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名匠ロブ・ライナー監督が“ずっと描きたかった”新作映画を語る

ぴあ

19/3/29(金) 7:00

『記者たち…』のロブ・ライナー監督 (C)2017 SHOCK AND AWE PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『スタンド・バイ・ミー』や『恋人たちの予感』『最高の人生の見つけ方』など数々の人気作を手がけてきたロブ・ライナー監督の新作映画『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』が本日から公開になる。本作は、2002年のアメリカのイラク侵攻の真実を追う記者たちの姿を実話を基に描いた作品で、ライナー監督は「当時からこの題材を映画化したいと思い続けてきました」と語る。

2002年、当時の米大統領だったジョージ・W・ブッシュは“イラクが大量破壊兵器を保有している”と糾弾し、翌年にイラクに侵攻。その作戦は“Shock and Awe(衝撃と畏怖)”と名付けられた。当時のアメリカ国民やメディアの多くはこの決断を支持したが、31の新聞を傘下に持つナイト・リッダーのワシントン支局のメンバーは、ブッシュ政権の動きに疑いを持つ。この決定は本当に正しいのか? 彼らは真実を求めて動き出す。

2003年のアメリカはもちろん“賛成一色”ではなかった。ライナー監督は「アメリカだけでなく世界の各地でイラク侵攻に対する抗議行動が起きていましたし、私もパレードに参加しました」と振り返る。「アメリカがイラクに侵攻する際に私を含む多くのアメリカ人は“これはウソを根拠にした間違った行動”だとわかっていました。例えるなら、自分の子どもが通りに飛び出して自動車とぶつかるとわかっていながら、自分は何もできないような心境でした。私はいつも“何でこんなことになってしまったんだ?”と思っていました。ベトナム戦争とイラク戦争の2度、私たちは間違った外交政策によって戦争に突入してしまったわけです。だから当時からこの題材を映画化したいと思い続けてきました」

転機が訪れたのはその数年後だった。「ジョンソン大統領の下でホワイトハウス報道官だったビル・モイヤーズが手がけたドキュメンタリーを観て、この映画の主役になっている記者の存在を知ったのです。私は当時からイラク侵攻については調べていたわけですが、この記者たちの存在はまったく知らなかった。彼らは大手メディアが何も報じていない状況で、イラクに大量破壊兵器が存在しないことを報じようと活動していた。これは私が語りたい作品の入り口になると思いました」

映画ではライナー監督自身が演じたワシントン支局長を筆頭に、現場の記者たちが情報を集め、取材体制を強化しながら真実を求めて行動を続ける。その際、重要になるのは身の危険をおかしても真実を語ろうとする内部告発者の存在だ。「この映画に出てくる内部告発者はすべて実在の人物を基に描いています。どんな時代にも内部告発者は存在してきました。ベトナム戦争の時にはダニエル・エルズバーグ(ベトナムへの政策決定に関する秘密文書“ペンタゴン・ペーパーズ”を暴露した人物)がいましたし、最近ではエドワード・スノーデン(アメリカ国家安全保障局が国際的監視網を敷いていたことを告発した。現在はロシアに滞在中)もいました。彼らは社会の“安全弁”であろうとした人々で、彼らの存在なくしては我々が知りえない事実もありました。ナイト・リッダーの記者たちも彼らの存在なくしては真実にたどり着けなかったでしょう」

ところが、記者たちが必死に活動し、内部告発者が危険覚悟で真実を明かしても、大手メディアも読者も“真実”を見ようとはしない。「当時のアメリカ人は、アメリカ同時多発テロのトラウマを抱えている段階で、状況がよく見えていなかったのだと思います。しかし、ブッシュ政権は“911”が起こる前からイラク侵攻を考えていたわけで、アメリカ国民のトラウマを利用して侵攻に踏み切ったといえます。よく考えてみれば、すべての独裁国家はこのやり方を使います。ウソのストーリーを押し付けて、恐怖心を煽るわけです。人々が一度抱いた恐怖心を乗り越えるのはそう簡単なことではないですから。だからこそ、私は一歩下がって状況を見極めることが大事だと思うのです。もちろん、これは難しいことです。しかし民主主義は、市民がいま自分たちに何が起こっているのかを知る努力が必要ですし、そのためには真実を知る手立てがないといけません」

映画はどんな苦境に陥っても、周囲から圧力をかけられても“真実”を求めて戦う記者たちのドラマが描かれる。と同時にライナー監督は、これまで作品同様、劇中の人物を立体的に描くことに力を注いでいる。ここで扱われる題材はシリアスなものだが、記者たちにも私生活はあり、ミスする瞬間があり、仲間との友情や微笑ましい瞬間がある。観客はイラク戦争の真実を知るのと同時に、劇中の記者たちを好きになるだろう。「そう言ってもらえるのはありがたいです。私はそう思ってもらえるためにはふたつのことが重要だと考えています。ひとつは、立体的なキャラクターを脚本に書き込むこと。そしてもうひとつは撮影現場の空気感です。監督として俳優たちが様々な表情や側面を出せる快適な空間を用意できるかが重要になります。うまくいけば脚本以上にキャラクターの生きざまを描くことができるわけです。私はいつも過去を振り返ると、撮影している現場の“空気感”を思い出すんですよ。だから、現場をどんな状態にするかが大事なんでしょうね」

本作は単に“歴史上の真実”を描くだけでなく、真実を追う人々の想いや苦しみ、迷い、そして日常の中にある小さな喜びさえも描き出す。本作は観客を魅了し続ける人物描写で定評のあるライナー監督だから描けた作品になっている。

『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』
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