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太田和彦の 新・シネマ大吟醸

国立映画アーカイブの松竹映画100周年記念特集とラピュタ阿佐ヶ谷 特集「東宝戦争ウエスタン」から2本。

毎月連載

第26回

20/9/2(水)

特集「松竹第一主義 松竹映画の100年」のチラシ

『新東京行進曲』
国立映画アーカイブ 特集「松竹第一主義 松竹映画の100年」(7/7~9/6)で上映。

1953(昭和28年) 松竹 97分
監督:川島雄三 脚本:柳澤類寿
原作:入江徳郎/辻本芳雄/戸川幸夫(平凡連載)
撮影:長岡博之 音楽:木下忠司
出演:高橋貞二/三橋達也/大阪志郎/北上弥太郎/桂小金治/沼尾均/須賀不二男/日守新一/小林トシ子/淡路恵子/北原三枝/坂本武/望月優子/多々良純 

太田ひとこと:区立泰明小は、文学者・北村透谷、島崎藤村。劇作家・矢代静一。俳優・殿山泰司、加藤武、信欣三、朝丘雪路、和泉雅子、中山千夏などが卒業生の名門。

ネット記事、「新東京行進曲(1953年・川島雄三)佐藤利明(娯楽映画研究家)」の佐藤氏は他ならぬ泰明小学校の卒業生だそうで、氏による思いのこもる本作の評論をぜひお勧めします。

冒頭、セスナ機から当時(昭和28年)の安井都知事(本人出演)が東京を見下ろして言う。「東京は30年の間に大震災、空襲と二度も壊滅したが、今また復興しつつある」。空中撮影はやがて銀座の泰明小学校(昭和4年の震災復興校舎は空襲にも残った)をクローズアップする。

高橋貞二(新聞記者)、三橋達也(新聞社配送係)、大坂志郎(都電運転手)、北上弥太郎(都庁建築技師)、桂小金治(寿司屋)、沼尾均(プロボクサー)の六人は泰明小の同級生だ。

高橋と同僚の女性記者小林トシ子は意欲的で、ミス職場コンテストの取材よりもキャバレー奥の不法賭博場の取材を志願し、上司は高橋を護衛役につける。高橋がキャバレーで鼻の下をながくしている間にトシ子は果敢に潜入して写真を撮り、その記事は局長賞となる。

三橋は新聞社配送係に職を得て高橋と再会したが片目を失明していた。彼は弱かった同級生の沼尾を強くしようとボクシング部に誘い、その才能を見込んで特訓するが、目を強打されてこうなった。しかしプロになって世界戦をひかえる沼尾のために、このことは誰にも言うなと高橋に頼む。

大坂は堅実な都電運転手で、彼に恋するデパート嬢北原三枝がいつもその電車に乗ってくる。北上は都庁勤めの淡路恵子に結婚を申し込むが、まだはやいと返事をもらえない。ひょうきん者だった小金治だけが結婚し、もう尻に敷かれているが幸せそうだ。

久しぶりに集まろうと高橋・大坂・北上が小金治の寿司屋に来た。子供の時ここで小金治のお父さん(坂本武)から寿司をご馳走になり、はやっていた流行歌、♪昔なつかし銀座の柳 仇な年増を誰が知ろ~ と歌って、小金治の母(望月優子)に「仇な年増って誰のこと?」と聞くと、にっこり「あ・た・し・よ」と自分を指さした。「そんなことがあったなあ」と感慨にふける四人に望月は「でももう、しわだらけ」と笑い、一同も苦笑する。昔の仲間はいいものだ。

高橋は銀座で靴が壊れている淡路恵子を助けて都庁へ送り、やがてつき合うようになる。淡路は「新聞記者の仕事に自分は誇りを持っている」と言う姿に好意をもち、高橋の求婚を受けようと思い始める。

辣腕のトシ子は高橋から聞いた三橋の失明を、世界戦を前にしたボクサーのスキャンダル記事にしようとするが、高橋から「他人の傷をあばくのが新聞記者か」と言われ、原稿をちぎり捨てる。トシ子は、やや頼りないが、芯に正直なものがある高橋に好意をもっているようだ。

