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『スカーレット』10年ぶりに対面した喜美子と八郎 取り戻せない時間を物語る「さよなら」

リアルサウンド

20/2/11(火) 12:50

 喫茶サニーの指定席でマツ(富田靖子)がこの世を去った。「天国のジョーさんにこれ着て会いに行く」と言って編み上げたセーターを大野夫妻(マギー、財前直見)に見せた矢先の出来事。第109話で三姉妹と並んで「お母ちゃんの幸せな死に方は、こうやって楽しくおしゃべりしてる間に」と話していた通りの穏やかな最期だった。

参考:『スカーレット』第111話では、武志(伊藤健太郎)と喜美子(戸田恵梨香)が初めて2人で居酒屋に

 『スカーレット』(NHK総合)第110話では、マツの死から3年半が経ち、舞台は昭和58(1983)年へ。武志(伊藤健太郎)が大学の寮に入ったことで、喜美子(戸田恵梨香)は家にひとりでいる時間が増えた。静けさを破るようにベルが鳴る。電話の主は八郎(松下洸平)だった。

 八郎と喜美子の対面は、初めて穴窯での窯焚きに成功したとき以来。喜美子は八郎に武志の学費として毎月欠かさず仕送りをしてくれたお礼を言い、八郎は、武志と会った日のことを話す。進学の相談をするため、5年ぶりにやって来た我が子と対面した八郎は、並んでたぬきそばを食べようとするが、「胸がぐっと詰まってしまって、箸を持つ手が止まってしまったんです」とその時の様子を語る。

 武志は何も言わずに、父が食べ出すのを待ってから「黙って、ゆっくり、えらい時間をかけて」並んでそばを食べた。食べ終わって「最後は、2人で顔を見合わせて笑いました」。喜美子はうつむきながらその話を聞いていた。向き直って「ええ子に育ててくれて、頭下げなあかんのはこっちのほうです」と八郎は言い、なおも「僕が至らんかったばっかりに……」と続けようとするが、それを喜美子はさえぎって「お互いもう済んだ話や。終わった話です」と言って会話を終わらせた。

 出て行った八郎を引き止めなかったあの日から、思い出しては何度自分を責めたかわからない喜美子にとって、目の前にいる八郎は二度と取り戻すことのできない時間でもある。そのことは八郎にとっても同じだが、“逃げて”しまった八郎が懐かしさから見せる親しみを、喜美子は穏やかに、しかしきっぱりと拒否する。留守番電話に残されたくしゃみを「川原さんですよね」と聞く八郎に、喜美子は「違います」と否定。恋に落ちるのは風邪を引くようなものかもしれないが、2人の間にもう魔法がかからないことを端的に表していた。

 「お元気で」と言葉を交わし、「さよなら」と言って去っていった八郎。マツも亡くなり、喜美子と八郎をつなぎとめるものはないが、2人が残した存在である武志は無事に大学を卒業して信楽に帰郷。久々に永山大輔(七瀬公)と宝田学(大江晋平)との同級生3人組もそろい踏みし、にぎやかに春を迎える。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。

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