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布袋寅泰 GUITARHYTHMという人生

ソロワークの幕開けを告げる作品であり、キャリアの 源泉と言うべき衝撃作『GUITARHYTHM』 後編

毎週連載

第8回

19/7/8(月)

全国ツアー「HOTEI Live In Japan 2019 ~GUITARHYTHM VI TOUR~」を展開中の布袋寅泰。今回のライブの基軸をなすのは最新作『GUITARHYTHM Ⅵ』だ。その世界観をより深く理解するために、布袋のソロワークのスタート地点であり、昭和から平成へと移る時代の節目に、鮮烈なコンセプトと強靭なオリジナリティをたたえて放たれた“所信表明”でもある『GUITARHYTHM』を2回に分けて振りかえってみたい。

─── 『GUITARHYTHM』には、布袋さんによるフィルターを通じて、オールドスタイルのロックンロールをテクノロジーを用いて再構築しようとするコンセプトがあったのですか。

布袋 ギターという楽器はエモーショナルでフィジカルな、いわばオーセンティックな楽器だし、ロックを象徴するサウンドでしょ? でもビートルズもストーンズも最初は誰も聴いたことのない音楽だったわけで。ロックは進化しながら、普遍的でなければいけない。それはギターをはじめたころから意識していたことだし、今も変わりません。BOØWY のメガヒット(なんせ、ライブアルバムが100万枚売れましたからね!)の後に、まったく違うスタイルの音楽で勝負に出たことに対しては、当時賛否両論ありましたけど、今振り返ると、26歳の自分のチャレンジ精神を誇らしく思います。あのとき、BOØWY と同じサウンドを作ることは可能だったけど、あえてイバラの道を選んだからこそ今があると思っています。

─── 『GUITARHYTHM』のカバーアートでは、写真と絵画がフュージョンした現代アート的な世界観を表現されていましたが、カバーペインティングにアーティストの宇野亜喜良さんを起用された理由を聞かせてください。

布袋 ロックンロールとポップアートは常に密接な関係にあります。かつて(アンディ・)ウォーホルがヴェルヴェット・アンダーグラウンドを手がけたように、日本のポップアートのアーティストにジャケットを委ねたいと考えました。そこで、BOØWY時代からのアートディレクター、永石勝さんからの紹介で宇野さんに依頼しました。彼は立花ハジメさんとも仲がよく、“音楽とアート”について当時は熱く語り合ったものです。

─── 英語詞には、フォトグラファーのハービー山口さんが参加されています。どんなきっかけから依頼したのですか。作詞にあたってどんなやりとりがありましたか。

布袋 ハービーは、ロンドンパンク〜ニューロマンティックス全盛期に英国に暮らし、ミュージシャンのハートをカメラマンとしてファインダー越しにとらえ続けた人。BOØWY の後期も知っているし、僕が洋楽志向、そしてアート志向だということをよく理解してくれている。英語の詞でワールドワイドリリースを狙っていたので、彼の参加はとても助かりました。彼のほかにも、アラン・パーソンズ・プロジェクトのレニー・ザカテクなどたくさんの人から歌詞のディテールや英語の歌唱においてアドバイスをもらったよ。しかし、初のソロアルバムで慣れない英語でのレコーディングはつらかったな。ピッチがいいと発音がダメ、その逆もあり……。終わりのない作業のようでかなり消耗したのを覚えています。もう一度、全曲歌い直したいくらいだよ。BOØWY のころも英語詞はなかばデタラメ英語だから、全部書き直したい、と思っているのは僕だけじゃないはずだよ。 

─── 悪夢を描いた「WIND BLOWS INSIDE OF EYES」は、ドイツ語のポエトリーリーディングを取り入れたオペラ風なアバンギャルドかつシアトリカルなナンバーとなっています。なぜこういった構想に?

布袋 ファンタジーを描くとき、光ある世界だけでは本質を描ききれない。やはり人間の心の奥に棲むダークな部分も晒しださないとね。僕の作品に天使と悪魔の物語が多いのは、両極から浮き立つ本質を突きたいから。あのころは、芸能山城組(インドネシア バリ島のケチャをはじめ、世界の民族音楽を題材にした作品を発表している日本のアーティスト集団。1974年結成)とか聴いてましたからね。映画『コヤニスカッツィ』(1982年)のフィリップ・グラスの音楽とか大好きでした。

─── 『GUITARHYTHM』は、当時ビデオ作品として全曲映像化されたことも“事件”だったと思います。それも曲それぞれに、アニメーション、クレイアニメ、360度撮影、メガネ封入による3D映像などなど、今でも考えられないこだわりのクリエイティビティ。どんな思いで制作されましたか。

布袋 確かにクレイジーでしたね!そんなことやってる人いませんでしたから。当時僕の周りにはアート、映像の関係者、カメラマンや画家などクリエイティブな仲間がたくさんいました。夜な夜な誰かのアトリエに集っては芸術談義を交わしていて。そんななか、みんなで『GUTARHYTHM』を聴きながら「僕だったらこんな映像を作りたい」「いや、僕ならこうする」などとそれぞれのクリエイターが突飛なアイデアを出しているうちに、「じゃあ、ひとり1曲ずつぶっ飛んだ映像作ろうよ!」と盛り上がって。レコード会社や事務所のスタッフはびっくりしてましたね(笑)。

─── 『GUITARHYTHM』でのサウンドやギタースタイルへのこだわり、エフェクトやサウンド空間を最大限活かしたミックスの素晴らしさは、まさにマスターピースと呼ぶにふさわしい作品です。改めてアルバム聴き直してみて、このアルバムをどう評価されますか。

布袋 ミュージシャンとして、いや人生において大きな分岐点であったソロデビューを、冒険と挑戦、アバンギャルドでロマンチシズムあふれたこの作品でスタートできたことには計り知れないほどの意味がある。リスナーの一歩前を行く姿勢を示せたことは大きな自信につながったし、あのときの自分が今も「振り返るな、自由になれ」と僕を前に進めてくれる。“最新の布袋が最高の布袋”と言い続け、自己更新を繰り返し、今の自分が一番好きだけど、この『GUITARHYTHM』は、いつまでも超えられない大きな壁でもあるんです。その壁とは「自分自身」。いつまでも自分に負けない自分でありたい。それが僕の創造の原点なんです。

当連載は毎週月曜更新。次回は7月15日アップ予定。ソロセカンドアルバム『GUITARHYTHM Ⅱ』をお届けします。

プロフィール

布袋寅泰

伝説的ロックバンドBOØWYのギタリストとして活躍し、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビュー。プロデューサー、作詞・作曲家としても高く評価されており、クエンティン・タランティーノ監督の映画『KILL BILL』のテーマ曲となった「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」が世界的に大きな評価を受ける。2012年より拠点をイギリスへ。2014年にはThe Rolling Stonesと東京ドームで共演を果たし、 2015年10月にインターナショナルアルバム『Strangers』がUK、ヨーロッパでCDリリースされ、全世界へ向け配信リリースもされた。2017年4月にはユーロツアー、5月には初のアジアツアーを開催。6月9日から「HOTEI Live In Japan 2019~GUITARHYTHM Ⅵ TOUR~」で全国24ヵ所24公演を巡る。


質問作成:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ) 構成/編集部

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