警視庁の日守新一は熱心な高橋を気に入り、自慢の娘の北原三枝に引き合わせようとする。その席で大規模汚職の逮捕を教えられるが「もっと上層部を捜査中のため」と今は記事にしないと約束する。しかし他社にすっぱ抜かれ辞表を用意した高橋に、トシ子は「こんなことで引っ込んじゃいけないわ、もっと大きな仕事を」と激励される。

二人はトシ子が内偵していた家を訪ね、ガス自殺をはかっている男を救出すると、なんと小学校の担任恩師・須賀不二男だった。須賀は内縁の妻がダンサーという理由で学校を辞めさせられ、汚職の片棒をさせられていた。辞める前の須賀先生の言葉「(たとえダンサーでも)自分の仕事に誇りをもて」は高橋にやきついており、みんなで銀座行進曲も歌ったのだった。須賀の証言はトップスクープとなり、汚職の全貌があばかれ、二人はまたしても局長賞をとる。

後楽園球場のミス職場コンテストで北原三枝は優勝。父は高橋に「娘に恋人がいるとは知らなかった」と頭をかき、隣りで本人・大坂も笑う。世界チャンピオンとなった沼尾は三橋と再会して抱き合う。小金治は今日も夫婦連れだ。同級生はみな幸せになった。スタンド二階席に淡路が来ているのを見た高橋は好返事を期待して行くが、自分は須賀の娘と告白され、「あなたとの結婚を考えていました。でもそれはこの事件を忘れられなくしてしまうでしょう」と言われ、了承するしかなかった。去られてひとり座り込む高橋に、トシ子が遠慮がちに歩み寄った。

なんといい話だろう。友情を続ける小学校の同級仲間。誰一人悪人がいない気持ちよさ。淡路はきっと真面目な北上の求婚を受け入れるだろう。

今ひとつ役どころのはっきりしない俳優と感じていた高橋貞二がぴったりの役を得て、それを見る淡路恵子も、大坂に岡惚れの北原三枝もまだ垢抜けなく、そこがいい。川島作品初出演の三橋は容貌体格を生かした儲け役で、ここから三橋の川島傾倒が始まった。学童に誠心であたる須賀不二男はその後の屈折がぴたり。「もうしわくちゃ」と笑う望月優子、受けて苦笑の大坂志郎の雰囲気のよさ。桂小金治はいつも寿司屋職人。

嬉しいのは、一途なものを持つが美人顔ではないゆえヒロインの引き立て役ばかりの小林トシ子が生き生きとすばらしいこと。これほど気持ちのよい小林は見たことがない。脇の俳優を熱心にさせる川島の愛情と手腕。子供の高橋が日比谷公会堂の音楽会で、学校から去った須賀先生夫妻を見かけ、連れた娘(後の淡路)と何となく顔を見つめ合ったエピソードを挿入する優しさ。

そうして主役は銀座という町だ。私が銀座資生堂に勤めていたころ「宣伝部の台所」といわれた居酒屋「樽平」のある金春小路は銀座映画にしばしば登場するがこれが最初だろう。私の好きな新聞記者ものなのもうれしい。当時銀座には朝日、毎日、読売の本社があり、ここでは毎日新聞社がロケ協力している。

これぞ、現実を多彩に取り入れて人物の哀歓を描く風俗映画。銀座を舞台にすれば右に出る者のない監督が川島だ。年齢のせいか、簡単に人を殺したり、女を犯したりする映画は嫌になった。軽快で心温まり、悪人はいない。これほど良い映画はない。

坪島孝の手際あざやかー東宝西部劇的戦争アクションの傑作!

特集「GO!GO!GO! 東宝戦争ウエスタン 愚連隊大作戦」のチラシ

『蟻地獄作戦』
ラピュタ阿佐ヶ谷 特集「GO!GO!GO! 東宝戦争ウエスタン 愚連隊大作戦」(6/21~8/15)で上映。

1964(昭和39年) 東宝 101分
監督:坪島孝 脚本:関沢新一/小川英
撮影:小泉福造 音楽:広瀬健次郎
美術:植田寛
出演:仲代達矢/佐藤允/夏木陽介/中丸忠雄/平田昭彦/堺左千夫/柳谷寛/水野久美/中川ゆき/田崎潤/沢村いき雄/谷啓/遠藤辰雄/三橋達也

