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宮本浩次、変化を続ける自在な歌唱表現 ソロとエレカシ双方におけるパフォーマンスの振り幅

リアルサウンド

20/9/11(金) 12:00

 9月12日にオンエアされる大型音楽特番『THE MUSIC DAY 人はなぜ歌うのか?』(日本テレビ系/以下、THE MUSIC DAY)に宮本浩次が出演。2018年よりソロシンガーとして本格始動した宮本は、今回エレファントカシマシと共にソロ名義でもラインナップされている。本稿では、ソロとエレカシにおける宮本の歌唱表現の振れ幅や魅力を改めて振り返りたい。

宮本浩次-冬の花

 ソロにおける宮本の変幻自在な歌唱は、今年4月に発表した1stアルバム『宮本、独歩』で堪能できる。「冬の花」では歌謡曲に根差した艶っぽい歌い回しを聴かせ、「解き放て、我らが新時代」ではラップやポエトリーリーディングに接近した口調で野性味溢れる声を響かせ、ダンサンブルなファンクナンバー「きみに会いたい -Dance with you-」ではキザでしなやかなボーカルを乗せる。エレファントカシマシの楽曲にも部分的にはこういった音楽の要素は取り入れられているが、ワンジャンルに特化しているのは珍しい。楽曲の多彩なアレンジ/メロディラインにとってベストな歌唱を見事に引き出しているのだ。

宮本浩次 -「解き放て、我らが新時代」(アルバム『宮本、独歩。』初回限定612バースデーライブ at リキッドルーム盤より)

 その特徴的な声質はカバー曲でも存分に力を発揮する。特に女性ボーカルのバラード曲を歌い上げる際の美しいファルセットは温かな感傷をもたらす。エレカシのスローテンポな楽曲であれば高音を伸ばす際にしゃがれた声を出すことも多いが、2020年4月に『ミュージックステーション』で歌われた松田聖子「赤いスイートピー」や、2019年12月『The Covers』で歌われた小坂明子「あなた」のカバーでは一貫して透き通る歌声を披露していた。楽曲のイメージを実直に届けるために磨かれた丹念な歌唱である。9月16日リリースの最新シングル『P.S. I love you』のカップリングでは太田祐美「木綿のハンカチーフ」を流麗なストリングスと共にカバー。その可憐な歌声に話題が集まること間違いなしだ。

 一方、エレファントカシマシにおける宮本の歌唱はどうか。太く逞しく、ローもハイもふくよかで、けたたましくシャウトを放つ歌声。ロックバンドのボーカリストとしてグルーヴのど真ん中にずっしりと鎮座する圧倒的な存在感である。改めて初期の「ファイティングマン」や「月の夜」などを聴くと、少しの若々しさはあれどもその勢いや熱さは今と変わらない。「男は行く」や「珍奇男」などのたっぷりとした歌の間合い、コブシの効いた節回しなど、当時から独自の道を開拓し続けてきたことは明白である。彼の声が届ける言葉は苛烈なもの、優しいもの、怒りについて、喜びについてなど様々だが、どんな感情も鮮明に耳に届く。彼のボーカルは言葉を生きたまま可視化するようなはっきりとした輪郭を持っている。

エレファントカシマシ「Easy Go」Short ver.

 近年もエレカシでの歌唱表現も進化し続けているように思う。現時点での最新作2018年の『Wake Up』はバリエーションに富む最新型のサウンドの中、経年変化によってより強靭になった歌声が刻まれている。シンガーの歌声には枯れることで生まれる味わい深さもあるはずだが、宮本は未だに生命力が滾り続けており、ギリギリまで絞った喉でパワフルな歌声を轟かせる。その傍らで歴史を重ねてきたことで滋味豊かな質感を携えている面もある。バラードやフォーキーな曲で聴かせる穏やかで凛々しい歌声もエレカシの大いなる強みだろう。重厚な演奏の中、日本語のロックミュージックを体現する。その上でこれほど相応しい歌声はない。

エレファントカシマシ「夢を追う旅人」

 そしてソロにおいても、エレカシで聴かせる“ロックバンドのボーカリスト”の側面をより先鋭化したような表現も光る。軽快な「going my way」、攻撃的な「Do you remember?」、跳ねるようなポップさを持つ「ハレルヤ」、カラーが異なる3曲の中で聴かせる爆発的でエネルギッシュな歌声は強烈な記名性が際立つ。自身の持ち味はどんな曲調の中でも消せない。そんな誇りめいたものを感じてしまう。椎名林檎とデュエットした「獣ゆく細道」はジャズのリズムの中で暴れ回り、東京スカパラダイスオーケストラに客演した「明日以外すべて燃やせ」ではスカサウンドを前のめりで乗りこなす。珠玉のコラボレーションの礎にあるのはエレファントカシマシで培ってきたボーカリゼーションである事実は揺るぎない。

椎名林檎と宮本浩次-獣ゆく細道

 『THE MUSIC DAY』はソロシンガーとして邁進を続ける宮本浩次と、翌年に結成40周年を控えたエレファントカシマシを1日のうちに楽しめる絶好の機会だ。今なお変化を止めない宮本の歌声をソロ/エレカシで聴き比べて楽しめるはず。

宮本浩次 - P.S. I love you

■月の人
福岡在住の医療関係者。1994年の早生まれ。ポップカルチャーの摂取とその感想の熱弁が生き甲斐。noteを中心にライブレポートや作品レビューを書き連ねている。
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