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sora tob sakanaの解散を惜しむーーアイドルとしての特異性、メンバーに寄り添い進化を続けたクリエイティブ

リアルサウンド

20/7/7(火) 12:00

 5月22日、アイドルグループ・sora tob sakana(略称はオサカナ)が、9月6日に日本青年館で開催されるワンマンライブをもって解散することを発表した。公式サイトには、その理由について「昨年末よりメンバーそれぞれと今後のsora tob sakanaのあり方について話し合いを重ねて参りました。その結果、グループとしての活動を終了しそれぞれが新たな道を歩んで行くという結論を出すこととなりました」と掲載されている。

 解散まで残り2カ月となったオサカナの、アイドルとしての特異性について、今一度考えてみたい。

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■難解なポストロックと、少女期の只中にいるメンバーとの化学反応

 sora tob sakanaは、2014年7月にFlying Penguin Records(Zi:zoo)とテアトルアカデミーによる「ふらっぺidolぷろじぇくと」の第2弾ユニットとして結成されたグループ。ポストロック、エレクトロニカを基調とした音楽性が特徴で、音楽プロデュースは2015年から照井順政(ハイスイノナサ、siraph)が手掛け、ほぼ全ての楽曲を提供している。照井擁するバンド・ハイスイノナサは、ポストロックのアーティストが多数集う<残響レコード>に所属している。残響レコードは、te’のギタリストである河野章宏が代表をつとめ、かつて9mm Parabellum Bulletや雨のパレードも所属していたことがあり、音楽ファンには知られた存在のインディーズレーベルだ。Zi:zooにこの残響レコードのファンがいたことが、照井がオサカナに関わるきっかけになったという。

 オサカナ楽曲では歌詞において、少年少女の抱える葛藤や後悔についてノスタルジックに描かれることが多く、照井は過去の当連載のインタビューの中で、「(少年期やジュブナイル的なものが)すごい好きなんです。そこを描いたら絶対負けないぞ、という思いがあったんです」と語っている。そうした歌詞世界と、先鋭化されたサウンドが融合した楽曲を、実際に少女期や青春期の只中にいるメンバーが歌うことの化学反応が、オサカナの大きな魅力だった。

 先鋭化されたサウンドと書いたが、曲自体は実に聴きやすく、見事にポップスとして昇華されている。耳の早い音楽好きからはいち早く評価され、ファン投票によりその年のアイドルの人気曲を決める「アイドル楽曲大賞2016」のアルバム部門で1stアルバム『sora tob sakana』が1位を獲得。その後グループは成長を続け、2018年5月にはワーナーブラザースジャパンからミニアルバム『alight ep』をリリース、メジャーデビューを果たした。さらに同年7月には1stシングル『New Stranger』をリリース。同曲はテレビアニメ『ハイスコアガール』のオープニングテーマとなり、アイドルファンだけでなく、アニメファン層への認知度も向上させた。楽曲はこれまでの音楽性を踏まえつつ、アニメのテーマに沿ってゲームミュージックやチップチューン的な要素が加味され、オサカナの新境地といえる仕上がりとなった。

■メンバーの成長に合わせて進化を続けたクリエイティブ

 オサカナと並行して、音楽プロデューサーの照井自身も仕事の幅を広げていった。自身のバンド活動だけでなく、私立恵比寿中学、YURiKA(テレビアニメ『宝石の国』の主題歌として)、鈴木みのりなどに楽曲を提供。さらに今年10月から放送開始される、『週刊少年ジャンプ』の人気連載作品「呪術廻戦」のテレビアニメの劇伴への参加も発表されている。

 楽曲が高い評価を受け、2018年には東京国際フォーラムホールCでのワンマンライブも成功させたオサカナ。結成時は13歳だった、現在最年長の寺口夏花も、来月で20歳になる。楽曲においても、メンバーの成長(加齢という意味だけでなく、精神的、パフォーマンスという面においても)とともに、ジュブナイルというテーマだけにこだわることなく、初恋について、あるいは思春期の少し先から見た世界について歌ったりと、等身大の姿に寄り添う形でアップデートを繰り返して来た。照井は解散発表に際し、以下のようなメッセージを残している。

「出会った頃の彼女達は、幼い頃から芸能界で活動しているとは思えないほど(していたからなのかもしれませんが)大人に媚びることはせず、安易に触れることを許さない聖域の様な精神の場所を持っているように感じました。

芸能界、アイドルといったものに全く関心がなかった僕がここまで真剣に取り組んでこられたのは、そんな彼女達の気高さへの憧れ、それに少しでも近づきたいという気持ちがあったからだと思います。

長い活動の中で他者への想像力を培った彼女達が、誰にも触れさせなかった聖域をしなやかに解放していく様を感動しながら、少し寂しいような、少し自慢したいような気持ちで見ています」(sora tob sakana オフィシャルサイトより)

 スタッフやクリエイターの単なる押し付けでなく、時間経過にともなうメンバーの変化を見逃さず、それを取り入れた上で進化を続けて来たオサカナ。アイドルとして唯一無二の世界観と、アイドルの中でも突出して高いクオリティのコンテンツを作り続けて来たこのグループが、解散してしまうのは実に惜しい。20代を迎えるメンバーがどのような楽曲を歌い、パフォーマンスするのか、その未来を見たかったと思う。

 解散までわずか残り2カ月。8月5日には、ベストアルバム的な内容ながら新曲2曲が収録されるラストアルバム『deep blue』が発売される。また、福岡、大阪、名古屋、東京を巡るラストワンマンライブツアーがすでに始まっている。コロナ禍の続く中でありながら、歩みを止めず進み続けるオサカナの姿を、最後まで見届けたい。(岡島紳士)

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