太田ひとこと:俳優座同期の仲代と佐藤の初めての本格的共演というのもうれしく、冒頭、じろりと見る仲代、にやにや見返す佐藤は、互いに心が通じているようでとてもいい。

大戦末期の北支最前線に回されてきた一匹狼の中尉・仲代達矢は、八路軍を絶つ峡谷の橋爆破を命じられ、特命隊員に佐藤允、中丸忠雄、平田昭彦、夏木陽介、道案内・堺左千夫を与えられる。まじめな新兵・夏木以外の三人はいずれも札付きのごろつき兵、道案内も役立ちそうにない。上官・田崎潤は敗戦を見越して金品を貯めこみ、その片棒・中丸も、問題兵たちも、成功見込みのない命令で一掃しようとした。

仲代もふくめた六人はそんなことは百も承知。いつでも逃げてやる、隊長のお手並み拝見と斜に見る連中に、仲代は「お前らはクズだ、クズなりに仕事をしろ」と気合を入れる。しかし案の定、向かう途中で佐藤は「こんな命令、お断りだぜ」とにやにや顔で銃を向け、フフンという顔の仲代に発砲するが、渡されていた銃は仲代が前もって弾丸を抜いておいた空砲だった。

一夜入った集落は罠で、深夜に大ゲリラ隊に包囲襲撃され、ごろつき兵は腕を発揮して鎮圧。いつしか自分を守る戦いにもなってゆき、一方それぞれの怪しさも浮かんでくる。

危険、対立、裏切り、意外な援軍、あれこれあってようやく峡谷をまたぐ大橋にたどりつき、橋桁に爆薬を仕掛けるまできたが、肝心の雷管がなくなっていた。

冒頭の長いアバンタイトルで、着任した仲代から六人全員を一人ひとり紹介し、いつもは敵側の頭脳派知恵者の中丸忠雄、平田昭彦がこちらに(一応)仲間として加わるのが新鮮で、こいつは面白くなるぞとわくわくさせる。

不可能な特命を言われた六人が敵中に潜入し、対立したり、怪我人が出たり、スパイがいたりしながら、目的に向かう戦争アクションは、1961年に公開された傑作『ナバロンの要塞』(J・リー・トンプソン監督)を思わせる。

夜の洞窟に疲れた全員が座り、誰かが話すのを聞く仲代、中丸、平田らが、微妙にちがう表情リアクションをとるのが、横長シネマスコープ画面で同時に演じられて見どころだ。『ナバロン』でも、決行直前に爆薬雷管が抜かれているのがわかり、スパイ嫌疑に発展、隊長グレゴリー・ペックは非情な決断を迫られる。

獲物を狙うようなズーム、疾駆する騎馬群を追う高速移動、ときにじっくりと腰を据えて人物の怪しさをみるカメラワーク、派手な爆破。感心したのはセット美術のすばらしさ。一夜こもった荒れ寺は林立する仏像や仁王に蜘蛛の巣がからみ、下ライトで不気味に浮かんで、後の武侠映画の傑作『侠女』(キン・フー監督、1971年)を思わせる。

傷を負って担架で運ばれるお荷物のくせに憎々しい口をきく中丸忠雄は最後の最後に「死に花を咲かせろ」と危険をかってでる。平田は平田なりに祖国に殉じた。荒っぽい男たちに欠かせない一輪の花も水野久美だから言うことなし(死なせないでほしかった)。せっかくの三橋達也は顔を出すだけでちょっと勿体なかった。

岡本喜八が創始した西部劇的戦争アクションは、製作順に『独立愚連隊』『独立愚連隊西へ』『どぶ鼠作戦』『やま猫作戦』『独立機関銃隊未だ射撃中』『のら犬作戦』『蟻地獄作戦』『血と砂』の八作。私はすべて観て、はじめの三作がベスト。一本なら『西へ』。その三作に次ぐのがこの『蟻地獄作戦』だ。それまでに役者に与えた個性の応用展開、大規模なセットとロケーション、展開するスリルとアクション。シリーズの遺産を巧みに仕上げた坪島孝の手際あざやか。こういう純娯楽作品の仲代は最高だ。

プロフィール

太田 和彦(おおた・かずひこ)

1946年北京生まれ。作家、グラフィックデザイナー、居酒屋探訪家。大学卒業後、資生堂のアートディレクターに。その後独立し、「アマゾンデザイン」を設立。資生堂在籍時より居酒屋巡りに目覚め、居酒屋関連の著書を多数手掛ける。



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