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『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』はなぜ最高なのか アニメシリーズを支えてきた製作者たちの覚悟

リアルサウンド

19/6/29(土) 10:00

 アニメ『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』が佳境を迎えている。毎週、テレビの前で「ディ・モールト(非常に)良いぞッ!」と叫びたいのを我慢するほどに、驚きのクオリティで紡がれるギャングたちの熱いドラマ。『黄金の風』は、なぜこんなにも我々の心を掴んでは離さないのか。その背景と魅力を、原作とアニメの両面から振り返ってみたい。

●「ダーティーな主人公」の到達点・ジョルノ
 原作漫画『ジョジョの奇妙な冒険』という作品は、黄金の精神を有するジョースターの血統と、因縁を持つディオを始めとする漆黒の意志との戦いを描いた作品である。その宿敵ディオは、第1部の主人公であるジョナサン・ジョースターと同じ時代を生き、後年、DIOとしてジョナサンの肉体を乗っ取って復活。ジョースターの血を引く空条承太郎と、エジプトにおいて熾烈な戦いを繰り広げた。

 第5部である『黄金の風』は、そのDIOの息子こそが主人公を務めている。紛れもない宿敵の血族だが、同時に、「DIOがジョナサンの肉体を乗っ取った」ことが奇しくも「ジョースターの血も継いでいる」ことを意味している。ジョルノ・ジョバァーナという主人公は、同作が脈々と描いてきた対立する血脈、その双方を併せ持った稀有な存在なのである。まさに、作品構造そのものを象徴するキャラクターだ。

 同時にジョルノは、原作者・荒木飛呂彦が描いてきた「ダーティーな主人公」の到達点とも言える。第3部の主人公である空条承太郎や、続く第4部の東方仗助など、近作の主人公にはいずれも「不良」の属性が付与されていた。誇り高い貴族でも、根が熱い三枚目でもなく、ともすれば社会からつまはじきにされそうな、模範的でない男たち。しかしだからこそ、そこに秘めたる正義感や熱い思いが力強く光る、という造形である。

 ジョルノ・ジョバァーナは、もはや「不良」の域を超えた「ギャング」として登場。時には敵の命を奪うことも厭わず、情けや手心もなく、ただ一心に自らの夢のために拳を振るう。ダーティーながらも、覚悟と信念がギラギラに光る。「不良」とはまた違った、もはや「ダークヒーロー」寄りの魅力だ。

 作品構造を「ジョースターとDIOの血を同時に継ぐ」という形で象徴し、同時にそれが、DIOの影を感じさせる「ダーティーな魅力」として光る。これでもかと作り込まれた魅力的な主人公が、組織の仲間たちを次第に感化させ、真実へと向かわせる。後年の第6部がその時点でのジョジョの世界観を総括し閉じていく物語だったことを踏まえると、この第5部こそが、バラエティさを増していくジョジョワールドにおけるひとつの到達点だったと言えるのかもしれない。第4部までで用いられた多彩なアプローチ、そして、原作者が愛好するイタリアの情景や美術が盛り込まれた、ひとつの決定版としての第5部は、今なおファンの絶大な支持を獲得している。

●シリーズ構成を務める小林靖子の力
 2018年、そんな第5部がついにアニメ化を果たした。かねてからのキャラクター人気の高さや、加速度的に複雑さを増していくスタンド能力など、映像化のハードルは誰が見ても決して低くはない。しかし、熟練のスタッフ陣は、そのハードルを確固たる意志で毎話確実に乗り越えている。

 何より、シリーズ構成を務める小林靖子の尽力は大きい。小林はアニメ第1部からシリーズに携わっているが、シーズンを増すごとに、その構成力に磨きをかけている。第1部と第2部は、演出の斬新さとハッタリに任せる「スピード感」を重視した再構成に挑戦。続く第3部では対照的に、敵スタンドとの理詰めの戦いを濃厚に描くためか、前後編のスタイルを取り入れ、「じっくり」と歩を進めるスタイルを採用。かと思えば、第4部ではエピソードの順番を入れ替えたり、複数のエピソードを同時進行させたりするなど、起伏と緩急を意識した作りで視聴者を魅了した。

