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『HUMAN LOST 人間失格』冲方丁、SFと文学の親和性語る 「必然的にテクノロジーに向き合わなければ」

リアルサウンド

19/11/19(火) 12:00

 11月29日公開のアニメーション映画『HUMAN LOST 人間失格』の業界人トーク付き先行試写会が11月18日に都内で開催され、アニメジャーナリスト・藤津亮太司会進行のもと、ストーリー原案・脚本を手がけた冲方丁、SFマガジン編集長の塩澤快浩が登壇した。

【写真】『HUMAN LOST 人間失格』ポスター画像

 本作は、太宰治の『人間失格』を屈指のクリエイター陣が再構築したオリジナルアニメーション映画。医療革命により死を克服した昭和111年の東京を舞台に、体内のナノマシンをネットワーク管理する究極の社会システム“S.H.E.L.L.”(シェル)体制によって生かされる人々を描く。文明の再生と崩壊の二つの可能性の間で大きく揺れ動く日本で、薬物に溺れ怠惰な暮らしを送る大庭葉蔵は、謎の男・堀木正雄とともに、特権階級の住まう環状7号線内(インサイド)への突貫に参加し、激しい闘争に巻き込まれる。

 トークイベントでは、冲方がどのようにして太宰治の『人間失格』を再構築していったのかについてトークを展開。冲方は「文学は個人の物語であって、人間という規範から失格する個人を描く。だったら、人間全部を失格させちゃえばいいと思った」と『人間失格』というタイトルの再解釈から本作のストーリーの考案がスタートしたと説明した。

 塩澤はこの発想に対し、「原作は、連載中に著者が心中するというこれ以上の個人の小説はないという印象。それを人類にという発想がすごすぎる」とコメント。冲方は「社会的にこれが正しい、素晴らしい、新しい、これからの時代はこれだ、と言われればそれを全部吸収してどんどん自我がなくなっていく。よりよく生きようとしているだけなのに、どんどん泥沼にはまっていく。これは、大量の情報の洪水に浴びせられる毎日を送る、我々そのもの。非常に現代的な人物像として捉えることができた」と振り返っていた。

 藤津は「葉藏、堀木、美子の3人がいることは、3つの未来の選択があることを意味している。それが人類の未来全体の話になっている」と分析。冲方は「3人をある種、救世主にして、ちょっとおかしな三角関係にした。善と悪、崩壊と再生という中で、葉藏を取り合う話になっている。ありとあらゆる諸問題においては解決がないという現代の中で、解決が見いだせるのではないかという希望を提供している」とコメント。塩澤の「堀木が過去で、美子が未来、現代が葉藏という捉え方もできる」という発言に、冲方が「それにしても葉藏は行ったり来たりしすぎ(笑)」とツッコミを入れる場面もあった。

 また、「SFを決定づけている要素とは?」との質問に、冲方は「今、文学を書こうとすれば、必然的にテクノロジーに向き合わなければならない。テクノロジーを抜きにした文学は、今の時代では成り立たない」と回答。塩澤が「現実(リアル)と虚構(フィクション)を等価に描けるところがSFの強み。『HUMAN LOST 人間失格』はそこに真正面からぶつかっている点にびっくりした」とコメントすると、冲方は「リアルな要素は惜しみなくぶち込もうと思った。普通のアニメーションなら現実から一歩離れたところで娯楽を楽しみたいから、リアルはオミットされるもの。わざわざ年金とか社会保障は使わない。でも、そういうものがあったとしてもそれを超える高揚感を抱いてほしいという気持ちがあった」と意図を解説した。

 藤津が「冒頭の『恥の多い生涯を送ってきました』のセリフと刀を刺すシーンは変身ギミック。すごくインパクトがあった」とコメントすると、冲方は「欧米のヒーローは、衣装チェンジをする。日本のヒーローはと考えたら仮面ライダーやウルトラマンのような変身だなと。冒頭で主人公がいきなり東京タワーの上で割腹したら、頭のおかしい映画だと世界中に認めてもらえると思った」と笑いを誘う。続けて「これって、三島(由紀夫)じゃないか、とも思ったけど、ジャパニーズ・リタラチャー・エンタメとしては、いっそのこといろいろなものを突っ込んでいけ!と。なんだったら、谷崎(潤一郎)のフェティシズムもってね。太宰を入り口にして、日本文学のありとあらゆるものをSF化して、成功したら次は『金閣寺』を題材にしようって(笑)」と微笑みながら展望を語った。

 最後に冲方は「4年がかりで作り上げた僕たちでさえ、この作品がどんなものになったのかよく分かっていません。ですが、思いっきり振り切った作品にしました。皆さんがこの作品をどう心に残すのか、それによってこの作品の位置が決まる気がします。皆さんでこの作品、そのジャンルを誕生させてください」と呼びかけた。

※大庭葉藏のぞうは旧字体が正式表記。
※木崎文智の「崎」は「たつさき」が正式表記。

(リアルサウンド編集部)

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