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The Wisely Brothers 真舘晴子の映画新連載スタート! 第1回は『希望のかなた』

リアルサウンド

18/4/3(火) 10:00

 都内高校の軽音楽部にて結成されたバンド、The Wisely Brothers。2月21日にメジャーデビュー作となる1stフルアルバム『YAK』をリリースし、現在リリースツアー『YAK YAK TOUR』を行っている彼女たちだが、Gt./Vo.の真舘晴子は映画館でのアルバイト経験もあり、大の映画好きとしても知られている。

 リアルサウンド映画部では、そんな彼女が最近観たお気に入りの映画を紹介する連載「映画のカーテン」をスタート。記念すべき第1回は、フィンランドの名匠アキ・カウリスマキの最新作『希望のかなた』をピックアップした。初めて体験したという“カウリスマキ・ワールド”に、どのような感想を抱いたのだろうか。(編集部)

参考:菊地成孔の『シェイプ・オヴ・ウォーター』評:ヴァリネラビリティを反転し、萌えを普遍的な愛に昇華した、見事なまでの「オタクのレコンキスタ」は、本当にそれでいいのか?

 私が映画をよく観るようになったきっかけは、フランス語の授業があった高校を受験するときに、推薦の面接のために映画をたくさん観ようと思ったこと。特に何も考えずに、フランス語の映画じゃなくても、とりあえず家にあるDVDや気になった作品をたくさん観ようと思った時期があったんですね(笑)。大学では映画の授業もあったので、いろんな作品を観ていくうちに、いつの間にか映画が好きになっていました。より映画の近くで働いてみたいと思って大学生の頃からは映画館でアルバイトをしていました。

 今回ピックアップしたのは、アキ・カウリスマキ監督の『希望のかなた』。監督の名前は知っていたのですが、作品自体はこれまで一度も観たことがなかったんです。恥ずかしいことに、アキ・カウリスマキという名前のイメージから、最初はずっと女性の監督だと思っていたぐらいで(笑)。

 『希望のかなた』を観ることになったのは、友達に誘われたのがきっかけでした。もともとはお茶をするつもりでいたのですが、その友達と別の友達が映画を観る予定があったらしく、私もそこに参加することになったんです。普段は友達と映画を観に行くことなんてほとんどないので、二つ返事で一緒に観ることになりました。

 それで昨年の12月に初めてカウリスマキ作品を体験をして、ものすごく好きになりました。こういう作品を作る人がこれまでにどんな作品を作っていたのかが気になって、観終わってからすぐに過去作品の『マッチ工場の少女』と『過去のない男』と『ル・アーヴルの靴みがき』のDVDを借りに行ったぐらいです。それらの作品は『希望のかなた』とまた違った味わい深さがあったし、そこから『希望のかなた』に至る道のりも感じることができて、さらに素敵だなと思いました。

 この作品の主人公は、シリアからフィンランドのヘルシンキに辿り着いたカーリドという青年です。カーリドは生き別れた妹を探すのですが、その中で、人生をやり直そうとしていたレストランオーナーのヴィクストロムと出会います。ヘルシンキで差別や暴力に遭うカーリドに対し、ヴィクストロムは優しく手を差し伸べ、自身のレストランへカーリドを雇い入れます。本作ではそんな2人の関係性が描かれていきます。

 この作品で最初に心を掴まれたのは、壁や地面、机といった小道具の色使いに顕著な美術のセンス。それがまさに自分の好みだったんです。澄んだ青や赤ではなく、全体的にちょっと濁った色なんですけれど、その色遣いがすごくポップでした。

 映画を観ながら感じたのは、カウリスマキ監督がより“絵”としてカットを考えているんだろうなということ。セリフや説明描写が少ない分、最初は視覚で感じるイメージが強烈でした。目に入ってくるものの主張がものすごく強くて、物語において重要な役割を担っている気がして。小道具に関しても、例えば掃除機なんかでも、この掃除機じゃないといけないというような必然性を感じました。パンフレットを見ると、セット・デコレーターとして1人、セット・デコレーションとして2人の方が参加されているようだったので、彼らと監督がどのようにしてセットを作り上げているのかも、ものすごく気になってしまいました。

 キャストの皆さんの“間”も良かったですね。映画を観終わった後に、この人たちは“演技をしない風”に演技をしているのではないかとも思えました。演技がとても統一された自然さなんですよね。それがフィンランドの人たちの雰囲気なのかもしれませんが、映画を観ている中で物語がどんどん進んでいくのではなくて、自分と映画が並行して進んでいくような感覚がありました。自分の気持ちを考える時間が生まれるような、その空気感も私はすごく好きでした。

 現地の音楽だったり、また全然違うジャンルの音楽だったり、劇中で使用されている音楽もとても素敵でした。音自体が物語に寄り添っている部分がある。特に「この国」という歌が私は大好きで。歌詞は「湖のそばに 畑と粗末な小屋が一軒」というような状況を説明している歌い出しですが、そのシンプルな中に土地をおもう何か暖かさがある気がしました。YouTubeとかでも検索してみたり、今でもよく聴いている楽曲です。あとは日本の歌も使われていましたね。どうやって見つけてきたんだろうと思いましたが、寿司のシーンも含めて監督の日本への愛を感じることができました。

 特にクライマックスがこの映画の中で最も好きなシーンでした。こういう結末にたどり着くのかという驚きがあったんです。難民・移民問題という地球規模の大きな問題がある中で、私たちがどうやってその問題をより身近に考えることができるかということが、この映画の核にある気がします。主人公のカーリド自身もシリアの難民ではありますが、その周りの人たちの日常的で隔たりのない助けや優しさなど、小さなことがどんどん積み重なっていくことによって、改めて難民・移民問題だけでなく周りの存在との関わりかたを考えることができる。私たちは直接的に今すぐ何かができるわけではないけれど、困っている人に手を差し伸べたり話を聞いてあげたりすることで、もしかしたらこの作品のようにつながっていくかもしれない。そう考えると、ものすごく未来のある映画だなと思いました。

 あと、これは余談ですが、カーリドの妹のミリアムの表情がとても好きで。カーリドとミリアムがついに再会を果たしたときのミリアムは、全然うれしそうではないんですよね。でもそれも、内戦によって全てを失ったことの現状を表していて、胸にくるものがありました。ミリアムにとって、お兄ちゃんに会えたことはもちろんすごく嬉しくて温かいことだけど、いま起こってることに対して、すぐに喜んだり悲しんだりできない状況だという緊迫感が伝わってきたんです。このミリアムの演技がそのような現状を物語っている気がしました。

 映画って、登場人物たちの気持ちになることもできるし、その人の気持ちを客観的に見ることもできる。舞台となった場所にも行ったような気分になれるし、それが自分自身の経験にもなっているような気がするんです。自分たちの楽曲を作る上でも間違いなく影響が大きいですし、今回この作品と出会えたように、これからも映画との出会いを大切にしていきたいですね。(真舘晴子)

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