 放送中の第5部では、そんな様々なアプローチの集大成が見て取れる。例えば17~19話、敵スタンド「ベイビィ・フェイス」と「ホワイト・アルバム」の戦いを1.5話ずつの計3話で消化するなど、「スピード感」と「じっくり」の双方を同居させる荒業を披露している。放送区分におけるCパートも積極的に活用し、次回の導入部を前倒しにして尺を稼ぎつつ「引き」を設けるなど、細かな業に思わずため息が漏れる。

 巻く時は巻き、しかしじっくり見せる時は、滴る汗の音まで聞こえるように歩を緩める。まるで、原作読者がページをめくるスピードを巧妙にサンプリングしたかのように、絶妙な配分で物語を再構成しているのだ。

●音響と音楽も視聴者の心を掴む
 また、音の素晴らしさにも触れねばならないだろう。音響監督の岩浪美和は、こちらも第1部からの連続登板。かつて『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』でキャストのフリーダムな空気をまとめ上げた手腕は、原作の「スゴ味」を音にして表現する果てしない戦いにおいても、存分に活かされている。一見大仰な効果音も、ジョジョの世界観とはこの上なく親和性が高い。「ッ」の数まで原作と同じに指定するというこだわりも含め、確実に、画面を通して視聴者のハートをふるわせているのだ。

 加えて、第3部からの通算三期連続となる菅野祐悟の音楽である。緊張感と極彩色を併せ持つ菅野サウンドは、第5部の泥臭くも鮮やかな世界を見事に飾り立てる。中でも、メインテーマである「il vento d’oro」というナンバーは、重厚なギター・軽妙なコーラス・張り詰めたピアノのメロディ等で構成された、同作には欠かせない逸品に仕上がっている。視聴者はもはやパブロフの犬のように、この曲のイントロを耳にしただけで胸の鼓動が早まるのだ。数々の決戦に華を添えたことは、記憶に新しい。

●原作より“圧”を増したテンションの高さ
 このように、挙げていけばきりがないほどに、アニメ『黄金の風』にはスタッフ陣の熟練の業が詰め込まれている。2012年のアニメ第1部から、今年で早7年。ほぼ同じ座組みで制作され続けているからこその、精度の高さ。互いの呼吸を読み合うような、針に糸を通すように結実するクオリティは、キャラクターを演じるキャスト陣にも確実に伝播していることだろう。

 原作においては、画が芸術の域を極めたためかやや難解な性格すらあったが、アニメではそれが当然のようにカラーの映像に変換される。スタッフが穴が開くほどに原作コミックを読み込んだであろうことは想像に難くないが、その結果、スタンド能力の演出や意図がとても分かりやすく表現されている。しっかりと整理されているからこそ、とても飲み込みやすいのだ。

 しかしそれは、決して、原作の密度が下がったことを意味しているのではない。実際のイタリアロケの資料を元に描かれた情景や、キャスト陣の魂が込められた熱演、何より、演出と色彩のテンションの高さは、むしろ原作よりいくらか圧を増している。一介のジョジョファンとして、このような映像が毎週のように観られることに、ただただ敬意を表するのみである。

 原作者・荒木飛呂彦が込めた、その時点での、あらゆる「ジョジョ」の集大成。善と悪のふたつの要素を兼ね備えた主人公は、まるで旅行記のようにイタリアを駆け巡り、進むべき道を切り開く。アニメにおいても、長年シリーズに携わってきたスタッフが、これまた集大成かのように、その洗練された技巧を全力で注ぎ込む。

 津田尚克総監督のもと、作中のキャラクターたちも、スタッフらも、「正しいと信じる」やり方を邁進する。大事なのは「結果」そのものではなく、そこに「向かおうとする意志」。その熾烈な生き様や「良いアニメを作ろう」というベクトルに迷いが見られないからこそ、多くの視聴者の胸を打つのである。

 物語は、第3部からのゲストキャラクター・ポルナレフが登場し、彼のスタンドがレクイエムに到達。登場人物たちの魂が入れ替わり、キャストらの演技合戦も加熱。ますます、見どころだらけの展開を見せている。

 登場人物たちは、それが善であれ悪であれ、「正しい」と思ったことをやり抜こうとする。プライドにかけて、時に命に替えてでも。その真っすぐな姿は、漠然と日常生活を送る我々に気づきを与えてくれるような、そんな魅力に満ちているのだ。終わりのないのが「終わり」……などと言ってしまいたいところだが、確実にアニメ『黄金の風』は終わりに近付いている。我々にできるのは、その覚悟の交錯を、固唾を飲んで見守るのみである。(結騎了)

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