであるため、外出してもマスクを着用しておらず、ソーシャルディスタンスにも無頓着であることに違和感をあるのだが、多くの視聴者は「ドラマなんて、そんなもんだろう」と、軽く受け流しているのだろう。

 むしろ、コロナと関係ない世界がそこにあることに「癒やし」のようなものを感じているのかもしれない。その意味で、現実とのズレがダメージになりかねないのは、今クールのドラマで言うと『MIU404』(TBS系)のような現代性にこだわりのある作品だ。

■現実にフィクションが追い抜かれてしまった現状

 『MIU404』は警視庁刑事部・第4機動捜査隊という架空の部署を舞台にしたバディモノの刑事ドラマ。第1話が「煽り運転」、第2話が人質をとった犯人の「移動立てこもり」に労働問題が絡むというもので、脚本家の野木亜紀子が同じスタッフと共に2018年に手掛けた『アンナチュラル』(TBS系)を彷彿とさせる社会派ドラマとなっている。

 第3話には『アンナチュラル』に登場した刑事も登場するため、どうやら同じ世界観の話のようだが、そういった設定上の遊びや、綾野剛と星野源を中心とした大胆なキャスティングは楽しいのだが、題材がコロナ以前に問題になった事件なので「コロナがなければ、もっと楽しめたのに」と思ってしまった。

 第1話に登場した監視カメラの撮影時間が2019年の4月だったため、物語上の問題はないのだが、現代性が魅力の作品なだけに、現実の側がズレてしまうと、こんなに印象が変わるのかと考えさせられた。

 今後、2020年を舞台にした同時代的な作品に修正してくることを期待したいが、『アンナチュラル』の第1話がコロナ禍を予見するようなパンデミックの話だっただけに、現実にフィクションが追い抜かれてしまった現状を、突きつけられたように感じた。

■作品のモチーフが結果的にマッチ?

 一方、同じTBS系で火曜22時から放送されている『私の家政夫ナギサさん』は、医製薬会社の営業職の女性・相原メイ(多部未華子)と家政夫のおじさん・鴫野ナギサ(大森南朋)の交流を描いたドラマ。

 同枠で大ヒットした『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の影響を強く感じる作品だが、汚い部屋を片付けることで自分のライフスタイルを見つめ直すというモチーフは、換気や消毒といった衛生管理に多くの人々が意識的になっている現状と結果的にマッチしていると感じた。  

 「片付けコンサルタント」のこんまり(近藤麻理恵)の番組がブームになったり、筋トレやダイエットといった健康に対する意識は年々高まっていたため、そういった背景をしっかりと押さえていたのが功を奏したのだろう。外を歩くメイがマスクを着用している場面もあり、緩い見せ方ではあるものの、コロナ禍に対応しようという意思も感じる。

■コロナ禍を意識した配信・深夜ドラマ

 地上波のドラマはまだまだこれからという感じだが、配信や深夜ドラマでは、コロナ禍を意識した作品がポツポツと出始めている。

 Paraviで先行配信され、テレビ東京でも放送された深夜ドラマ『love distance』は、あるマンションを舞台にした群像劇。コロナ禍にリモートワークで働く夫婦、男二人女一人で共同生活する動画配信者、カメラマンが登場する、人と人のディスタンス(距離)をテーマとした作品だが、マスク越しにキスしようと女の子が誘う場面があるのが面白く、この方向性を進めると、新しいドラマが作れるのではないかと思った。

 一方、朝日放送テレビ制作で、関東ではテレビ朝日系の土曜深夜に放送されているステイナイトミステリー『クレイジーレイン』は、コロナの影響で閉店したライブハウスで起きた殺人事件を捜査する刑事たちのドラマ。この設定を思いついたこと自体を、まずは評価したい。

 最後に途中からコロナ禍の日常を取り込んだことで、面白いことになっているのが『警視庁・捜査一課長2020』(テレビ朝日系)。内藤剛志が主演を務める人気シリーズだが、放送中断中には、登場人物が序盤にリモートで会話をするテレワーク版ミニドラマを追加した傑作選を放送し、再開後は、劇中の刑事が外で捜査する場面でマスクを着用するシーンが入るようになった。

 中でも注目は本田博太郎が演じる笹川健志警視庁刑事部長で、アベノマスクと呼ばれる小さなマスクをつけて登場するシーンがある。そのことに深い意味はないのだが、マスクをずらしたり伸ばしたりといった小芝居をしつこくおこなう笹川をみていると、コロナ禍の現状を、作り手がなんとか描こうとしているのがわかり好感が持てる。

 コロナ禍の現実をどう取り込むかというのは難しい問題だが、作り手には諦めずに格闘してほしいと思う。やり方はいくらでもあるはずだ。

(成馬零一)

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