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KIAC新館長に志賀玲子&新芸術監督に市原佐都子、平田オリザ「この人しかいない」

ナタリー

21/3/22(月) 18:20

左から中貝宗治豊岡市長、平田オリザ、志賀玲子、市原佐都子、田口幹也。(Photo by igaki photo studio)

兵庫・城崎国際アートセンター(KIAC)の館長および芸術監督の交代が本日3月22日に発表された。4月1日より、館長に志賀玲子、芸術監督に市原佐都子が就任する。

これは、本日3月22日にKIACで行われた記者会見で発表されたもの。会見には、志賀と市原に加え、現館長の田口幹也、現芸術監督の平田オリザ、そして中貝宗治豊岡市長が登壇した。

中貝市長は、新館長の交代は、田口からの「多様性を確保し、豊岡における芸術活動がより多彩に展開されるためには、館長を女性から選ぶべきである」という提言がきっかけであったと話す。また、中貝市長は「(平田に)新館長の人選について相談したところ、平田さんからも、ご自身が4月から芸術文化観光専門職大学の学長に就任される関係で、芸術監督を退きたいとの申し出がありました」と、館長、芸術監督そろっての交代となった経緯を説明した。

志賀と市原を推薦した平田は、志賀の推薦理由を「志賀さんがプロデューサーを務めていた兵庫のAI・HALLで、私たちの劇団の公演をご担当いただいて以来、彼女とは30年来の仲なのですが、(館長は)志賀さんしかいないだろうと。むしろ、これだけの人がよく空いていたなと(笑)」と信頼の深さを垣間見せる。さらに「志賀さんは特にダンスを専門にされていますが、演劇界にも造詣が深く、ネットワークも広い。若手の育成もお願いしたいと思っています」と語る。自身の後任となる新芸術監督には「こちらも、市原さん以外いないと思いました。彼女は、名実ともに、今最も注目されている劇作家・演出家で、これから国際的にも活躍していくアーティスト。KIACを新しい拠点として、新しい国際的なネットワークを築いていってほしい」と期待を込めた。

志賀は、AI・HALLや、滋賀・滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールの「夏のフェスティバル」などで、プロデューサーとして活躍してきた傍ら、2007年からは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症した友人の在宅独居生活「ALS-D プロジェクト」をコーディネートし、介護福祉士として介護にあたっていた。自身の経験から「ずっと舞台芸術の“内”で仕事をしていて、“外”から業界を見つめ直すチャンスがなかったのですが、10年ほど舞台芸術のプロデュースから離れたことで、多角的な視点を獲得できたかと。劇場が行っている取り組みが、いかに一般市民まで届いていないかということや、難病の友人にとって、演劇鑑賞へのアクセスがいかに困難か、といったことを実感を持って体感しました」と語り、「芸術というのは、生活に困難を抱えていらっしゃる方にとっても、大きな力になるもの。なので、さまざまな“アクセスを作る”という仕事が必要だと思っています。これから市原さんと一緒にがんばっていきたい」と意気込みを述べた。

市原は、「あいちトリエンナーレ2019」で初演され、岸田國士戯曲賞を受賞した「バッコスの信女―ホルスタインの雌」を、KIACで執筆したことに触れつつ、「滞在して感じたのは、KIACはアーティストをすごく信頼しているということ。作品の芸術性を高めるということを、一番に優先して受け入れてくださる。だからこそ、KIACでは国内外で評価される作品が次々生まれているのだと思います。アーティストにとって、より良い影響を与えることのできる場所でありたいと思いますし、自分も作家なので、国内外で評価される作品をどんどん作っていきたい」と語る。

田口は、6年間の在職期間を「やりがいもあり面白い仕事。思ってもみなかったことが、自分の故郷である豊岡にどんどん起きていきました」と笑顔で振り返り、「ただ去年の春から、豊岡市の主要なポストに就いているのが、男性ばっかりということに違和感を感じ始めました。『豊岡演劇祭』で市原さんの『バッコスの信女―ホルスタインの雌』を拝見して、衝撃を受けて。市原さんや、相馬千秋さんとお話していくなかで、なるべく早いタイミングで女性に交代する、ということが、僕にできる最高のことだと確信しました」と言葉に力を込めた。

質疑応答の時間では、記者から志賀と市原に「KIACで今後どのような取り組みをしたいか」という質問が投げかけられた。志賀は「わかりやすいアートを広く提供する、ということはしていないので、アーティストが何をやろうとしているのか、まず私たちが深く理解し、アーティストと観客の間を取り持つような役割を果たせたら」と答える。

市原は「志賀さんの意見に共感します」とうなずき、「芸術は、ある部分で暴力的な力も持っていて、毒にも薬にもなりえます。ただアーティスト側が一方的に作品を観客にぶつけるだけではなく、そのあとに対話ができれば、より深くその芸術に触れることができるかと」と続ける。

市原の言葉を受けた志賀は「鑑賞後、“わからない”という言葉を聞くことがありますが、その“わからない”ということはすごく大切。市民の皆さんに、一方的に作品を投げかけるだけではなく、受け止めた側からも、わからなかった点や、疑問や質問をアーティストに伝えていただき、対話をすることで、双方とも違うステージに進んでいけるのでは。そのようなことを期待しています」とほほ笑んだ。

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